第17話 二人の関係
すると、テオドールが馬車と反対方向に歩き出したので、シャルロットは戸惑った。
「テオドール様、どこかに寄るのですか」
「ああ。カフェに行こう、糖分を補給するため」
シャルロットは、まためちゃくちゃ歩かされる!? と内心構えたが、少し歩いただけで着いたのでホッとした。
店内は煌めくシャンデリアに美しいタペストリーなど内装が華やかで、ドレスの令嬢やマダムが静かに歓談をしながらスィーツを楽しんでいる。
テオドールは奥の席を選んだので、シャルロットは向かい側の席に腰を下ろした。
(テーブルが大理石だわ! さすが上流階級しか来られないカフェだけあるわ)
「好きなものを頼みたまえ」
シャルロットが大理石のテーブルに驚いていると、テオドールがメニューを開いて見せた。
「わぁ、いろいろあって悩みますね」
「時間はあるからゆっくり選んだら良い」
スィーツの絵がひとつひとつ描かれているので、わかりやすい。
「私は苺のミルフィーユとアッサムティーにします」
シャルロットが言うとテオドールは給仕を呼び、注文をした。
「テオドール様はよくこのお店に来られるのですか」
「そうだな、仕事の休憩で利用することがある。君も来たい時は利用すると良い」
「えっ、私一人で外出していいのですか?」
「ああ。護衛は付くが」
(こんな素敵な店に自由に来ていいなんて、うれしいっ!)
シャルロットは両親に行動やお金を制限されていたので、こういった店に自由に来ることもできなかったのだ。
「通いつめて全メニュー制覇したいです」
「期間限定もある」
「まあ、素敵……!」
雑談をしているうちに、シャルロットが頼んだ苺のミルフィーユが運ばれて来た。
一番上には赤く色づいた新鮮な苺がぎっしりと並び、その下にパイ生地・カスタードクリーム・苺・パイ生地の順でサンドされていてとても美味しそうだ。
テオドールが注文したコーヒーとオペラが来たので、二人は食べ始める。
「いただきますっ」
さくっとしたパイ生地はバターがたっぷり。
カスタードクリームは甘く、苺は酸味があって爽やかな味わい。
「美味しいです……!」
「それは良かった」
美味しさにうち震えるシャルロットにテオドールが無表情で相槌を打つ。
優しい声だった。
食べ終えて店を出ると、
「あっテオドール様ー!」
と遠くから声が聞こえて。
声がした方を向くと、大柄な若い男が走って来た。
「ジョン、巡回中か」
「ハイッ! テオドール様がお休み中なので、念入りに見回ってます!」
テオドールにジョンと呼ばれた青年は、焦茶色の髪にきりっとした太めの眉が実直そうだ。
(テオドール様の部下の方……?)
「ところで、そちらは奥方のシャルロット様っスか?」
「そうだ」
「初めまして! オレ、ジョンって言います!」
「妻のシャルロットですわ」
「いやぁ良いっスね、休日にかわいい奥様とデートなんて羨ましいッス」
(デート!?)
シャルロットが驚いて固まっていると、遠くでジョンを呼ぶ声が聞こえて来た。
「いっけね、相棒置いてきちゃったんで戻ります! 失礼しまっス!」
ジョンはテオドールの返事を聞く前に走り去った。
テオドールが小さく溜め息をつく。
「大型犬のように騒がしいヤツだ」
「楽しい方ですわね」
二人が乗った馬車がゆっくりと動き出す。
シャルロットは窓から風景を眺めながら、先ほどのジョンの発言を思い返した。
(事情を知らない人間からはデートに見えるのね。
テオドール様は、以前私がサイコメトリーを使った後は甘いものが食べたくなると言ったから、カフェに寄ってくれただけなのに)
◇◇◇◇◇
数日後。
「では行って来る」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
仕事に行くテオドールを見送ったシャルロットが自室に戻る途中。
使用人達の部屋の方から休憩中のメイド達が話す声が聞こえて来た。
いつもは特に気にもせず、通りすぎるのだが。
「……って、テオドール様とシャルロット様じゃない?」
自分達の名前が聞こえて、無視できなかった。
「何のお話?」
「シャルロット様!?」
メイド達はひょっこりと覗かせた顔を見て、驚きの声を上げる。
まさかの本人の登場に皆慌てふためいたが、中心にいるメイドが手に持った本をシャルロットに見せた。
「これは今日発売した若い女性向けの雑誌なのですが、載っている恋愛小説が……テオドール様とシャルロット様に似てないか?という話になりまして……」
「えっ!?」
予想外の話になり、シャルロットは驚きと戸惑いの混じった声を上げる。
「あなた達、休憩時間は終わりよ」
メイド長が呼びに来たので、シャルロットは若いメイド達に、
「みんな仕事に戻って大丈夫よ。この雑誌、少し借りていいかしら?」
と尋ねた。
雑誌の持ち主のメイドが強く頷く。
「もちろんですとも!」
「ありがとう」
シャルロットは雑誌を持って自室に向かった。
「さてと……一体どんな内容なのかしら」




