第15話 未然の贋作作家①
「わぁ……素敵なお店がいっぱい」
馬車の窓から眺めていたシャルロットが、思わず感嘆の声を上げる。
テオドールに連れられて訪れた場所は、上流階級専門の高級店街だ。
きらきらと輝く宝石、華やかなドレス、美しい食器、豪奢な家具、美味しいスィーツーーお金があればどんなものも手に入る、夢のような世界。
「結婚贈答品ならば、ギャラリーに行くか」
「テオドール様はよく行かれるのですか?」
「仕事でしか行ったことがない。基本は巡回だが、稀に強盗被害や絵画の贋作詐欺などの犯罪で関わることもある」
「ご、強盗……」
普段、テオドールは王都の犯罪を取り締まる仕事をしている。
シャルロットは物騒な単語を聞き、気を引き締めた。
(高級店が集まっているとそういう危険も出てくるわよね)
馬車を降りてギャラリーに入ると、すぐに店の主人がやって来た。
「テオドール様、いらっしゃいませ! 今日はどうされました?」
「モリス、ユーリとカティア王女の結婚祝いを買いに来た。何かお薦めはあるか」
「ああっそうでございますか。ご結婚祝いですとーー」
ギャラリーの主であるモリスが、お薦めの美術品をざっと説明しながら店の中を案内していく。
著名なアーティストが作った美しいランプ、精緻な細工が華やかな彫像など、テオドールとシャルロットはひとつひとつ吟味した。
(どれも良くて迷ってしまうわ)
「絵画もお薦めですな。割れたりもしませんし」
モリスが次に案内したのは、絵画のコーナー。
大きな絵から卓上サイズの小さな絵、風景画から人物画まで壁いっぱいに飾られている。
「なんて美しい……」
思わず呟いたシャルロットの視線の先にあるのは、隅に飾られた油絵。
それは湖の絵だった。
アクアマリンのように煌めく水面は本物と見紛う美しさで、見ているだけで心が癒されていくようだ。
「さすがグレイヴン公爵夫人、お目が高い! これは新進気鋭の画家ミラン・ヒースが描いた、コートゥナ王国にある湖の絵だそうですよ」
「コートゥナ王国の……!?」
カティア王女の祖国であるコートゥナ王国。
テオドールとシャルロットは目を合わせた。
「テオドール様、ぴったりではないですか?」
「ああ。モリス、これを買おう」
「かしこまりました!」
モリスが壁から絵画を外して、「ご確認をお願いいたします」とシャルロットとテオドールの目の前に差し出した。
「間近で見ると一段と美しいですわ。この水面、本物の水にしか見えない……」
言いながら、シャルロットは無意識に右手の人差し指でそっと絵を撫でた。
(しまった、手袋してないのにさわっちゃった!)
すぐ指先を離そうとした瞬間。
脳裏に声が流れるーー
『我ながら自信作だ、売れるといいな……ボクは絶対に贋作なんて描きたくない……!』
(えっ!?)
「特に問題ないな、シャルロット?」
「え、ええ」
テオドールの声で我に返ったシャルロットは、平静を装って返事をした。
「では、お包みいたしますので、あちらのお部屋でお待ちくださいませ」
「ああ」
モリスに促されて、テオドールとシャルロットは個室に入り、ソファーに腰を下ろした。
隣に座ったテオドールが、シャルロットに小声で耳打ちする。
「何か視えたのか」
「すぐ離したので、声だけ聞こえたのですが……」
シャルロットは小さな声でテオドールに聞こえた内容を教えた。
「贋作依頼か。まだ描いてなければ、罪に問えない」
「ですよね……」
シャルロットは腕を組んで考え込む。
「描きたくないという言い方が気になりますね……」
「考えられるのは、脅されているか、生きるために描かざるを得ないか」
「じゃあーー」




