第4話『4カード!!魔王に仕えし四天王』
2週間も更新を空けてしまった……。
キリのいいところで区切りたかったので、今回は短めです。
龍也がリア達と出会ったのと同じ頃。
王都シリウスは5日前まで賑わっていたとは思えないほど、変わり果てた場所となっていた。
雷雲に包まれれたままの空。建物は崩れ、石畳は割れ、人の代わりに魔物が闊歩し、静寂と唸り声が支配する。
崩壊した中央広場には、魔剣要塞ティルフォートレスがその切っ先を大地に突き立てていた。
「テンセイレッドだと? ふざけた名前だ」
窓からの薄明かりと、紫炎の灯った松明が照らす仄暗い広間。最奥の玉座にて黒コートの男が呟いた。王都上空からリュコス王国全土へと宣戦布告した、魔将ゼクスである。
その眼前には砕けた水晶玉があり、先程まで眺めていたのが伺える。ゼクスが指を鳴らすと骸骨兵が現れ、水晶の破片を掃除し始めた。
「だが、星3級装備を与えたキングゴブリンが敗れたのは事実。相手が勇者では星1級の群れと、下駄を履かせた星2級程度では相手にもならんか」
期待外れだと言わんばかりに、ゼクスの声は冷淡だった。血斧のゴーキンと名乗っていたゴブリンは、名前ですら呼ばれていない。
「我がしもべ達よ」
「はぁい♡」
「おう!」
「ただ今」
暗がりから囁き声を伴って、一人の女がぬるりと現れる。
青白い肌に真っ赤な目、腰まで届く長い黒髪。頭の上にとんがり帽子。露出の多い服装は影を身に纏っているかのような漆黒。その風貌はまさしく“魔女”であった。
「“影の魔女”ミスティ、ここに」
ミスティとは反対の方向からは、轟くような声と共にもう一人の女がやってくる。
筋骨隆々とした褐色の肌、ミスティと同じく赤い目。被ったフードの内側からは肩より上で揃えられた金髪が見え、荒々しい雰囲気が漂っていた。
「“破壊の魔女”ストラ、ここに」
そして正面。金縁の刺繍を施された黒い祭服に身を包み、顔全体を白塗りにした司祭が錫杖を手に現れた。
「“暴食の司祭”ブロ、ここに」
2人の魔女と怪しげな男が、ゼクスの前に跪く。
集った彼らを満足げに見下ろしながら、ゼクスは命じた。
「侵略の経過を報告せよ。まずはブロ、お前からだ」
「はい。ご命令通り、戦力拡充を続けております。ゴブリン兵、骸骨兵、それにワイバーン。我が工房にて随時召喚し、武装させ、各地へ送り込む手筈は整いつつあります」
「素晴らしい仕事ぶりだ。そのまま続けよ」
「ははっ」
ブロは報告を終えると半歩下がって控える。
「ミスティよ、王都の人間どもはどうしている?」
「小癪にも抵抗を続けておりますわ。国王や宰相どもは籠城したまま。市民はパラディンどもに守られ、教会や聖堂に閉じこもっております」
「フッ、防戦一方というわけか。よい、そのまま現状を維持するのだ」
ミスティからの報告を受け、笑みをこぼすゼクス。
そこへ、ストラが跪いたまま手を挙げた。
「悪ぃゼクス様、ひとつ聞かせてくれるか?」
「許す。なんだ?」
「オレ様達は既に、王都への侵入を果たした。今なら民も王も容易く皆殺しに出来るはずだ。なのに何故、《《誰も殺すな》》などと命令を?」
「生ぬるいと云うのか?」
仮面の奥でゼクスの目が細まる。しかし、ストラは怯むことなく進言した。
「意図が分からねぇって話だ。普通、敵は殺すもんだろ。 生かしてどうすんだ?」
「なるほど。では教えてやろう」
ゼクスは頬杖をやめると、玉座から立ち上がる。
そしてコートの裾を翻し、両腕を大仰に広げてみせた。
「恐怖とは、混沌たる世界を彩る最高の舞台装置だ。役者を殺してしまえば、舞台はそこで終わってしまう。それではあまりにも退屈だろう?」
「……つまり、どういうことだ?」
ストラが首を傾げる。それを見てミスティはクスリと笑った。
「おいミスティ、何笑ってんだ」
「うふふ、ストラちゃんには分からないのですね」
「んだと? お前には分かんのかよ?」
「ええ勿論。ゼクス様、発言をお許し頂けますか?」
「許可する」
主からの許可を得て、ミスティは語り始めた。
「我らが魔王、ヴァーエル様は“暴食”の化身。人の恐怖こそを最上の供物とされる御方です」
「あ~、そういやそんなこと言ってたな」
「……」
今思い出したように呟くストラの態度。隣でブロが信じられないものを見るように顔を顰める。
「そして、恐怖は生きる人間より出るもの。民を殺せばその分だけ供物は減ってしまう。ここまで言えば分かるでしょう?」
「あ~……恐怖が舞台装置で? そいつは人間どもから生まれるもんで? 殺せば退屈で……つまりなんなんだよ?」
「いたずらに殺して供物を減らすより、生かしたまま恐怖を肥え太らせよ。ゼクス様はそう仰られているのです」
「なるほど、ヴァーエル様のメシを減らすなってことか! ……いや、舞台の話関係なくね?」
ブロからの解説に、ようやく納得したように手を打つストラ。しかし、同時に生じた新たな疑問に首を傾げる。
「あら。ストラちゃんの小さな脳みそじゃ、ゼクス様の深淵なる意図を推し量ることはできないのですわね」
「あぁん!? ならテメェには分かるってのか!?」
「この世は舞台、人はみな役者。なれば舞台の筋書きを操る者こそ、世界を統べる神である。それがゼクス様のお考えなのです。このくらいは理解できて当然ですわ」
「オレ様がバカだって言いてぇのか? いいぜ、表出な!」
売り言葉に買い言葉。ストラとミスティの間でバチバチと火花が散る。
一触即発の空気が漂う中、ブロが錫杖を床に叩きつけた。
「2人とも。会議中の私語、私闘は慎むように」
「……申し訳ありません」
「……気ぃつけます」
ブロに諌められ、2人が頭を下げる。
「ゼクス様、会議の続きを」
「ではストラよ、封印の破壊はどうなっている?」
「ムカつくことに全然進まねぇ。未だ残留している天聖王の結界だけならまだいい。その上から施された別の結界が、要塞を阻んでやがる。多分王家の連中が貼り直したやつだ」
「やはり“鍵”が必要か。面倒な……」
「逃げた王女を捕らえねば、封印は解けぬようですな」
ゼクスは足を組み、肘掛に頬杖をつきながら呟いた。
「報告は以上か?」
「はい。これで全てにございます」
「では、本題に移ろう。勇者が再臨した」
ゼクスの言葉に幹部達は眉を上げる。
「なんと……」
「ゴブリン野郎、しくじったか」
「或いは、天聖王めの最後の足掻きか……。先を越されましたな」
「逃げた王女とも合流している。ここで潰しておかなければ、せっかく育てた絶望が希望に転じかねん。早急に対処する必要があるだろう」
「ゼクス様、ここはこのミスティめにお任せ下さい。邪魔者は全て、我が魔術を以て闇に沈めてご覧にいれますわ」
ミスティが一歩進み出る。その表情には余裕が窺えた。
「いいやミスティ、ここはオレ様に譲れよ。ゼクス様、奴らの殲滅はこのストラにご用命を」
ストラが一歩進み出る。その表情は自信が満ちていた。
「ストラ、念の為聞くがお前は現状の最優先事項を理解しているか?」
「勇者の野郎をブッ潰せばいいんだろ?」
「……ブッ潰すための方法は?」
「まずオレ様が突っ込む。全員まとめて消し飛ばす。それで終わりじゃねぇか」
「なるほど、全然分かってないようだ。ミスティ、この件はお前に任せる」
「はい、かしこまりました♡」
とても鮮やかな流れで、ストラは任務を外された。
「はぁ!? なんでだよ!?」
「物事には順序がある。事を急ぐのは三下のやり方だ」
「順序ぉ?」
「我々が優先すべきはヴァーエル様の復活。その目的は勇者の排除と並ぶ事はあれど、混同すべきでないのです。弁えなされ」
「チッ……へいへい」
出鼻を挫かれ、ストラは不満そうに顔を背ける。
「ブロ、そういえば以前、落としておくべき城砦があると言っていたな?」
「はい。王国領の北西部にひとつ」
「ストラよ、お前には別の任を与える。城攻めだ」
城攻め。その言葉を聞き、ストラの口元に肉食獣めいた笑みが浮かぶ。
「やり方はオレ様の好きにしていいんだな?」
「無論だ。存分に暴れるがいい」
「いいぜ。全部ブッ壊してきてやる」
「ブロ、2人に例のアイテムを」
「承知致しました。実験には丁度良い機会でしょう」
部下達の士気が上がったのを確信し、ゼクスは再び立ち上がる。コートをはためかせ、ゆっくりと歩を進め、大仰な動きで腕を振りながら、彼は天を見上げた。
「瘴気が満ちるまであと3日、革命の日は近い。さあ、我らが主の復活を!」
「「「我らが王に栄光を!」」」
彼らの言葉に呼応するように、窓の向こうで紫電が迸り、雷鳴が轟いた。
「うむ。ミスティ、今のは中々の演出であった」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「今の雷に何の意味が……?」
勇者、姫、騎士、魔王軍。役者は揃いました。
感想を頂けると幸いです。
【追記】『我らが王に栄光を(ヴァール・グローア)』のルビ部分は造語です。Glory(栄光)の読みを崩してます。




