第19話 テオドール拉致事件
(テオドール様が連絡なく帰って来なかったことは一度だけあった。悪魔崇拝組織の集会に乗り込んだ時……。今もそういう状況なのかしら……)
湯浴みに行かず、重厚な玄関扉を見つめるシャルロットに、メイド長のマーサが声をかける。
「シャルロット様、旦那様がお帰りになりましたらお声がけいたしますので、湯浴みをされてはいかがですか」
「そうね……」
話していると、突然玄関扉が開いた。
「すみません!」
扉を開けたフットマンを押し退け、勢いよく飛び込んで来たのは、テオドールの部下のジョンだった。
「ジョンさん!? 額から血が……」
「シャルロット様、申し訳ありません!」
額のケガを放置して頭を下げるジョンを見て、シャルロットは嫌な予感しかしない。
「テオドール様といつものように平民街を巡回した帰り、背後から薬品を嗅がされ……気絶している間にテオドール様が拉致されました……」
「そんな……」
シャルロットの顔から血の気がひく。
「オレは警察本部に戻って捜索開始します! テオドール様はフィリス国家保安警察の名にかけて絶対に見つけます!」
一気に言い終えたジョンはシャルロットの返事を聞くことなく、グレイヴン邸宅を飛び出した。
「……シャルロット様、今はお部屋に戻って待ちましょう」
メイド長のマーサは今にも倒れそうなシャルロットを気遣って、寄り添いながら寝室に誘導した。
(何か手がかりがあれば視て情報を掴めるかもしれないのに、遺留物がなければ私は役立たずだわ……!)
寝室に戻った後もシャルロットはベッドに横にならず、ソファーでうなだれる。
(テオドール様、どうか無事帰って来て……!)
「ーーシャルロット様! テオドール様がお帰りになりましたよ!」
シャルロットの寝室に若いメイドが飛び込んで来て、シャルロットの目が開く。
窓の外はすでに明るく、鳥の囀ずる声が聞こえる。
朝になっていた。
(私、いつの間に眠って……)
ソファーから飛び起きたシャルロットは弾けるように寝室を飛び出し、玄関へ走った。
そこには、出かける前と同じ姿のテオドールがいた。
「テオドール様……無事で良かった……」
泣き崩れるシャルロットにテオドールが駆け寄る。
「おおシャルロット、愛しい妻よ。泣かないでおくれ。君に涙は似合わない」
「え!?」
テオドールは怪訝な顔で見上げるシャルロットに構わず、彼女を抱き寄せようと腰に手を伸ばした。
「貴方、誰!? テオドール様は断りなく私に触れたりしないわ!」
シャルロットは後退りながら、鋭く叫んだ。




