第十一話 国一つぶっ壊すその報酬
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楓君はそう言って同意を求めるように土門君を見た。二人は前の世界ではそんなに話すタイプではなかったので、この世界で新しく出来た絆を、少し不思議な気持ちで私は見ていた。
土門君は何度か頷きながら賛成する。
「っお、いいな。あの人頭いいしこの世界の人だし、何かしらアイディアをくれるんじゃねぇの?」
「ええ……自分から聞くの? エイディンラムさんの口から役立たずって言われたら私立ち直れないよ……」
想像だけでぶるりとくる。有能だから私たちを部下にする、という名目で保護してくれたエイディンラムさん。落ち着いた今になって改めてあの人の気遣いを噛み締められた。
私たちの不安を取り除くために心を砕いてくれたのだと思うと嬉しかった。
そんな、私たちにとっては聖人のような存在であるエイディンラムさんだが、役に立たない者を置いておく意味なんて果たしてあるだろうか? 私は不安が湧いて止まなかったが、エイディンラムさんは多分、その程度のことでは私たちを捨てはしないんじゃないかな、とも思った。
土門君も楓君も、そう思ったからこその提案だろう。
「次に来た時に、聞いてみようかな……」
土門君と楓君が偽貨幣とカラーコンタクトを作るようになってから、エイディンラムさんは忙しそうだ。
早く帰ってきてくれればいいのにな、と思う。あの人の口から聞くこの世界のことはとても美しく聞こえる。素晴らしいもののように思えるのだ。嫌いになりかけていたものがドキドキワクワクしたものに変わっていく。
夜には一緒に眠るために帰ってきてくれるエイディンラムさんが気まぐれに語る寝物語も、柔らかい声が聞こえるだけで心が満たされるような気持ちになる。彼が「私には君たちが必要なんだ」と言ってくれた時を思い出して、安心するのだ。
エイディンラムさんは私たちにこの世界での色んなことを教えてくれる。それらはとても楽しくて面白くて堪らない。彼の話はなんでも大好きだ。……だけど、時折不安になる。
貨幣の使い方、言葉や方言、大陸や国のルール。それは、全部生きるために必要なこと。
いつかエイディンラムさんは、私たちを手放すつもりなのかな、と。
◆◆◆***◆◆◆
この子たち多分俺のこと誤解してるよな?
キラキラ輝く目にフィルターがかかりまくって『とてもやさしくてすてきなおにいさん』みたいな状況になっている気がする。
しかし落ち着いて考えればわかると思うが、ただいま彼らの人権を最も侵害しているのは俺で、かつ出入りの手段のない地下室に一ヶ月近く監禁されていることも加味すれば俺は立派なクソ野郎である。
だというのに。
「エイディンラムさん! 偽金貨出来ました!」
「ありがとう、とても助かるよ」
頭をぐりぐり撫でてやると土門君はへらへら笑っている。いや、喜んでくれるのは嬉しいんだけど。この世界でも偽貨幣製造は犯罪だよ? 気づいてる? やらせてる立場で言うのも何なんだが、君らそんな軽い気持ちで手伝っていいのか?
俺としては当然、家宅捜索等が入ったら一人で罪を被るつもりだが、この子達はそんな俺の思考なんぞ知るはずもない。
今までしてきた俺の全部の罪を着せられたら凄いことになるぞ。俺結構やらかしてるからな? 一昨日も、君らが寝たのを確認した後コランダムまで転移して(流れるように不法入国)バーで近頃のコランダムの動きとか探り入れてたんだぞ?
遠い目で、彼らの無邪気さというか、性善説を信じすぎている感を憂いつつ、両サイドから子猫のように纏わり付いてくる少年少女たちに手を引かれる。
奥では残りの子達が俺の為に紅茶を用意していて……何かこれどっかで見たことあるなと既視感を探る。
――ッア、ウチの国王の後宮じゃん。
オエエエエエエッ! ショタコンロリコン野郎のあんな奴と同じ未成年の花園を! 俺は今! 不本意にも作っている!! オエッ! あんな爺と同じような変態行為を! オエエッ!
突然顔を顰めた俺へ、どうしたんですか? と真剣に心配してくれるこの子達に大変申し訳ない気持ちになって、改めて自分のやっている行為が拉致監禁罪だと認識する。
ごめ、ごめんな……マジでごめん……そうだよなこれ犯罪だな……。
この世界で、我が領地に忍び込んだ何処ぞの"草"を拷問することには何ら罪悪感を抱かなかったというのに、この……これな……これ想像以上にキツい……。
内心ショックを受けつつ淹れてくれた紅茶を受け取る。不味くもないし美味くもない。そこそこの味だった。
「ありがとう、美味しいよ」
笑って礼を言い、茶菓子を机の上に幾らか転移させると、彼らはわっと声を上げて、俺の顔を見て食べていいかを問うた。
頷いてやると嬉しそうに食べ出す。中に毒とか入ってたらどうするんだよちゃんと警戒しなさいってお父さん何度も教えたでしょ!
「……ハァ」
同じ国出身の好である。俺は彼らの価値観が痛いくらいにわかるので、こんな異常事態に対して拒否反応を示さないことに一抹の不安を覚えていた。
楓君も土門君も、それから他の子達も、自分たちが何かしら犯罪に利用されていることくらい勘づいているはずだ。外に出たいと一度も言わないことも変だし、俺が出したものを躊躇いなく食べるところもおかしい。
同じ世界で生まれ同じ国で育ち同じ価値観を持っているはずの彼らの考えが読めない。
それってもしかして、俺がもう『日本人』じゃなくなってしまったからなのだろうか。
「……君たちは、私のことをどう思っているんだい?」
勝手に口が開いた。辞めた方が良いと内心分かっているのに、止まらない。これはきっと、四月の茶会でブルースにぶちまけそうになったのを耐えた分の反動だ。
太陽の光もないこの空間で西陽なんて入りようがないから、指輪は言葉を咎めてくれなかった。
「いい人? 優しい? まさか慈悲深いなんて言わないだろう? 薄々気づいているはずだ。その硬貨が何か……悪いことに使われているくらい。
君たちには知る権利がある。私がそれを何に使っているのか、問う権利があるんだ。私はそれを態度で示してきたはずだし、君たちも聞けば私が答えることを理解しているだろう? なのに何故、何故何も聞かないんだ!?」
ぐ、と握りしめた拳に爪が食い込む。その痛みにはっとした。
何を感情的になっているんだ。落ち着け。平静を保て。隙を見せるな個性を消せ癖も人間味も表情を殺してこの場で最も適切な答えを思考しろ。
何とか平静を上塗りして、先刻の失態を拭う案を考え始める。無かったことにするにはどうする?
忘却術……奴隷なら無理矢理に同意させれば可能だが。何分生涯での使用回数がたったの二回。統計を取ったこともないし、間違えて要らぬところまで消してしまったら大問題だ。
記憶のデリートなんて度が過ぎれば殺人と変わらない。生まれた時までの全部の記憶を消したら、その人はその人じゃなくなる。というか他人の記憶なんて消したことがないし、間違えて人格崩壊なんて起こしたら取り返しがつかない。
口に微笑みを浮かべて、何事も無かったように取り繕う。なんとか誤魔化すことは――。
「すまない、ね。ちょっと取り乱したようだ」
はは、と笑えば多少は空気が弛緩すると思ったのだが、そうは問屋が下ろさない。いつまでも緊迫感は消えなかった。
ちくしょう、何で言っちまったんだろう。普段は理性で以て支配している自我が、この空間では何故か緩んでしまうみたいだ。
後悔と焦りが空回りする。口をもう一度開こうとした途端、俺の手は小さな女の子の手で包まれた。
「私たち、そんなの分かってます。それでも――ソーマさんのことを、信じてるからやってるんです」
握った拳を、するすると小さな手が包み込む。
手の持ち主は雪ちゃんだった。でもおかしいじゃないか。彼女はとある子爵に暴行を受けたらしい。トラウマになってしかるべき出来事だ。今何で俺に触れていられるんだ。
何が"信じてる"だって? まだ勘違いしてるじゃないか!
「……いいや、君たちは何も分かってない。俺がしたことを教えてあげれば、きっとそんな風に触れることなんて出来くなるに決まっているからね。俺がしたことを全て教えてあげるよ。存分に軽蔑してくれて構わない」
雪ちゃんの手をそっと離し、指輪を撫でて心を落ち着ける。大丈夫だ、彼らは奴隷だから、最悪は…………。
そう、俺はこんなやつなのだ。どうにかして彼らに俺の醜い本性を教えてやらねば哀れが過ぎる!
こんな生まれてきたのが間違いだったサイコ殺人野郎に無垢な好意を寄せることなど、そんなことがあってたまるものか。
「まず、俺は転移術を使ってコランダムに不法入国した。そしてコランダムの孤児院に君らに作らせた贋金を配った。院長は『子供たちに沢山物を食べさせてやれる』と喜んでいたよ。
あの金を使えば使うほどコランダムには金貨が溢れる。造幣局の関与していない通貨が増えていくから信用も減っていき、シュノ安は急激に加速していくだろうね」
分かるだろうか。俺が自分の欲望のために国を滅ぼそうとしているってこと。何百万人の人を傷つけることも厭わないクズだと、もう理解し始めたんじゃないだろうか。
「今のペースで行けばコランダムの貨幣価値は過去類を見ない速度でみるみる落ちていくだろう。そうすればどうなると思う? あんなに喜んでいた彼らの、子供たちへの親愛が国を壊していく。
コランダムは外部に食料や物資を依存している。輸出出来るのは僅かな鉄鋼と人的資源のみだ。それだって輸出し続ければなくなる。人が国から消えていく。十年、二十年これを続ければ、コランダムはあっという間に――」
「エイディンラムさん……いや、ソーマさん。いいんですって、そういう風に言わなくても」
俺の言葉を遮ったのは楓君だった。この子は他人に対して優しくて、責任感が強いきらいがある。恐らくは最も嫌悪を示すはずの人間だった。
「俺らが作ってる金貨。そういう風に使って、ソーマさんが何しようとしてるかとか、薄っすら気づいてます」
「君のそれはきっとハズレだ。例え当たっていたとしても、どんな目的があろうと、俺のやってることは非人道的だとは思わないか?」
「じゃあ当ててみましょうか?」
――ソーマさんが何の為にこんなことしたのか。
落ち着け、と先程のように唱えたが、冷や汗だけは誤魔化せなくて背中に一筋の汗が伝った。とても、気持ちの悪い感触だった。
n+1年 5月
展開は決まってるのに中々進みません。難しいな




