第6話『Da! Da! Dash! 君とバイクで次の都市へ!』
ちょくちょく更新時間が乱れてるのがちょっと、いやだいぶ悔しいですね。おのれディ〇イド!!
早朝、村長の屋敷の庭先。
本来なら村を出るはずだった時間。俺はリア様共々頭を抱えていた。
「参ったわね……」
「ええ、これでは計画を変えざるを得ない」
「面目次第もございません……」
天を仰ぐ俺達の前には、申し訳なさそうに小さくなっているアカギが居た。
昨日の自信に満ちた姿は何処へやら。アカギは謝罪を重ね続けている。
「いいえ。レッド、貴方に非はありません。生きた世界が違う以上、互いの常識が異なるのは当然でしょう。前日の時点で確認を怠った私の失態です」
「しかし、まさか勇者ともあろう者が馬に乗れないとは……」
「仕方ないわよブルーノ。馬が廃れている世界があるだなんて、誰も思わないわ」
事の発端は数分前。幸運にもゴブリン共の襲撃を無傷で生き延びた馬が残っていたらしく、それを借りて夜明けと共に村を発つという話が昨日の時点でついていた。
目指すはこの辺境の要所、貿易都市プロキオン。この村からは、夜明け頃に馬で出れば昼前には到着する距離にある。
我々に残された時間はあまり多くない。そのため、なるべく早めに出発しておきたかった。
ところが、いざ馬に乗ろうという所でアカギがおずおずと手を挙げた。そしてこう言ったのだ。
『馬ってどうやって乗るんですか……?』
予想だにしなかった発言に、俺もリア様も空いた口が塞がらなかった。
アカギの話によれば、彼が元いた世界では馬による移動はとっくに廃れており、今や馬術は娯楽や競技でしか見かけないものになっているのだとか。
どうやら、異世界人の常識は我々と根本から異なっているようだ。つまり、我々は彼にこの世界に関する諸々を教示しなければならない事になる。
まったく手間のかかる……。天聖王は何故、わざわざ異世界から彼を呼び寄せたのだろう。
「レッド、馬が廃れているのなら、貴方の世界ではどのような移動手段を?」
「自動車や自転車、それから列車といったものになりますね」
「うそ、列車!? 列車ってそっちの世界にもあるの!?」
「そっちにも……ということは、やはり村の上空から見えたあれは線路でしたか。蒸気機関車だったりします?」
「ええ、確か正式名称はそうだったと思うわ。でも、私達は魔導列車と呼んでいるの」
「リア様、口調が」
「あっ……コホン、失礼」
リア様の警戒心がだいぶ薄れている気がする。普段なら初対面の相手に、こうも易々と口調を崩す事はない。
異世界から来たという物珍しさ故か、それともアカギ自身の雰囲気がそうさせているのか……。この男、油断ならない。
「現在、魔導列車は全線運行停止中です。念の為に昨日、村の駅を確認しましたが、停車中の車両はありませんでした」
「せめて線路点検用の車両でもあれば、プロキオンまで便乗できたでしょうね……」
「たらればの話は後です。早く手を打たなければ、日が昇ってしまいます」
「では、私かブルーノの馬に勇者様が同乗するのはどうでしょう?」
「考えましたが、馬への負担が倍になります。休憩の頻度も増え、日中の到着は難しくなるかと」
一番効率的な方法を考えるなら、勇者に馬以外の移動手段を使ってもらうのが手っ取り早い。
だが、この村にあるもので、馬に並ぶ程の移動手段など見当もつかない。
いや、待てよ。確かアカギはあの時……。
「それなら……勇者様、転移魔法でプロキオンまでの距離を短縮する事はできますか?」
「残念ながら、あれは私が訪れた事のある場所にしか飛べないようなのです。ご期待に添えず、申し訳ない」
「そうですか……」
リア様も同じ考えに至ったようだが、アテが外れたか。
転移魔法。それは術者が転移先を強く思い描く事で、指定した座標へと転移する魔法だ。神に選ばれし勇者であれば、その制約に縛られる事なく使用できるのでは……と期待したが、そうもいかないようだ。
剣技についてはさっき確認したが、魔法についても使えるものを確認しておく必要がでてきたな。
「なら、私は走るので馬にはお2人が乗ってください」
……今なんと?
「アカギ殿、ご冗談を」
「勇者の鎧の身体強化なら、100mを3秒で駆け抜けることも可能ですので!」
「……耳を疑いたくなる数字ね」
想定とは微妙に違う答えが返ってきた。確かに神話には、一瞬にして千里を駆ける英雄の話もある。
だが、それは単独行動においての優位性であって、複数人での移動に関する問題を解決する手段にはなり得ない。
「仮に出来るとして、我々を置いていくつもりですか?」
「俺が2人とも担ぐとか、荷車借りて俺が引いてくとか」
「仮に走ったとして、アカギ殿の体力はプロキオンまで保ちますか?」
「あー、体力か~……うん、今のやっぱナシで」
「勇者って意外と万能でもないのね……」
「はは、お恥ずかしながら」
リア様の言う通りだ。やはりアカギは、どこか我々の思い描く勇者とはかけ離れている。
身体能力は向上しても、体力の消耗は避けられない。魔法を連続発動できる程に魔力量は多いが、常識破りな魔法行使は出来ない。
アカギが語る“勇者の力”は、どうも鎧による強化に拠る所が多い印象を受ける。
……そういえば、伝説には勇者ロッソ個人についてあまり多くは語られていない。優れた武勇と多くの魔法を修めたとされているが、それらを何処で、どのように修めたのかは未だに不明瞭だ。
その不明瞭な部分について、歴史学者達が唱えた説の中にこんなものがある。
『勇者ロッソは天賦の才の持ち主などではなく、天聖王に選ばれただけの凡人だったのでは?』と……。
俺にとっては最も否定したい説だった。救世の英雄、世界を救った男であるからには、それ相応の才能があるはずだ。凡人が神と共に魔王に立ち向かうなど、有り得るものか。
だが、勇者ロッソがそうでなかったとしても、目の前にいるこの男……アカギ・タツヤには当てはまっているのではないか?
もし、そうだとすれば──
「御三方、お話聞かせてもらいました」
不意に声をかけられ、思案をやめる。
立っていたのは村長だった。
「村長さん、いつからそこに?」
「いやぁ、出立前に軽食でも渡しておこうと思ったのですが、何やら話し込んでおられましたので」
そう言って村長は、アカギの方へと歩み寄る。
なにやら含みのある表情だ。
「勇者殿、聞き間違いでなければ自動車、と言っておりましたな?」
「ええ、はい」
「それはもしや、自動二輪車の事ですかな?」
「いえ、自動車というのは四輪で……えっ!? 自動二輪車ぁ!?」
アカギが驚く。意外な名前を耳にした、というような反応だ。
「ねえブルーノ。自動二輪車って、確か10年くらい前に軍で制式採用されたやつよね?」
「ええ。自転車に蒸気機関を搭載し、自動で走るようにしたものですね。軍馬に変わる移動手段になりうると言われていますが、維持費や整備性などまだまだ課題が多く、民間には出回っていないはず……」
「あの、もしかしてその自動二輪車とやらは、こういう……?」
アカギが自転車のハンドルを握る仕草を見せながら、右手だけを捻るように動かす。
そういえば、そんな動かし方だったな。見たのは一度きりだが。
「ええ、まさにそのようなものです」
「見せてもらっても?」
「どうぞこちらへ。お見せしましょう」
アカギが村長の後に続く。リア様と顔を見合わせると、リア様は2人に着いて行くようだ。
馬を村人に任せ、俺もリア様の後を追った。
「側車付き自動二輪車、と言うそうです。辺境伯閣下より預かった試験車両なのですが、今は王都の一大事。責任は私が負いますので、皆様へと貸与致します」
庭の隅に建てられた物置のような小屋。整備用の工具が積まれたその真ん中には、見慣れない形をした機械があった。
自動二輪車の左側に、車輪付きの座席が取り付けられた三輪鉄騎。左右非対称で小回りの効きにくそうな印象を受けるその鉄騎に、アカギは目を輝かせていた。
「サイドカーだ! まさかこんな所で出会えるなんて!」
「儂もこいつを乗りこなせているとは言えない身でしてな。ここで埃をかぶるより、勇者様の足になる方がこいつも喜びましょう」
自動二輪車の周囲をぐるりと回りながら、アカギは興奮した様子で騒いでいる。そんなに騒ぐようなものなのか?
「確かに座席は3人分だが……」
「ブルーノ、貴方乗れる?」
「お恥ずかしながら。リア様は?」
「当然、無理よ。しかも試験機ともなれば、今これに乗れるのは辺境軍の人間くらいよね」
そもそも王国軍の中でも、自動二輪車は騎兵の補助戦力としての運用に留まっている。運転経験のある人間も、伝令兵や試験部隊、憲兵隊に集中しているのが現状だ。
「でも、レッドには馴染みがあるようね?」
「免許持ってます。余裕で乗れます」
「水を得た魚のように活き活きし始めたな……」
「村長、使い方を教えてくれますか?」
「ええ、勿論ですとも」
そう言って勇者は自動二輪車に跨り、村長から操作を教わり始めた。設計に多少の差異はあるかもしれないが、あの様子ならそう長くはかからないだろう。
ようやく村を出発できる。さて、我々も馬を出すとしよう。
「ブルーノ、私達もこっちに乗るわよ」
「えっ」
思わず、素っ頓狂な声が出てしまった。
乗るのか、あれに?
「3人乗りなんでしょ? こっちに乗れば、より多くの馬を村の人達に残しておけるわ」
なるほど。リア様らしいお考えだ。村の襲撃を一刻も早く周辺の村に伝え、支援を募りつつ警戒を促す。そのためには村に一頭でも多くの馬を残すべきだろう。
民のためだ。不安はあるが、慣れない乗り物に揺られる覚悟くらい、して当然と考えよう。
「それは……確かに。しかしリア様、どちらに乗るおつもりで?」
「私が横、ブルーノが後ろでいいわよね」
「ダメです。私が側車、リア様は勇者殿の後ろへ」
「なんでよ!? 一番風を感じられる席なのに!」
「私が側車に座り、いつでも剣を抜ける状態を保っている方が安全です。この側車自体、武器の搭載が用途の一つと聞いています」
「え~……じゃあ途中まで! 途中で交代するならどう?」
「ですから側面から襲撃されたら危険だと……」
「2人とも、出発するぞ~」
最終的に、リア様は俺の提案を聞いたアカギに説得され、側車には俺が乗る事になった。
これでようやく出発できる。急がなければ。
今回、一番長いサブタイトルになりました。
お気づきの方も多いと思いますが、この小説のサブタイは歴代スーパー戦隊のオマージュで構成されています。
本編の内容以上に悩まされる部分なので、クスッとしてくれたら教えてください。
感想、評価を頂けると励みになります。
次回もお楽しみに!




