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妹の為なら金も命も惜しくありません!  作者: どっすん丼
第1章 貴族、勇者たち(仮)を買う
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第七話 慈しみ救おう

昨日投稿するつもりだったんですがいつの間にか寝てました。すみません


 心地よい沈黙の中、私たちは暖かく柔らかなカーペットの上で微睡んでいた。静かな吐息だけが響く空間に変化が訪れたのは、部屋の真ん中の柱時計が二十時時二十分を指した時だった。

 四隅の人形さんたちが顔を上げる。すると声を揃えて彼らは「ソーマ様がお帰りになられました」と言ったのだ。


 もちろん私達は飛び起きた。辺りを見渡してエイディンラムさんを探す。すると部屋の中に魔法陣のようなものが浮き出たかと思うと、四角いブロックが次々と現れ、それがクルクルと空を舞いながら何かを形作って――光が収まると、そこにはエイディンラムさんが立っていた。


 「――ただいま」


 柔和な表情のエイディンラムさんに、私たちは自然とお帰りなさいと返していた。当たり前の挨拶が出来たことが、なんだか嬉しかった。




 エイディンラムさんは私たちのことを知りたがった。それは能力であったり出身地であったりした。

 私たちは首輪に縛られているとは実感したくなくて、自分から全てを洗いざらい話した。素直に話してしまったのはそれだけが理由ではなかった。今まで話をすることも許されない環境に居たからだろう。私たちはその反動のように、知り合って間もないエイディンラムさんに大きな信頼を寄せていた。

 実際、彼は私たちが口篭ると質問を変えてくれたし、指輪で行動を強制することもしなかった。


 「なるほど、つまり君たちは別の世界からやってきた、と……」


 彼は何度か納得したように頷く。

 私たちは奴隷だが、是非とも聞きたいことがあった。それは、この世界に日本人……いや、異世界人が何人いるのか。貴方は日本人のことを知っているのか。

 だけど誰も口にはしなかった。折檻よりも、口答えをしてどこぞへと捨てられてしまうのが怖かったからかもしれない。

 特に、佑太君はダメだ。彼は片手が無くなってしまった。放り出されるならせめて五体満足な者でないと、一人では生きていけない。


 「では、土門君。君にこれを渡そう」


 「っは、はい!」


 エイディンラムさんは何気ない動作で、懐からとても大きな宝石のついた指輪を取り出した。そしてそれを土門君に投げた。土門君は泣きそうになっている……。


 「君はこれを金……或いは銀に錬金することは出来るかな?」


 「で、できますです! はい!」


 何千万円はするだろう大粒の宝石に土門君が手を翳すと、次の瞬間にはそれは純金の指輪に変わっていた。


 「そして、和馬君だったかな……君の鑑定能力で、この金の純度を確かめることは?」


 「っ、出来ます」


 「ふむ……」


 エイディンラムさんはしげしげと、純度100%の金を眺めて手の中で転がしている。何だか楽しそうだった。


 「それで、(かえで)君は物の造形を変えることが出来るんだったね?」


 「はい。……あの、見本になる物とかが手元にないと、余程手に馴染んだものじゃなければ難しいです」


 「よろしい、ではこの純金でこのコインを作れるかい?」


 楓君が受け取ったのは目を閉じた女性の描かれたコインだった。ドラムの持っていたものとは違う。この国のものではないようだ。

 楓君が握りしめた金の指輪は、次に手を開いた途端にそれとそっくりなコインになっていた。


 「おお……! すごいな。いや、素晴らしい!」


 エイディンラムさんは指を鳴らして喜んでいる。私たちからすれば、お金を偽造して儲けたいのか、という風にしか思えないのだが、それなら何故純金自体を売らないのかに少し引っかかった。


 「ふふ、いいものを見せてもらった。……そうだ! 君たちも不思議に思っていることはたくさんあるだろう。何せ異世界からの訪問者だ、何でも俺に聞いてくれ。分かることなら応えよう」


 受け入れる様に広げられた手。私たちは胸が締め付けられた。


 この人は私たちの意思を確認してくれる。

 下等な地位である私たちに譲歩を示してくれている。

 私たちの精神を損なわないように振る舞っている。

 何か目的があるにせよ、手厚く保護してくれている。


 そんな当たり前だった筈のことが嬉しくて堪らなかった。私がぼろぼろと落ちる涙を拭っていると、すんすんと鼻をすする音や嗚咽を吐く声も聞こえた。エイディンラムさんは明らかに困惑していたが、それでも私たちが落ち着くまで待ってくれた。

 彼が「飲めるかい?」と魔法陣から取り出した水には仄かな果実の味がして、今まで飲んだ何よりも美味しく感じた。


 あんなに憎かった魔術も、エイディンラムさんの使うものはまるで"魔法"のようだ。そう言うと、彼は私たちが魔術を知らないものと思ってか訂正せずに、似たようなものさ、と笑いかけてくれた。

 魔法使いのように指を振って彼が出してくれたキャンディは、甘くて美味しかった。




◆◆◆***◆◆◆




 思っていたよりもずっとヤバそうである。

 俺はちょっと奴隷の扱いを舐めていたのかもしれない。だってまさか、意思を尊重するだけでこんなに号泣されるなんて誰が思う? 少なくとも俺は思わなかった。

 水を渡せば泣く。飴を差し出せば泣く。俺にはなす術なく狼狽えることしか出来ない現状である。大丈夫かこの子たち? こんなんで日本に帰れても元の生活に戻れるのか?


 手持ち無沙汰にポケットに手を突っ込むと、コインが二枚入っている。そうだ、これでマジックでもしようか。

 パントマイムのような動きをして視線を集め、右手の袖にコインを隠し、彼らが視線を誘導されている間に左手の内へ移し替える。するとあら不思議、手の中には二つのコインが……という、初歩的なものだ。


 このコイン一枚は、確実に造幣局には登録されていない金貨である。元の一枚は隣国の聖神狂いの宗教大国コランダムで流通しているものだった。


 実は俺の使う転移魔術、今のところ俺以外の使い手がいない。誰も自分の体を分解する等という発想をしないし、何より魔術とは対象を理解していなければ使用出来ない。

 俺は文系でふんわりした知識しか持っていないが、人間がどんな内臓を持っているのか、どんな成分で出来ているのかくらいは知っている。だが、この時代の人間は誰もそんなことは知らない。

 ピン、と弾いたコインに彫られた数百年前に微笑んだ聖女が、自分と同じもので出来ていたなんてことは、たった一人俺を除いては、誰も知らないのだ。


 老いも若いも女も男も、本質的には大して変わりはしない。貴族だからと青い血が流れているわけではなく、皆死ねばただの肉塊であることを、幸運にもこの世界の人間は考えたこともないのである。


 さて、そんな単身で、かつ一秒程度で隣国へ忍び込める俺がこの金貨をばらまいたら隣国コランダムの貨幣価値は一体どうなるのか……。オラ、ドキがムネムネすっぞ!

 やっぱりクズな自分に安心する。あたふたして子供を泣き止ませようとするなんて、リリー以外にやったことがない。全く俺らしくないのだ。


 元より魔術によって「関所ナニソレオイシイノ?」な俺であるが、彼ら八人を利用すればより一層この国の中枢神経に関わることが出来る。スペリオルなんて目ではないだろう。思わぬ僥倖に内心にやけが止まらない。


 マジックが終わると、結叶ちゃんは目をキラキラさせて拍手をしてくれた。他の皆も落ち着いたようだった。


 「よかった、落ち着いたようだね。……君たちは今、さぞ不思議に思っていることだろう。

 何故自分たちはここにいるのか? 目の前の貴族は自分たちに何をさせようとしているのか? 見返りはあるのか? 奴隷をやめることはできるのか?

 それら全ての疑問を解決するために、まず私たちは話し合わなければならない」


 取引と行こう。君たちのチップは、『君たち自身』と『私の良心』だ。




 「まずお互いの望みを話そうか。私の望みは、人間を滅ぼそうとする魔王を君たちに倒してもらう事だ」


 指を鳴らして椅子を転移させる。それに腰掛けて、腕を組んだ。


 相手は八名と多数派だが奴隷の身分に甘んじている。それを笠にして色んなものを毟ることも出来なくはないが、残りの三十二名が気がかりだった。

 報復なぞされては堪らない。勿論、良心の呵責という問題もある。


 彼らも考える時間はあったとはいえ、急に言われては答え難いだろう。俺は適当に明日の予定を考えつつ、にこにこと笑いながら待った。


 待った。……待ったんだが。


 「あの、君たち? 急に激昂したりなどしないから、遠慮なく言ってくれたまえよ?」


 「……その、エイディンラムさん。私たち、お願いはもう決まってるんです。ううん、それしかないって言ってもいいくらいです」


 「ならそれを――」


 「だけど、私たちみたいな、奴隷に……エイディンラムさんは、指輪を使えばいつでも命令出来る。なのに、ご飯も、服も、お風呂も入らせてくれた人に――初めて親切にしてくれた人に、これ以上お願いなんて、出来ない」


 その虚ろな目に、俺は絶句した。


 俺だって貴族だ。そりゃあ公爵家だし、使用人は皆良家出身の三男四男なんかで固められているが、奴隷とだって触れ合う機会はある。

 金のため。借金のせいで。口減らしに。騙されて。

 様々な理由で、人々は道具へと堕ちていく。


 彼らはここへきてもう一年が経ったという。だけどこんなにも傷ついていた。

 当たり前だった。人が人でなくなる感覚は、普通慣れるものではない。

 一歩道を外れれば、普通に笑い合う親子がいる。婚約者と奴隷を買いに来る幸せそうな貴族や、肌艶の良い笑顔の人達。

 元は高い水準の暮らしをしていた彼らには、それがどんなに辛かっただろう。俺には想像すら出来ないに決まっていた。

 だって俺は恵まれていたから。今だってそうだ。中身まで同じ出身のクセして、俺は椅子に座って彼らは地に腰を落ち着けて。彼らの目は虚ろで、望みを持つことすら出来なくなってしまっている。


 「……ノブレス・オブリージュだ」


 口を出た言葉に、俯いていた八人は俺を見上げた。


 「私は君たちを保護したんだ。それは君たちが有能であったからで、捨てられる恐怖に震える必要は一切無い。君たちのスキルがある限り、私は君たちを手放すことは無いのだから。

 そして、敢えて言おう。私は高貴なる者として、君たちを憐れんでこのような行動に出ているのだ、と。だから不安に思わないでくれ。私は君たちに憐憫を抱いているが故に――」


 椅子から降りて、ぺたりと地べたに座り込む八人に近寄る。前にいるのは佑太君だった。

 彼の手をしっかりと握り、何度か上下する。


 「――君たちを、()の部下として慈しみたいんだ」


 さっきの、結叶ちゃんの虚ろな目を見て、俺は分かってしまった。

 彼ら彼女らは、最早なんの期待もしていない。己に幸運の星が降ることはなく、ただ怯えて媚びることと、いつか捨てられる日を待つことしか出来ないと思っているのだ。


 だからこう言った。君たちが有用だから拾ったんだと。可哀想だから拾ったんだと。その方がきっと、安心出来ると思ったんだ。

 佑太君の目をじっと見つめる。彼が最も深い絶望を持っているはずだ。何せ体の一部を喪失してしまったのだから……。


 「……本当に、いいんですか?」


 「ああ、勿論だとも。――私には、君たちの力が必要なんだ」


 怯えさせないよう、ゆっくりと手を広げて彼の背に回す。嗚咽を漏らし出した佑太君の空っぽの方の肩を摩ってやりながら、同じく泣き出した七人を近くに呼んで、纏めて抱きしめてやった。


 全く、実子が生まれるより先に八人のガキの世話が出来るとは。人生よく分からんもんである。



n+1年 4月



トリップ先で仲良くする話が好きなんですが、探し方が悪いのか滅多に見つかりません_(:3 ⌒゛)_


いつも転生した人がトリップしてきた勇者をザマァしてるんです

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