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妹の為なら金も命も惜しくありません!  作者: どっすん丼
第1章 貴族、勇者たち(仮)を買う
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第八話 修羅場≒茶会


 その日はとりあえず全員が眠れるベッドを転移させた。この部屋には時計以外何にも無いのだ。

 男女を離すべきかとは思ったが、何やら子リスのように身を寄せ合うのでそんな提案は到底できず、その上まるで閨に誘うように「エ、エイディンラムさん、行っちゃうんですか……?」と未成年に手を伸ばされた。

 何もしてないのに汚しちゃった気分なんですけど。


 全員に縋るように見られてしまい、「朝はメイドが起こしに来るから、途中までしか居られないよ?」と言ってしまった俺の意思薄弱さが憎い。

 無垢にしがみついてくる両脇の少年少女を見やりながら顔を引き攣らせ、深夜二時頃に俺はこっそりとベッドを抜けて自室へ戻った。




 翌日は休みだ。というか貴族たるもの基本的にはエブリデイ休み。パーティーも茶会も女主人であるアデリーの仕事だし、そういう情報交換の場を彼女が独占することに対しての俺の不安は一切なく、全てを任せきっている。

 アデリーは精霊的にはブルースを愛し、人間的には俺に多少の好感を抱いているからだ。

 まあ同衾したんだからある程度の情は湧くに決まっている。俺達はちょっと変わった友人みたいなものなのだ。


 と、言うわけで今日は完全オフ。そして今最もすべきこととは――。


 「さあ私の可愛い部下諸君。まずは一般常識を学習しようか」


 はい、と良い子達のお返事が聞こえる。暫くは観察期間を置く為外に出すつもりは無いが、固有名詞が伝わらず会話もままならないようでは文字通り話にならない。

 柱時計と人形四体の部屋は、今やベッドに机八脚と、休憩用の長机と本棚四つを運び込まれている。


 「まずは金だが、これは非常に単純だ。金貨さえ出せば中級の商品は何でも買える。紙面に表されている場合は、このように数字の横に金、銀、銅、鉄の頭文字が書かれているので、その枚数の硬貨を要求されていると見てくれ」


 「あ、あの、交換比率はどのくらいでしょうか?」


 「いい質問だね、雪ちゃん。それは金や銀のその年の産出量にも左右されるが、大体十枚毎に交換されている。この世界は資源が潤沢にあるんだ」


 同じ大きさ同じ純度で、魔術によって均一に鋳造されているそれらの銅⇔銀と銀⇔金の比率が同じとかいう狂った世界である。分かり易くて良いけどね。

 はいはいファンタジーファンタジーと流して欲しいものだ。頭の良さそうな顔をしている雪ちゃんは複雑そうに顔を顰めている。そりゃそうなるわな。


 「他国へ行くと"クラ"高だったり"サン"安だったりして――つまり国の通貨によって交換比率も違う。硬貨の純度も違うしね。最近ではコランダムの"シュノ"が安くなっているから、我が国の"クラ"金貨を両替すると平素よりも多く"シュノ"が手に入る……といった具合にね」


 コランダムは宗教と政治が密接に絡みついている国だ。あそこの聖神信仰は頑なで、その教えを広く拡げるために国民皆に教典の読破を推奨している。

 故に無料で文字を習える福祉などが整っており、識字率はブッチギリの九割越え。主に、そういった優秀な人材を他国に派遣させて儲けている国だ。別名スパイ大国。信仰は魂にまで染み付くのである……。


 国土は資源に乏しく、それ故に"大望を望まず"、というドレアスの清貧な教えがよく広がったのだろう。食料自給率がカス以下なので貿易の難しい今のシュノ安はかなりキツイと思われる。


 「次は地形かな。ここが我が国リシア。東にコランダム、西には大河を挟んでアゲートがある。南の方も一応リシアの領土だが余り王政が行き届いていないので、この国から逃げ出す時には他国に行くよりも、南下して何処ぞの部族に拾ってもらうのが良いだろう」


 貴族なのに国から逃げるシミュレーションを? という風な視線を咳払いで誤魔化す。

 い、色々あるんだよ色々。


 「後は固有の言葉や方言なんかが問題になるかな。君たちの耳には母国語に聞こえるんだろう? ……ではこれは何と聞こえるかな。『転移(^9:3)』」


 所謂魔法の呪文。ビビデバビデブーのようなものだ。魔術は発動キーを声に出すと上手く発動しやすい。

 魔術師たちは幼少期から使っているような慣れ親しんだ魔術でなければ、大抵の場合発動キーを口にする。

 この発動キーは精霊の言語らしく、人間の耳にはよく聞こえない。俺には『move』に聞こえなくもないかな、くらい。ハウリングとノイズが邪魔で、何を言っているのか俺自身分かっていない。


 「私には、その、転移って聞こえます」


 「俺もです」


 「ほう、それは凄いな……君たちは人外の者とも言葉を交わすことが出来るようだ」


 この子達が召し抱えられたら宮廷魔術師の七割が失業するなぁ。精霊との意思疎通が可、字も読めるし翻訳作業が捗りまくりである。解読とはなんだったのか。


 改めて、自分の手の内にとんでもないジョーカーが転がり込んできたことを自覚する。年甲斐もなく胸がドキドキと高なった。俺が少し指示を出すだけで、今の俺に足りない金も地位も英智も、全てが全て手に入る。

 俺が手に入れたそれらを、そのままそっくり全部リリーに捧げればきっと――。


 「ッ、はは、ははは……」


 口元を抑えても漏れる笑い。


 「ああ、本当に――君たちに出会えて、良かった」


 心の底から俺は笑った。どうやら俺にもツキが回ってきたらしい。




 さて時はあっという間に流れるものである。俺は別荘での茶会の準備をしていた。今日も懐から可愛いリリーの写真を取り出し、ストレスに耐性をつけようと試みる。パウリーネは俺の鬼門なのだ。


 一週間もあれば、俺と八人の高校生たちはそこそこ打ち解けていた。

 彼らは今己の能力を把握するために訓練をしており、伸び伸びと生活している。俺も食事時以外の時間を彼らに費やし、心や体の傷を癒す手伝いをした。俺治癒魔術使えないけど。


 魔術的な薬や包帯を俺が用意したとはいえ、三輪ちゃんの治癒は凄かった。何でかは全く分からんが何処からか輸血をすることも可能らしい。どういう仕組み? 初めて聞いた時は思わず困惑を表に出してしまうほどに驚いた。

 この世界の治癒魔術もそうなのだが、傷口や負傷した内臓に手を翳すと、即座に肉体が再生するのはどういう仕組みなんだろうか。しかもその血肉はなんの拒絶反応もなく周囲と馴染むのだ。


 俺は理系ではないが、人間がそんなアメーバみたいな存在だとは心から信じられず、そのせいで治癒魔術だけはからっきし。いつもブルースとペアを組んでいたものだった。

 戦闘訓練の際など、危険な学校行事の時はブルースが命綱だった。もう二度と生命線を他人に預けるスリルは味わいたくない……。


 ぶるりと身震いした所で思考から抜け出す。今は茶会の食器を選ばねば。


 「……よし、このシリーズだな」


 「流石はソーマ。リリーちゃんの好みかつ流行から離れない物を選ばせたら、右に並ぶ者はいないわね」


 「ふふん、そうだろう? 私はリリーの為ならば何でもするよ」


 装飾されている控えめな花はリリーが好んで水をやっている花だ。聖女の祝福を受けた一見弱気なそれは、花壇の他の花たちを絶滅させて庭師を俺に泣きつかせたガッツのある花である。


 思い出の中の花はしかし残念ながら紅茶にはならない種だ。さてはて賓客に出す茶葉は何にしようか。客人の好みを思い出しながら棚を開いた。


 「パウリーネ嬢は確かローズマリーだったかな?」


 「最近はカモミールにハマっていると三日前には仰っていらしたわよ」


 そいつはタイムリー。一週間前の定例会議で俺がメイドに入れさせたのと同じ銘柄だった。

 パウリーネってほんと……何というか、幸運に愛されてる感じが全身から迸ってるんだよな……あいつ不幸な目に遭ったことないんじゃないだろうか。好きな紅茶が乱入した会議で出てくるってどんだけツイてるんだ? あの時十五種類あったんだぞ?


 「ブルースは……アイツ味音痴だし、何でもいいだろ。ローズマリーにしとくか」


 ティーポットは三つあるが、一つはアデリーの好むラベンダーティーで、二つ目はパウリーネのハマっているというカモミール、最後の一つはパウリーネの気分が変わった時のためにもローズマリーにしておこう。


 メイドと執事に選んだ食器を庭に並べるように命じる。茶菓子はアデリーが北方から取り寄せた珍しい物だとか。甘い物は嫌いじゃないので、それが茶会での唯一の楽しみとなるだろう。


 テロルとパウリーネ。あの姉弟のことは、先日の一件で余計にわからなくなってしまった。

 パウリーネはまだしも、表向き同じ地位であるテロルにお辞儀をされたのが不可解だった。不気味ですらあったが、あの真摯な目は到底忘れられない。


 頭を振って考えを切り替える。

 不安をかき消すためにも再びリリーの写真を見て、彼女の十一歳の誕生日と、それよりも早く訪れる俺の誕生日を思う。

 俺は後半年でエイディンラムの当主になるのだ。




 真っ白なテーブルクロスとガーデンチェア。白骨のような白さのそれは、少し特別な方法で焼いたが故のものらしい。そこそこの値が張る代物だが、緑とのコントラストがハッとするほど綺麗だった。


 茶会(と言う名の情報交換の場)にも、もう慣れたものだ。俺達は静かに笑い合ったり、零しても良い情報を零したりと、有意義な時間を過ごす。

 ちょっと胃が痛いけど。


 「あらブルース、そちらをお気に召して? よろしければ帰りに包ませ――」


 「ソーマ侯爵、相変わらずリリアーネ嬢の花を気に入っているのですね。このティーカップなんて見事な装飾です」


 やめろ〜! 修羅場を展開するんじゃない!

 アデリーは美人だ。精霊憑きで家名も名高い。……しかし、当たり前のことながら、ブルースにとっては何処まで行っても『友人の妻』。知り合いよりも薄い認識しかないのだ。

 だが俺は個人的には二人の相性がかなり良いと思っている。俺は友人が少ないし、万が一だが死んだ時などに、アデリーのことはブルースに任せるつもり……なのだが。


 「あー、ブルース? 菓子を包んでもらうと良い。それは美味だぞ」


 一口齧って笑いかけると、即座にブルースは「ではお願い致します」と言った。

 こいつ……何かアデリーに冷たくねぇ?


n+1 年 4月


国の名前を見てピンときた人は握手

上の年月日は時系列を分かりやすくする為のものです

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