第13話 ユーリの結婚相手③
挨拶が終わり、軽食を食べながらの歓談の時間になったが、シャルロットは気もそぞろだった。
テオドールが隣に座っているが周囲に人々がいるため、相談ができなくて歯がゆい。
何とか微笑を保ちながら周りの貴族と歓談をし、さりげなく周囲に視線を走らせる。
「フィリス王国はさすがブドウが特産品なだけあって、ブドウのジュースもとても瑞々しくて美味しいですわ!」
クリスタ王太子妃が快活に話す声が聞こえて、シャルロットはちらりと見た。
(本当だ、クリスタ様は笑っていらっしゃるけれど、顔色があまり良くない……。
カティア様が鋭い目でクリスタ様を見てる?)
カティア王女はクリスタ王太子妃の斜め向かいに座って、キッシュを食べながらも視線はクリスタ王太子妃から外さない。
(睨んでると言うか、凝視していると言うか……?)
歓談が終わり、宮廷楽団が演奏する音楽が変わった。
ダンスの時間だ。
ユーリはカティア王女にお辞儀をしてから手を差し出し、カティア王女はその手を取った。
他の上位貴族達もそれに倣う。
テオドールとシャルロットも両手を合わせ、ワルツを踊り始めた。
踊っていて顔が接近した僅かな時間、テオドールがシャルロットにだけ聞こえる声で囁いてきた。
「考えていたのだが、本人を視られないならば、場所を視るのはどうだ? コートゥナ王国だったらどうしようもないがーー」
「場所……!」
(そうだわ! カティア王女がキルケ王子を叩いた場所にも、記憶が残っているはず!)
テオドールの提案を聞いて、シャルロットは目の前がパァッと拓けたような心地になる。
(触れた時に視えた映像が鮮明だったから、最近の記憶なはず。
我が国に滞在中に起きた可能性が高い。
背景にあった数本の細い柱、レリーフに特徴があったわ。
蔓のようなものと、刃物のような……あら? このモチーフってなんだか見覚えがある……)
シャルロットは優雅にダンスをしながら、様々な角度から推理をした。
くるりとターンをした直後、シャルロットの目が一瞬驚いたように見開く。
(わかった!)
テオドールと手を繋いだままシャルロットがくるりと体をひねり、最後のポーズを優雅に決めた。
パーティが終わるとすぐにテオドールはシャルロットに話しかける。
「場所が判明したのか」
「はい。行きましょう」
シャルロットが歩き出した方向を見て、テオドールがついていく。
「……王宮の庭にあるのか?」
「ええ」と返事をしながら歩を緩めないシャルロット。
「ターンをした時に、同じものが視界に映ったのです。あの柱――」
シャルロットが指差した先にあるものを見たテオドールが目を見開いた。
「あれは、王宮のガゼボの柱だったのか」
王宮の庭の隅にある東屋は、8本の細い柱の上に半球型の屋根がついている。
「レリーフが特徴的なんです。王宮のガゼボということで、フィリス王家の紋章に使われているブドウの蔓と剣をモチーフにしているのでしょう」
ガゼボの中に入ったシャルロットは、描いた絵をポケットから取り出して、柱や植物の位置を見比べた。
「ーーここです」
シャルロットが呟きながらしゃがみ込み、手袋を外してガゼボの床に触れる。
頭の中に映像と音声が流れ込んできたーー
『ぉええっ! がはっごほっ!』
子供が激しく咳き込む声の後、ガゼボの床に何かがころりと落ちた。
紫色の丸い実ーーブドウが一粒。
『キルケ! あぁよかった!』
カティア王女の、涙混じりの安堵の声。
「ーーという光景が視えました」
「成程。キルケ王子がガゼボでブドウの実を喉に詰まらせて、カティア王女が背中を叩いて吐き出させたのが真相か」
「おそらく」
テオドールが珍しく安堵の溜め息を深く吐いたので、シャルロットは少し驚いた。
「カティア王女はキルケ王子だけでなく、フィリス王国も救ってくれたな」
「?」
「もし他国の幼い王子が我が国に滞在中、我が国のブドウを喉に詰まらせて亡くなったら、大変なことになっていた。
しかも、次期次期国王。
間違いなく外交問題に発展していた。
戦争が勃発してもおかしくない」
シャルロットは最悪の事態を間一髪で回避していたことに戦慄した。
「カティア王女が、冷静で勇気のある方で良かったですわね……」
震える声で呟くシャルロットにテオドールは頷く。
(自分がもしその立場だったら、素早く冷静に判断ができるかしら)
「ああ、本当に。ユーリに報告せねば」
テオドールとシャルロットは立ち上がり、馬車に向かって歩き出した。
「テオ!」
グレイヴン家の馬車に乗ろうとしている二人に声をかけた人物は、ユーリだった。
「丁度いい、お前も乗れ」
テオドールに言われ、ユーリも馬車に乗り込む。
「その様子だと解決した?」
シャルロットとテオドールの顔を交互に見て言うユーリ。
「はい。実はダンスを踊っている時ーー」
シャルロットは事の顛末を説明すると、ユーリが安堵の笑みを浮かべる。
「さっきカティア王女とクリスタ王太子妃と話をしたんだけどさ」
シャルロットがテオドールとガゼボに向かっていた時。
ユーリはコートゥナ王族達と雑談を交わしていた。
その間もカティア王女はクリスタ王太子妃をじっと見つめていて。
すぐにクリスタ王太子妃が笑い出した。
『カティア、そんなに見つめられたら照れちゃうわ!』
『だって、貴女は大変な時も笑顔で頑張ってしまうから、見張っているのです』
「ーーって言ってたんだ」
「カティア王女は睨んでたんじゃなくて、心配で見守っていたということですか!?」
ユーリの話を聞いたシャルロットが、食い気味に尋ねる。
「切れ長の目の形状は、ただ見ているだけなのに悪い風に誤解されがちだ。私も経験がある」
そう話すテオドールを見て、シャルロットはポツリと呟く。
「そういえば、カティア様とテオドール様って少し似てますね」
「目の形状だけではないか?」
「あ~~~~わかる!」
当のテオドールはピンと来ていない様子だが、ユーリは頭を抱えて強く肯定した。
「……そっか、それならうまくやっていけそうだなぁ」
ユーリの呟きはとても小さく、シャルロットだけに届いた。
ーー翌日、ユーリとカティア王女の婚約が発表された。
それから、クリスタ王太子妃の懐妊も。
◇◇◇◇◇
「テオドール様、ユーリ様とカティア様に贈るご結婚のお祝いは何にしましょう?」
シャルロットがうきうきとした表情で、テオドールに尋ねる。
「そうか、そうだな……」
テオドールは今まではそういうことは執事に任せていたのだが、結婚した今はグレイヴン夫人であるシャルロットの仕事だ。
「今日は休養日なので、見に行くか」
「いいのですか?」
「ああ。他にも買いたいものがあれば行こう」




