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妹の為なら金も命も惜しくありません!  作者: どっすん丼
第1章 貴族、勇者たち(仮)を買う
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第二話 貴族/奴隷

転生者目線と高校生目線の落差が酷いです

 薄暗い書庫の中、蝋燭の火を頼りに本を読む。背を丸めて胡坐をかく姿は使用人が見れば発狂する行儀の悪さだろう。

 ぱら、ぱらと捲るページの中の不穏な単語を見る度に、腹の中に黒いものが渦巻くような気がした。それでも手は止めず、読み勧めて早六時間。そろそろ朝が近い頃だった。

 本は持ち帰るには重い。全てを頭に詰め込んでしまわねばならかった。


 「……パソコンさえあれば、データも纏め放題なんだが」


 俺の名はソーマ・エイディンラム。公爵位を王より賜ったエイディンラム家の嫡子である。ちなみにパソコンはこの世界には存在しない。

 ではお前は何故パソコンを知っているのかと聞かれれば、答えてあげるが世の情け……ってこの口上も懐かしいな。

 そう、何を隠そうこの俺ソーマ次期公爵サマは日本人だったのだ。だった、と過去形なのは、なんてことはない。俺が一度死んで、今は日本人ではなくリシア人だからである。


 察しの良い者はもう気づいただろうか。俺には前世の記憶とやらが存在する、ということに。


 大変つまらない平凡な前世だが、もう誰にも話せない大切な思い出である。前世の俺は、中流家庭出身で大学まで進学しており、二十代の頃に、就職活動を経験するよりも早く車で事故って死亡。俺の意識はそこで途切れ――そして、次に目が覚めた時には三歳児になっていた。某探偵も驚き。突然約二十歳若い身体に取り憑いてしまったというわけだ。


 生まれ変わった俺は中世ヨーロッパレベルの文化圏に存在しているようだった。

 こりゃ仕方ないねそれじゃあ第二の人生頑張ろうか、当然そのようには行かない。


 言葉が通じない件について。


 英語じゃないドイツ語でもないイタリア語でもありはしない。とにかく未知の言語である。

 俺は必死こいて文字と言語を習得し、そして一年足らずでこの国の専門書を読めるようになった。神童と崇められた。


 まあ気分は悪くないよな。これで俺は将来有望な次期公爵としてお硬いマナーと一生お付き合いする代わりに、スラム街とは無縁の生活を出来る……と思って油断していたら。


 魔力とかいう謎資源が存在するらしいです。


 その時に俺はようやく気付いた。

 この世界は愉快だということに。


 魔術なんてものが存在しているし、物理法則なにそれ美味いの? 反作用? 魔術が勝手に消すよ? 等というふざけた理論。そこがまた格別に面白い。

 ファンタジー極まりない冗談のような内容が、本にクソ真面目に書いてあるのだ。俺が今手に取っているのもそう。


 タイトルは『特異点についての記述』。


 勇者のことを『聖なる特異点』、魔王のことを『魔の特異点』。読んで字の如く突きぬけて特異な奴が、この世界では二百年に一回ペースで生まれる。

 この世界は魔力とかいうふざけた物質があるせいで生物の進化が凄まじい。特異点同士の闇と光(笑)の殺し合いが終わった後は、生き残った勝者の種族は爆発的に進化し、負けた方の種族は衰退する。前回の勝者はエルフで、敗者はドワーフだと記されている。


 話は変わるが、俺には妹がいる。名前はリリアーネ・エイディンラム。あだ名はリリー。クソ可愛い。しかもたった一人の兄妹だ。年齢は九歳で俺とはかなり離れてるのもあって、やっぱりめちゃくちゃに可愛い。


 この、可愛くて堪らん妹が、『人間の聖なる特異点』になってしまった可能性が高い。


 マジモンの勇者と聖女と、それから魔王が居るこの愉快すぎる俺TUEEEEが本当にある世界。

 そして、俺の妹は目下最も聖女疑惑が濃厚な人間なのである。つまり俺の妹TUEEEEという訳。


 今回はどうやら我らが人類――もとい俺の妹――が栄えある特異点に選ばれたらしく。真につらい。

 妹が年々冗談みたいな魔力量になっていくのを無力なお兄ちゃんは見ている事しか出来ない。


 しかし、あの子はまだ九歳。俺が元日本人で日和ってるからじゃなくて、この世界でも流石に九歳児は徴兵しない。聖女とかふざけた理由で、俺の可愛い可愛い可愛い可愛い妹を戦場送りにするのは一応この国でも憲法違反なのだ。

 今はその法から、特異点を特例として除外するという風に憲法が改正されんとしていて、俺は議会の薄汚い爺ズに賄賂を渡してそれを阻止している状態にある。あの子が歩く道を血みどろの死体まみれになんてしたくない。そんなこと許せるわけがなかった。


 時間稼ぎだけをしても仕方が無い。リリーは何れ大人になるし、そうしたら憲法が改正されなくても徴兵される。そんな自体を回避するため、俺は暗い中寝る間も惜しんで本を二十冊以上も読み続けているのだ。

 だが、読んでも読んでも活路は見当たらない。俺は今のリリーにすら勝てないというのに、彼女はまだまだ成長してすらいる。

 普通の人間の魔力をライターに例えると、将来的な我が麗しの天使ちゃんは核融合炉だ。最大の長所にして短所である。大天使マイシスターは生まれたのがこの家で無ければ問答無用で神殿に生き神として信仰され、軟禁されているレベルであった。


 持っている本の最後の一ページを開く。そこには著者の直筆で、「全ては特異点に托された」と書いてあった。


 ゴーンゴーン……。


 鐘が鳴る音にはっとする。

 日が上り始めてきたのに気づき慌てて本を仕舞う。これ以上の収穫は無さそうだ。

 手がかりがもうないんだがどうしよう。ここ実は俺の国の禁書庫なんだよ。ここに無かったらどうしようもない。

 他国になら、何か手がかりがあるだろうか?


 「俺次期公爵だから諸国漫遊簡単に出来ねーんだよなぁ……」


 懐中時計を確認しつつ転移魔術を起動する。一瞬の後には何事もなくベッドに収まり、今日もまたメイドに向かって爽やかに「おはよう」と言う一日が始まる。


 身なりを整えた後、今日のスケジュールを確認した。決まったルーティーンだ。スケジュール帳に今日の収穫を書き足していく。貼り付けた黄ばんだ紙には『第二勇者のサイン』と注釈が書かれている。


 特異点について調べるために自国の禁書庫に無許可で侵入しているという事実と、貴族の今後の予定とは、同じくらい大事な物である。よって秘密は一つにまとめるのが宜しい。

 そして俺以外に見せる必要の無いものは常に持ち歩くに限る。パスワード付きのファイルが懐かしくて涙がちょちょぎれそうだ。


 来月の予定表にはピンクのハートが乱舞して『リリーの誕生日』と書いてあった。

 彼女ももうすぐ十歳だ。誕生日プレゼントを渡した時のあの「開けていい? 開けていい?」ってキラキラした目で聞いてくるのが好きだから、今年もかなり力を入れたものを用意させた。


 とても楽しみで今からでもにやけるくらいだが、ただ単に楽しいだけじゃ済まされないのが貴族の辛いところ。


 俺ですら十三歳になった頃には縁談も舞い込んできていた。これはもう聖女かつ公爵家令嬢のリリーはモテモテに違いない。それも、脂ぎったおっさんや権力欲に満ちた豚に、だ。

 許せるわけないな!! うん!


 愛がないのは仕方ないんだ。俺だってそうだからな。両親の派閥争いや俺の将来にも直結する話であるし、政略結婚といったところである。相手もある程度の覚悟はしているし、タダで美人な嫁さんが貰えると言う訳だ。

 ブロンドやブルネットの流れるような髪。カーマイン、レモンイエロー等の不思議な色素の瞳たち。宝石のような彼女達の中から、親が最も推すものを選び、無事に俺は婚約者を得た。貴族としては死活問題の後継も、聖神ドレアス――この世界で最も信仰されている神だ――の神官によれば二十歳までには確実。

 後継者たる俺がこれだけ好条件の運命を引いているんだから、リリーはもう少し遅れてもいいと思うのだが。聖女っぽいもんな、無理だろうか。


 貴族の開催するパーティーなんて宴会の名前を被った戦場だ。誕生日パーティーが婚約者オーディションに化ける可能性がある以上、招く人間を厳選する必要がある。

 人間性がNGでも領地が隣の伯爵等は招くしかないし、その逆もしかり。使う食器も妻であるアデリーに決めてもらわねばならない。準備は山ほどある。


 食器一つとっても貴族はこだわるのだ。流行り廃り、限定もの。見得の張りあいや体裁の整えは投げ出したいくらいに面倒くさいが、それなりの地位にあるのだからついて回る義務という奴だろう。


 そうそう、他にも、様々な所から知らぬ間に恨みを買ってしまうというのも、貴族の嫌なところの一つだ。

 幼少期父の妾に毒を盛られた時や、国外のテロ組織に拉致され拷問で爪やら骨やら散々破損された時なんかは、真面目に『もう一回死んだら生まれ直せるかな?』なんて思ったものだが、今となっては遠い話。儀礼や複雑なルールの柵にもすっかり諦観の意識を持つことができるようになっている。

 貴族ってそんなもんだ、と。最早諦めることしか出来ない。


 それに俺はまだ恵まれている方だ。他の家のドロドロの後見争いなんて見ていられない。ウチにはそれが無いだけまだマシ。男児一人に聖女一人、ううん素晴らしい程に典型的(・・・)な一家じゃないか! ガハハハ。


 跡取りがたったの一人と、将来的に戦場に行く予定のロリ一人。つまるところ、俺が死んだら俺の最愛の妹は、俺たちに精子を提供してくれた以外は何もしてくれなかった父と一緒に没落するしかないのである。それと比べたら星の数すら越える作法なんぞ……へ、屁でもないわ! 声が震えるのはご愛嬌である。


 無論貴族位を退き一人でトンズラこかないのには保身もある。今この贅沢に慣れきった状態で、急に放り出されてみろ? 死ぬぞ?

 大体妹に会えなくなるなんて無理だ。妹欠乏症で死ぬ。餓死より早いと思う。


 第二の人生、何だかんだと面倒なことが多すぎる気がするが、人生とはそんなものだろう。子供だって近いうちに生まれるし、俺は魂の底までこの世界に根を張って、ソーマ・エイディンラムとして生を謳歌するしかないのだ。

 諦めこそが活路。これが今生の標語である。




◆◆◆***◆◆◆




 テントが風にはためく。太陽の光が隙間から入り込み、眠っていた私の瞼に差し込んだ。薄っすらと目を開くと、活気の在る外の音が聞こえた。思わず手を伸ばす。


 伸ばした手が触れるのは鉄格子だった。冷たいそれは堅くて、逃げ出すことなんて出来やしない。

 隣で俯いていた佑太(ゆうた)君が宥めるように頭を撫でてくれた。他にも何人も、微かな声で、潜めるように何かを言ってくれる。

 耳がよく聞こえないので分からなかった。それでも、励ましてくれているのは分かった。


 肩に凭れて眠っていた(ふみ)ちゃんが、さっき手を持ち上げた振動で起きたらしい。虚ろな目で格子の外を見て、誰かと目を合わせてしまったのだろうか、怯えたように擦り寄ってきた。

 今度は私が頭を撫でてあげて、ぎゅっと手を握る。小さくて、普通の女の子の手だ。私と同じ、弱くて普通の手。


 この檻は魔術というものがかけられているらしく、ファンタジー極まりない字面とは裏腹に、逃走した者が居れば大きなアラームを鳴らす効果があるらしい。これによって、"商品"が盗まれるのを防ぐことも出来るとおじさんは言っていた。


 そう、私たちは商品だった。私立蔵山高校、二年三組の十七人は今、商品として檻で飼われている。


 誰も信じてくれないだろうが、私は何でもない、ありふれたただの高校生だった。学校に通っていて、ある日の休み時間に、突然この世界にやってきた。

 その時のことは、余りに混乱していて覚えていない。ただ、姿の見えない誰かが、耳元で『とくいてん』と言っていたことは、記憶に刻み込まれている。


 多分、そこは森だったんだと思う。四十人が突然そこに送られて、私たちは仲の良い友達と身を寄せ合いながら、円を作った。

 そうして、ここがどこか、とか、何が起こったのか、とか。『とくいてん』とは何か、と語り合っている途中に、近くの茂みから、兎のような化け物が出てきたのだ。

 私たちは全長二メートル近いソレを見て、誰からともなく走りだした。恐慌状態になりながらも、後ろの方で生徒会長の滋野(しげの)君が、化け物兎が草食動物だと気づいて近くに居た六人程を止めていたのを聞いていた。


 私は……文ちゃんと一緒に、暫く走った、と思う。何故かいつもより、ずっと早く走れた。びゅんびゅんと木々が後ろに流れていって、たちまちの内に森を抜けることが出来たのだ。

 そこからは特に曖昧なのだが、何処かの町に出た所で、青髪や赤い髪の、見たこともない人種の人たちにジロジロ眺められたことは覚えている。

 その人たちの視線から逃れる為に、佑太君たちと合流して、静かな方に静かな方にと進んでいった。そこで、刃物を持ったおじさん五人に脅されてしまい、私たちは檻に入れられた。

 順番に首輪をつけられて震えていると、散り散りになっていた他のクライスメイト達も檻の中に段々増えていった。二十人くらいだった。


 その時は自分が商品に……奴隷になったんだとは、気づいていなかった。


 次の日、競りのような場所に出されて、「黒髪黒目の珍しい人間」として売りに出された。そこで、一人佐藤(さとう)さんが売られてしまった。

 私たちはその時、初めて自分が"物"として売りさばかれていることに気づいた。


 私たちは勿論、泣き叫んで暴れた。男子たちは特に、檻から出された途端に奴隷商の人に殴りかかったこともあった。

 だが、全部無駄だった。首輪には魔術がかけられているらしくて、一度契約したら逆らえない。一人の男子は見せしめとして、指を二本切られてしまった。

 女子達は泣きながら売られていった。四人ほど売れた。幸か不幸か、黒髪黒目以外に特色の無い私たちは、余り売れることはなかった。

 だからこそ、見せしめにされる場合は、躊躇い無く身体を欠損させて仕置きとすることも多かった。


 五人目が売れた時、二人帰ってきた。彼らは――体中痣だらけで、一人は腕がおかしな形に変形してしまっていた。

 私はそれを見た瞬間、余りのショックで倒れたらしい。もう何日経ったかも分からないが、次に目が覚めたときに、ストレスからか耳がよく聞こえなくなっていた。


 帰ってきた二人は、最初こそ言葉少なだったが、徐々にこの世界の情報を教えてくれた。

 残りの捕まっていない生徒会長を含む他の二十人の行方は知らないということ。言葉は誰にでも通じるらしいこと。文字も読めること。


 そして、特異点のこと。


 特異点というものは、物語でいうところのヒーローとラスボスのようなものらしい。現在、聖女と思しき少女が生まれており、残る特異点は勇者と魔王のみ。

 私たちがどちらに類するものか分からないことを二人は語り、自分たちに不思議な力があることも明かした。


 体中痣だらけで、背中に鞭で叩かれた痕のある和馬(かずま)君は、鑑定というスキルが。腕が変形してしまっている三輪(みわ)ちゃんは、傷を癒す能力があるらしい。


 誰にも言わない方が良い、とみんなで決めた。だって私たちが売れ残っているのは、価値が低いからだ。こんな、十七人全員が特別な能力を持っていることを――特異点であることを知られてしまったら、首輪があって逆らえない私たちはどうなるだろう。


 売れ残り続ければ"廃棄"されるそうだが、それにはまだ猶予がある。聖女の少女の年齢に合わせて、この国は生誕祭を行うらしい。それを目安に、私たちは残り一年ほどの時間を大切に生き延びて、いつか逃げ出さなければならない。



n 年 3月

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