第5話『勇者と騎士』
お久しぶりです。
2週連続で更新できる所まで書けました。と思ったら投稿セットし忘れるというポカをやらかしました。
油断大敵、私の苦手な言葉です。
というわけで2ヶ月ぶりの最新話をどうぞ。
早朝。村長の屋敷の庭で、俺は鍛錬を行っていた。
刃を振り下ろす度、毛先から汗が飛ぶ。先祖代々受け継がれてきた剣技の型。幼少期より反復してきたそれを、木剣ではなく真剣で、鎧を着たまま繰り出す。
毎朝続けてきた、いつも通りの鍛錬。
しかし今、俺の胸中は普段とは異なる感情で埋まっていた。
「足りない……!」
それは強さへの渇望。これまで積み重ねてきたものが崩れていくような感情に抗うように、何度も剣を振り下ろす。
昨日、俺はあのゴブリンに敗北した。あの場にアカギが現れなければ、おそらく死んでいただろう。
それだけじゃない。俺が倒れても、リア様を逃すことさえ出来るならまだ良かった。だが、あの時の俺はそれすらもままならなかった。それが何より悔やみきれない。
なにより、リア様を守れるのはもう俺だけだ。その俺が弱くては話にならない!
これでは騎士としての使命を果たすなど……。
俺がもっと強ければ。俺にもっと力があれば。
星3級に認定された俺が、武具の力に胡座をかいた格下に負けるなんて……。この雪辱は晴らさなければならない!
ふと、何者かが背後に立つ気配を感じた。
「誰だ!?」
反射的に剣を向け、振り返る。
「うわあっ!?」
「……アカギ殿か」
そこには、腰を抜かしたアカギの姿があった。
剣が届く距離ではないが、背後に立たれるまで気付かなかった。気が乱れていたか……。
「タツヤでいいですよ。それかレッドと呼んでください」
「剣士の背後に立つど、あまり褒められたものではありませんよ」
「すみません……お邪魔でしたか?」
「いえ、丁度手を止めようと思っていた頃です。お構いなく」
剣を収め、脱力する。その間にアカギは立ち上がった。
昨日とは服装が違う。どうやら村長から余っていた衣服を借りたようだ。
「いや~、日課の走り込みで屋敷を1周していたら、ブルーノ殿を見かけたもので。近くで見たかったのでつい」
「なるほど」
「それにしても、見事な剣技ですね」
「我がグラム家に代々受け継がれてきた技です」
「やっぱり、本職の人は動きが違うなぁ。なんていうか、躍動感と迫力が桁違いだ」
「本職……?」
思わず首を傾げた。まるで自分は戦士ではない、とでも言うような口ぶりだが……。
「ええ。私も一応、剣道や格闘術は齧っていますが、あくまで趣味の範囲でして。ブルーノ殿のような実戦向きの動きに比べれば、とてもとても」
「ご謙遜を。ただの趣味程度の鍛錬で、あれだけのゴブリンが倒せるわけが……」
そこまで言って、ふと思いつく。
言葉を交わすよりも確実な方法があるじゃないか。
「なら丁度いい。アカギ殿、ひとつ手合わせ願いたい」
「手合わせ、ですか?」
アカギは首を傾げる。
「ハッキリ言おう。正直な所、私は貴殿が勇者である事を認められていない。無様を晒し、助けられた身ではあるが……何処の馬の骨とも知れない異界の民が、“勇者”の名を受け継ぐなど、手放しで受け入れられる事ではないのだ」
「……ええ、ご尤もな考えかと」
「自覚はある、と」
てっきり不満を抱かれるものだと思っていたが、アカギは思いの外素直に俺の言葉を受け止めた。
「そりゃあ勿論。この世界の人間ならともかく、私は異世界人ですから。私がブルーノ殿の立場であれば、同じ考えを持ったでしょう」
「では、この手合わせの意図もご理解頂けますね?」
「剣を以て私を測り、戦いの中で信用に足る男かを見定める……といった辺りですか」
「ご明察」
「いいですよ。私も、自分がどこまで戦えるかを知っておきたいと思っていましたから」
「では、こちらを。決着は寸止めで」
立てかけてあった訓練用の木剣を投げ渡す。
アカギは受け取った木剣を何度か振り、やがて俺の正面に立った。
朝の風が互いの頬を撫でる。視線が交差し、緊張が走る。
昨日の光景が頭をよぎった。たった一人でゴブリン達に挑み、彩やかな剣筋で勝利を収めたあの姿。果たしてこの男の剣は如何程のものか……。
「いざ……始め!!」
勢いよく踏み込み、俺は木剣を振り下ろした。
□□□
「これはいったい……?」
あれから数分後。俺は困惑していた。
勝負はたった一撃で決着したのだ。俺の圧勝という形で。
俺の剣先が奴の喉元を捉えること、10戦中10回。
思わず何度かやり直したが、結果は同じだった。どういう事だ……?
アカギの剣筋は素人ではない。足運びも悪くない。確かに鍛錬を積んできた者の動きだ。
……だが、それだけだ。昨日の戦いで見た姿と、あまりにも噛み合わない。
「なるほど……お見事です、ブルーノ殿」
「手加減をしておられるわけではない、と?」
「ええ。どうやら鎧の力を借りなければ、私の力はこの程度のようです」
「……は?」
耳を疑った。“鎧の力”だと……?
何を言っているのか、一瞬理解できなかった。
魔法を込めた武具『魔導具』による身体能力の強化や、戦闘の補助であれば珍しいものじゃない。
だが、戦闘能力そのものを与える魔導具など聞いた事がない。あまりにも無法すぎる。勇者の鎧にそんな力があるという話も初耳だ。
「鎧を纏っている間は、体が勝手に最適な動きを選んでいるというか……平時よりも格段に動きが良くなっている感覚があります」
「では、昨日の剣技まで鎧によるものだと言うのか?」
「全部がそうではないはずです。おそらく、基礎が甘い人間では振り回され、まともに動けないのではないかと……」
「アカギ殿、よろしければ鎧を纏った上でもう一度手合わせしてもらっても?」
「ええ。この仮説を証明するためにも、検証は必要ですから」
アカギは独特な構えを取り、腕輪を天へと掲げる。
「テンセイチェンジ!」
掛け声と共に赤い閃光に包まれ、勇者の鎧が顕現する。
「テンセイレッド、参上!」
「それではいざ、もう1戦!」
互いに構え、再び向き合う。
朝日に照らされた燃えるような赤は、認めたくはないが神々しさを感じる。それに、構えは同じだが先程までとは気迫が違うようだ。
「始め!」
今度はアカギが踏み込むのが先だった。瞬く間もなく眼前まで接近され、木剣が振り下ろされる。
「ハァッ!!」
「ッ!!」
後方に跳んで避けるが、アカギの木剣から発された風圧が肌を撫でる。
「なるほど、確かに動きが段違いだ……だが!」
「ハアアアッ!!」
薙ぎ、逆袈裟、突き。素早く、連続で繰り出される斬撃。しかし動きが単調で読みやすい。
これで勇者を名乗るなど……認めるものか!
そろそろ終わりにしよう。
俺はアカギの木剣を受け止めると、そのまま受け流す。
「勝負あったな!」
刃が落ちるのと同時に、俺の切っ先がアカギの喉元へと届く……はずだった。
「フンッ!」
「なにっ!?」
アカギは左腕の籠手で木剣を受け止め、そのまま刀身を掴む。まずい、これでは剣が引けない!
「隙ありだぜ!!」
そのまま木剣ごと体を引っ張られ、俺は体制を崩す。
その先には木剣を手放したアカギの拳が迫り……。
「……お見事」
「おう、ありがとな。あ、でも木剣手放しての寸止めって、ルール違反だったりするのか?」
「いや、拳や足でも問題はない。むしろその判断力の高さに賞賛を送りたいところだ」
そこまで言って、ふと引っかかってしまう。
今の判断は、アカギ自身のものなのか。それとも勇者の鎧が導いたものなのか。
……分からない。俺はこの男を、素直に賞賛していいのだろうか?
強いのは確かだ。鎧込みなら、最低でも俺と同格くらいの力はあると見ていい。
だが、勇者とは本当にそういうものなのだろうか……。
俺が憧れてきた勇者とは、自らの力で人々を導く英雄だったはずだ。
剣で語らせればこの男をより知る事ができると思ったが、剣を交えたことでより曖昧になってしまった気がする。
“勇者”とは何だ?
神に選ばれた英雄か。あるいは、人を英雄へと変える力そのものか。
……分からない。アカギ・タツヤ、お前はいったい何なんだ?
「ブルーノ殿? おーい?」
「……いや、失敬。考え事をしていた」
気づけばアカギは鎧を脱いでいた。どうやら思った以上に考え込んでいたらしい。
「勇者殿。この事は他言無用でお願いしたい」
「と言いますと?」
「私を含め、この国の人間の多くは勇者を信奉している。その勇者の力が魔導具由来のものだと思われれば、大きな反発を招くだろう」
「……なるほど。反転アンチを生みかねない、と」
「反転……なんです、それは?」
「いえ、こちらの話です」
「そうですか……」
相変わらずよく分からない言葉を口走る男だ。異世界の言語だろうか?
ともかく、釘は刺しておいた。俺一人でさえこうなのだから、他の者に聞かれるわけにはいかないだろう。
「他言無用ってことは、リア様にも?」
「ああ。頼む」
「そうですか……承知しました」
「そろそろリア様が起きる頃だ。戻るぞ」
俺はアカギから木剣を受け取ると、屋敷の井戸へと足を向ける。
「ブルーノ殿」
「なんだ?」
「私を信用できるかどうか、答えを聞いていないのですが!」
ああ、そうだった。考え事だらけで答えを出していなかったな。
「まあ……護衛が1人増えた、程度の認識はしておきます」
「つまり、合格って事でいいんですか?」
「戦力としては認める、というだけです」
「ええ、十分です」
アカギは満足そうに頷いた。
「まずは一歩。その先の信頼は、時間をかけて勝ち取ります」
「……そうか」
その屈託のない顔が、少し眩しく見えた。
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次回もお楽しみに!




