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妹の為なら金も命も惜しくありません!  作者: どっすん丼
第2章 貴族、人質になる
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第十四話 因果応報の介錯


――コランダム聖統議会――



 「由々しき自体だ。今、わが国は滅亡の危機に晒されている」


 議長の言葉に議員たちはざわめいた。下院の者は苦虫を噛み潰したような顔で、その発言を補足する。


 「今年の三月半ば頃からのシュノ安については皆さん知っていたでしょう。それについての早急な対策が求められてこの会議は開かれた。――しかし最早、事はその程度では済まない状況にある」


 「それは今回の会議の主旨を変更するということですか? 議長、この者の絵空事に、よもや国王の許可が降りているのですか」


 上院の者が皮肉を吐くも、議長はただ沈鬱な面持ちで頷くのみだった。


 「これより定例会議を緊急会議とし、この異常事態を解決する方法について話し合う。既に知っている者もいるだろうが……。シュノの価値が、異様な速度で落ちている」


 「落ちている、とは……はは、失敬。誇れることではありませんが、いつものことじゃありませんか。何を今更」


 上院の一人は失笑するが、商家出身の者が多い下院の者達は青ざめて、今にも失神しそうな顔色の悪さだった。

 彼は訝しそうに辺りを見渡し、議長が冷や汗を垂らしているのを見て、顔を引き攣らせる。


 「ぎ、議長?」


 「……三月の頃は、コランダムのシュノ金貨二枚につき、リシアのクラ金貨一枚のシュノ安だった。この時点でも十分な痛手だったが、今はそれの比ではないのだ」


 「まさか、そんな――」


 シュノ金貨二枚につき、クラ金貨一枚。計算上は二倍となる暴落が可愛く思える程の貨幣価値の低下と聞いては、誰もが血の気が引く。

 突然の緊急会議に誰の異議も出なかったことで、議長は億劫そうに話を続ける。


 「余りにも急激過ぎる。これは何者かによって意図的に起こされたものだろうと、商業ギルドに大口の取引があったか確認を取ったが、そんな記録はなかった。流通を調べてみると、生活用品を初めとした保存食等の動きが目立っており、その何者かは多くの平民に、造幣局の関与しない金を配ったものと思われる」


 何の慈善事業だと軽口を叩く者はおらず、事の重大さだけがしんとした空間に重く積もっていく。


 「造幣局には無論活動を縮小させたが、そんなものでは最早間に合わん。耳ざといものから偽金についての噂が立ち、わが国の信頼は地に落ちてしまった。最早今のシュノ金貨は――」


 「――大変です!! 会議中失礼させていただきます、至急の報告があって参りました!」


 「何だ、申せ」


 「つい先ほど、リシア政府の大貴族が一斉にシュノを売却! わが国のシュノを手放し始め、アーケドのサンを買い始めました!! ……わ、わが国は、ど、どうなってしまうのですか……?」


 その場で立ち尽くすことしか出来ない伝令係りは、議長へ哀れっぽく問うた。

 現状は最悪だ。建国以来の未曾有の危機に議長は歯を食いしばり考える。


 リシアは利益の得られないシュノを手放した。他国もこれに続き、シュノの暴落は信じられない速度で進行するだろう。パン一つ買うのに金貨が何枚必要になるのか。考えるだけで恐ろしい。身震いしながら白髪の老人は叫んだ。


 「――奴隷商人を集めろッ! 今すぐにだ!!」



◇◇◆◇◇



 「フーーーーッハッハッハッハ!!」


 「ソーマさんテンション上がりまくりだな……」


 楓君は俺を呆れたように見つつ、小石を投げるように金貨を投げた。積もった山は三つあり、一山につきおよそシュノ金貨が二万枚あった。


 「楓君、土門君、君たちには大いに苦労をかけたね。しかしもう大丈夫だ」


 「……それ、って、俺等のこと、もういらないってこ、」


 「いや違うかな! コランダムの重鎮がついに動いたのさ。君たちは暫く休んだって問題なくなったんだよ」


 「なーんだ、ビビらせないで下さいよ。あはは」


 あはは、と照れたように笑っている楓君だが、さっき一瞬目が死んでいた。この子たち本当に大丈夫なんだろうか。この世界にはカウンセラーなんて職業は無いし、外に出せる段階になったら、気休めに神殿で懺悔でもさせてあげようかな……。


 何はともあれ、クソ神官共の国が揺れ動いているのだと思えば愉快や愉快。腹の底から笑いが溢れて止まらないってもんである。俺は誰に憚ることなく高笑いをし、機嫌良く指をパチンと弾いた。


 「ふふん、今日のはちょっと高い茶葉だ。二人の終業祝いにお茶会でもしようじゃないか!」


 俺の顔三つ分はある巨大なガラスのティーポットを出すと、八人は歓声を上げて群がる。モグモグと食べる菓子も一つ金貨六枚の一品だが、自分の売値よりも高いものを食べるなんて気分が悪いだろうし黙っておいた。


 紅茶を飲むと、口いっぱいに植物の豊かな香りが広がる。菓子の仄かなバターの塩気と優しい甘みはそれを妨げることなく、香りに包まれながら喉を流れていった。


 さて、次の一手はどうしようか。


 紅茶のお代わりをくれた雪ちゃんにお礼にマドレーヌをあげると、結叶ちゃんがタックルをしてくる。猫のようでどうにも愛らしく、俺はついつい頭を撫でて微笑んでしまった。


 ああああ! またロリコンみたいなことをしてしまった!!




 俺はコランダムに行く時はウィッグやカラコン諸々を変装の為に使用する。それは誰にも見られないよう、最初のうちは自室でしていたのだが……高校生たちに対する好感が募るにつれ、地下で行うようになった。というかそれ以外の自室で出来る大抵のこともここでするようになってしまった。


 自身の心の柔らかい部分を晒してしまってからというもの、彼らへの好感度は鰻上り。彼らは確かに奴隷で俺に逆らえないが、どうも安易に信頼しすぎている気がして何処か不安に思ってしまう。……いや、薄々気づいていたんだが、これ多分俺がぼっち拗らせてるせいだわ。

 彼らは俺を裏切らないし傷つけない。だから信じることには何ら問題ないというのに、この世界で初めての、心の底からの信頼を委ねるという行いに臆病になってしまっている。


 最後に眼鏡をかけて変装は終了だ。着替え終わった俺を見て、土門君は人懐っこく話しかけてきた。


 「ソーマさん、どっか行くんスか?」


 「ああ、コランダムで君たちの仲間を探してくるよ。ついに大規模な奴隷市が開かれるようでね」


 「っえ!? そ、それ、俺が行きましょうか? ソーマさん昨日書類弄ってて寝てないでしょ。徹夜はマジでヤバいっスよ!」


 土門君は慌てたように言う。正直その気持ちはめちゃくちゃ嬉しいのだが……。


 「確かに君たちの方が向こうも安心出来るだろうし、見分けもつき易いだろうが、ちょっと私用があってね。どうしても私だけでないと駄目なんだ」


 万が一、君たちが傷ついてみろ。俺は年甲斐も無く泣き喚き原因の人物をブチ殺してしまうだろう。たった八人の同郷の者で、しかも未成年だぞ。俺は冷静を保っていられる自身が一切無い。


 「……なら、仕方ないか。うん。っじゃ、ソーマさん、今日も無事に帰ってきてくださいね!」


 「ああ、勿論(というか何回も言ってるけど外はそんなに治安悪くないぞ)。では、行ってきます」


 転移術を起動する。俺は慣れた動作でコランダムへ密入国した。




 活気のある街中をウロウロしつつ、露天の奴隷を見て回る。移動式の商店を持っていない限り、国外での活動はちょっぴり雑になってしまう感が否めないのがこの世界の辛いところ。背後の荷車に人をギュウギュウに詰め込んだ商人が奴隷の名簿を読み上げる。


 「トマソン、こいつは腕の良い農夫で――」


 「彼女の名前はユーリだ。お前らこんな美女見たことあるか!?」


 黒髪は、このカラフルな頭髪がメインの世界ではかなり目立つ。俺は視野を広く持ち、黒いものを探して歩く。

 市場が盛り上がっているためか、巡回の騎士たちが多くいる。俺は後ろめたい立場ながらも、出来るだけ堂々とした態度で胸を張った。


 黒髪黒目、まさか初日で見つかるとは思っていない。俺は幾つもの店を冷やかした。


 そして、とある一つの店を通り過ぎた時に珍しい女の騎士を目で捉えた。

 かなり軽装で、ぶっちゃけ国章が無ければ冒険者にしか見えない女性だ。不思議と、目が離せない。背筋に冷や汗が流れていく。

 獰猛な肉食動物を遠くから見つけてしまったような、或いは超常の化け物を発見したような気持ちだった。目を逸らすとその瞬間にアイツがこっちを見つけて、食い殺しに来るんじゃないかと本気で思った。


 そして、彼女が、振り返る――。


 クリムソンの悪魔のような目が俺と合わさった瞬間、吐き気に襲われた。


 悪寒が全身に走り、こいつに敵対するなと訴えてきた。恐怖で指先が震える。

 我知らず走り出しており、気がつけば大通りを抜けていた。振り返ると背後には誰も居らず、そこでようやく安心できた。


 なんだ、あの女。見ているだけで不安になる人間など、前世今世含めても初めてだった。

 俺は未だに鳥肌の立つ腕を撫でた。深呼吸をしながら、気持ちを誤魔化すためにも足を進める。


 太陽が沈んでいく。俺は外套を深く被って、また奴隷市を冷やかしに行った。




 夜になった。月は控えめで、犯罪を犯すのには絶好の天気である。

 俺が今日やることは簡単だ。まず、この国の王宮に侵入する。さらに宝物庫に侵入する。中の宝石や貴金属の類を全部何処かへ転移させて、代わりと言っちゃあ何だがシュノ金貨を詰め込む。


 国庫には必ず蓄えがある。それは痩せた土地コランダムでも同じこと。

 俺は最後の生命線をも断ち切るためにここへ来たのだ。この国を徹底的に潰すために。


 転移術は便利だが、内部構造を把握していないと違うところへ飛んだりしてしまう。そこで衛兵に向かって「きゃー! 衛兵さんのえっちー!」など言おうものなら串刺しにされる。俺はちまちまと短距離を転移して侵入する道を選んだ。


 まず、王宮の二階のバルコニーへ。次に国王の寝室へ。彼はこの時間にはまだ寝ていないことはリサーチ済みだ。

 そして地図を勝手に漁らせていただき、宝物庫までの道を確かめる。多少の縮尺は違ってたって構わない。魔術には自然と世界からのバックアップがあるし、余程本人が望まない限りは壁にめり込んだりはしないからな。


 どくどくと煩い心臓を宥め、ウィッグと瞳の色の最終チェック。俺の面影は無い。よし、大丈夫だ。大丈夫、大丈夫だ。


 「よし、行くか」


 転移。

 目の前には金銀財宝と宝石の山だ。棚に並べられた禁書が一番の期待の星だが、俺は貴賎なく全て高校生たちの部屋へ送った。

 そして代りに金貨を取り寄せジャラジャラと金貨のプールを作る。部屋が一杯になるまでは暫くかかりそうだ。


 一枚を拾い上げて見つめる。コインの聖女は微笑んだままだ。


 「ドレアスの加護なんて無いのにな……」


 「そうなのかなァ? じゃあ悪い人は、誰に祈ればいいんだろう?」


 ――おい、今の。誰の声だ?


 俺が振り向くよりも早く、俺の腹には激痛が走った。声を上げることも出来ず、ただ息を詰まらせた。何だ、これ。俺の腹を今、何かが引き裂いていった。


 「っ……い、ッテェな!」


 「カワイー! ねえ君根性あるじゃない。私のペットにならない?」


 ぞわりとした悪寒で、俺はそいつの顔を見るよりも先にその女が誰なのかを理解した。

 こいつは夕方、街を巡回していた女騎士だ。嗜虐嗜好のド変態野郎の割には、随分まともな人間の皮を被っていたものである!


 「っぐ……! はっ、痛ェ、痛ェなァ! 痛ェじゃねぇか!!」


 「もう逃げ場ないし諦めなよ、テロ犯の現行犯逮捕なんて私初めてー!」


 転移、転移転移転移! くそ、何かに阻害されていて上手くいかない。ハァ? なんだこれ。魔術ジャマー何てもん俺は聞いたこともねぇぞ。


 「あ、吃驚してる? そうだよ、私だよ。君の魔術を妨害しまくりー! だから諦めてお縄に――」


 「死ね」


 腰から剣を抜いて一閃。自慢じゃないが俺の居合はそこそこ早い。

 俺の刀は女の右頬を掠めるに留まったが、これには毒が塗ってある。女の頬は数秒も経ずに、燃えるような痛みに苦しむ羽目になるだろう。明日からは色素が異常変質し、炎のように肌が焼ける。その悪趣味なタトゥーはどんな治療魔術でも消えない。俺は、この女を決して見間違えない。


 かなりの激痛に苛まれているはずだ。女の集中力は切れたと見て良いだろう。俺は今度こそ転移術を作動させる。

 霞みゆく視界の中、女がにたりと笑ったのが見えた。気色が悪くて吐き気がした。


 「なァんだ君――ソーマちゃんかァ」



n+1年 5月中旬

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