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妹の為なら金も命も惜しくありません!  作者: どっすん丼
第2章 貴族、人質になる
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第十二話 人殺しだって救世主

思ったより早く片がついたので、また3日に1回ペースの更新に戻ります


 「はは、和馬君じゃなく、楓君が鑑定スキルを持っているみたいだね」


 背中に氷を突っ込まれたように一瞬頭が真っ白になったが、怒りの興奮が収まった分冷静になれた。俺はにこにこ笑いつつ話を畳みに入る。


 さりげなく転移術の用意もしているし、敵前逃亡の準備は十分だ。ヨッシャ来い何言われても否定してやるからな。論破されたら逃げる。


 「誤魔化そうとしてますよね? ……別に、いいですけど。あの、俺なんでソーマさんがそんなに隠したがってるのか、不思議なんですけど。逆に」


 「隠す? ついさっき、していることは全部言ったつもりだよ、私は」


 「してることは、多分全部言ってると思います。俺もそう感じました。でも、あの……言っちゃいますけど、ソーマさん、俺等の為に国一個ぶっ壊そうとしてますよね?」


 はい逃げる。


 「っ、だめ!」


 しかし転移術を起動した途端に、結叶ちゃんがしがみ付いて来る。俺はかなり慌てながら術をキャンセルする。い、今俺この子のこと殺しかけたぞ?!


 「何を考えているんだ! 死ぬつもりか!?」


 「そうなっても構いません!」


 構うに決まってんだろ何言ってんだ!?


 転移術の条件を知らないとはいえ、なんつー危険なことを。危うく彼女を空間の狭間にぶつ切りで置き去りにしてしまう所だった。俺の転移陣に飛び込むというのはそういうことだ。彼女は自分がどんなに危険なことをしたのか、その本質をちっとも理解していないからこんなことをしたのだ。

 証拠に、微塵も怯えることなく俺の腹にしがみ付いて離れないではないか。俺が今転移術を起動すれば、彼女は死んでしまうというのに。


 「何でソーマさん逃げるんですか!? 私たち、何も怒ってません、怖がってません、嫌がってません。お礼がしたくて、毎日能力を使ってるのもソーマさんの為で、なのに、何で逃げちゃうんですかっ!」


 「だから、そのお礼が余計だと言うんだ! 俺は君たちに感謝されるような人間じゃない。君たちが救われたと思っていても、それは俺の利己的な行いが、結果的に君たちに恩恵を齎しているだけで……! 今回のだって別に君たちの為にやっている訳じゃない!」


 「へえ、結果的(・・・)には俺たちの為になることをしてくれているんですね」


 くそったれ!


 はっと口元を抑えたがもう駄目だった。結叶ちゃんは俺の腹に頭をぐりぐりしているし、佑太君は俺の肩に義手でない方の手を乗せている。お前、それ、俺が転移したらさぁ、唯一残った生身の腕がさぁ、千切れるって薄々分かってるだろ? 確信犯だろ? なあ?

 あのさ、何回も言うけど、本当に、お前ら……。


 「君たちは正真正銘の馬鹿者共だ!!」


 「えへへ……」


 「何笑ってんだ馬鹿!」


 結叶ちゃんの頬を親戚の叔父さんのノリでビヨーンと引っ張ってしまった辺りで、俺はもう全てを諦めた。ダメだ……こんなの全然ソーマ・エイディンラムじゃねーよ……。

 煮るなり焼くなりコロ助ナリ……。




◆◆◆***◆◆◆




 「…………それで。……ハァ……何が、聞きたいのかな?」


 観念したように見せかけているだけで、油断していたら逃げられるかもしれない。私は楓君にアイコンタクトを送り、彼が頷いたのを見てから素早くエイディンラムさん――ソーマさんの足の間に座り込み、両の脹脛に抱きついた。

 絶対確保の陣である。ソーマさんはため息を何度も吐いた。呆れられても離れませんよ!


 「コランダムが人的資源を輸出して成り立ってる国だ、って聞いてから、ずっと考えてたんですけど、そんなんじゃ人口が段々減っていくじゃないですか」


 「そうだね、俺はそんな貧しい国から人を更に減らす悪魔のような所業を、」


 「そんで、和馬が言ってたんですけど」


 「……」


 楓君、図太いなぁ。額に手を宛てて俯いてしまったソーマさんの膝をポンポンと軽く叩いて慰めると、ソーマさんは私の頭を撫でて感謝を示してはくれたが、「俺の足の間に侍るのは止めなさい」と脇の下に手を入れて私の体を猫みたいに持ち上げた。

 そのまま授業の時なんかに使っている椅子に彼が目を遣ったかと思うと、八つのうち一つが私の下に転移していて、ソーマさんはゆっくりとそれに私を座らせた。


 「和馬が前に売られた国は結構遠くて、アゲートの辺境の方なんです。そこは何十人単位で奴隷を買って、所有権を放棄した挙句、仮説住居と当座の生活費を渡して、領地に住まわせて将来的に税金を貰う。……っていう超絶赤字経営の慈善事業してる人が居たらしいんです」


 「ああ、ディラン子爵かな。その話は聞いたことがあるよ」


 「そうやって領民を増やす方法も有りなら、国単位でやってる所もあるかなって。寧ろ、ディラン子爵みたいな慈善家じゃなかったら、奴隷のまま住まわせて搾取するとか。そういうのも有りだろうなって思いついたんです。

 奴隷商売って別に違法じゃないんですよね? それじゃあ売ってる人も、行動は普通の商人と変わらない……。需要のある方に、集まっていく」


 「ウウウ……」


 「その、最初に"そう"なのかなって思いついた時は流石に勘違いだって思ったんです。だって、ソーマさんには俺たちにそこまで入れ込む理由なんて無いじゃないですか。でも、お金が欲しいだけなら、他国の貨幣価値操るとか回りくどいことしなくていいし……」


 ソーマさんはポーカーフェイスを捨て去り、ぎりぎりと歯を噛み締めている。何でこんなに嫌がるんだろうか。

 いい人だと思われるのを、本当に嫌がっているようだ。私たちが彼のことを若干『神様』や『救世主』扱いしていることは黙っておいた方が良さそうだ。

 楓君は半ば確信した顔で口を開く。ソーマさんは彼から目を背けた。


 「――ソーマさん、俺等のクラスメイトを一箇所に集める為にコランダムを滅ぼそうとしてますよね。……俺の考え、間違ってます?」


 「……その、何て良い人なんだろうみたいな目で見るのは止めてくれ。いいかい、違うよ。俺がこんなことしてるのは、勇者の特異点を探す為であって、君たちのためじゃない」


 「でも、もっと楽で上手い方法はありましたよね? 俺等のことをそこら辺に放流すれば能力の噂が立って、クライメイトなら自然と接触を取りに集まってきますし。だったら、計画について俺等に話して……いや、奴隷の俺等には話す必要すらない。寝てる間に適当に他国に転移させれば、それだけで十分ですよね?」


 勿論その場合私たちは身一つ、言葉は通じるが何も持たない状態で、死ぬより酷い目に遭うことは想像だに容易い。暴力か何かで脅されて良いように扱われるのが落ちだろう。


 というかそもそも、私たちはソーマさんの奴隷だ。ソーマさんに逆らえないということは、こんな風にまるで対等なように会話して、話したくないことを苦い顔をしながら話す必要も無い。この状況自体が、全てを物語っていた。けれど、ただ一人ソーマさんだけが"事実"を認めようとしないのだ。


 「それは、ええと……そ、そう、思いつかなかっただけだ!」


 明らかに苦しい言い訳に全員が生易しい目でソーマさんを見る。ソーマさんがじわじわと赤面していくのを見て、雪ちゃんは静かに紅茶を差し出した。

 それを一気飲みした後、やけくそのように頭を掻き毟ってソーマさんは叫んだ。


 「分かった、認めよう! 俺は正直、君たちに必要以上に心を砕いている!」


 「超知ってました」


 「分かってますから、そんなに恥ずかしがらなくても……」


 「めちゃくちゃ感謝してます」


 「買ってもらった時から察してました」


 「くっ、殺せ!」


 ソーマさんはもう一度髪を掻き乱し呻く。心配になって近付くと、手を突きつけられて拒まれてしまう。


 「どうか、俺のことを良い奴だとか思わないで欲しい。本当にクズなんだ。妹の為とか言って賄賂を渡すし、不法入国もするし、自国の最高機密資料かっぱらうし……人だって、殺したことがある。

 本当に、クソでカスで生きてる価値所か生まれた意味もないような奴なんだよ。ほら、君たちの前に居るのは殺人鬼だよ、殺人鬼。落ち着いて考えてみてくれ、な?」


 身振り手振りで危険性を訴えるソーマさんの両手が上向いた瞬間に、和馬君と雪ちゃんが彼の手を両手で大切なものへするように握りしめた。

 ソーマさんは二人の目論見通りに自虐を止め、絶句してポカーンと口を開けた。


 「サイコパス野郎だよ、俺は。君たちはちゃんと考えているのか? 集まるか分かんない四十人の日本人集める為に国一つを滅ぼすって言ってるんだぞ? 君らも幇助したってバレたら百万回死刑にされても足りないくらいなんだけど、本当に分かってんの?」


 何回も確認していく度に、ソーマさんの口調は崩れて表情にも遠慮が無くなっていく。不可解なものを見るような目で私たちをねめつけたのには少し不服だった。


 「あの、分かってます! そんなに馬鹿じゃないです! 分かってないのはソーマさんの方です!」


 「いやそっちの方だろ」


 「もし、万が一、百万歩譲ってソーマさんが本当にク、ク、クズでも、私たちはソーマさんの為に何でもします! 恩返しなんです!」


 「十分返して貰ってるっつーの、何億シュノ生産してると思ってるんだそこの二人が」


 「ご、強情者! うわああん!! お礼がしたいんです! ソーマさんの馬鹿! 分かってない! 全然分かってないのソーマさんの方なんだから!」


 「な、泣いっ、」


 「わーソーマさん、オンナノコナカセテルー」


 「っは?」


 茫然としているソーマさんへ肩入れする者は誰も居ない。私が泣いて喚いて主張している言葉は皆で何度も話し合った総意で、誰も異論を抱いていないからだ。

 皆がソーマさんへ恩を感じているのだ。だから恩返しを邪魔するソーマさん(本人だけど……)に賛同する人はここに居ない。


 「ばかああああ! 私たちが! どんなに救われたか! 分かってないんです! もう死んでもいいって、もう帰れない、もう駄目だって、本気で思ってたんです! どうなってもいい、って! 私たちは――あの日ソーマさんが買ってくれなかったら、自殺する予定だったんです!」


 「――は?」



n+1年 5月

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