第十話 不法入国する詐欺師
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勇者の特異点を探さなければならない。
俺の手元には八人の勇者モドキが居るが、彼らの能力はどれも伝承に聞く勇者のものとは違う。祐太君に至っては片腕をなくしたショックか謎のバッドステータス付与スキルを入手していた。
一応義手を与えてみたはいいものの、例え帰れたとしても彼があのままなのかと思うと胸が苦しくなる思いである。気の毒すぎる。
俺は伝を使って癒しの賢者にアポをとったが面会は早くても十年後だそうだ。祐太君が待つと言うなら俺……ちゃんと世話するから心配するなよ……。
話を戻そう。俺は他の日本人を探すため自国内の奴隷市場を冷やかしたりしたのだが、目敏いやつは何処にでもいるようで黒髪黒目の子供たちは売り切れてばかりだった。
奴隷になっていない子を手元に置くのには不安があるし、それは別段構うことではないのだが、勇者には魔王を殺して名誉を得た後リリーと結婚するorリリーの盾となりつつ、彼女に名誉を与えるために二人で魔王を殺すかして頂かないと非常に困るわけだ。
俺は他国に目を向けざるを得なかった。そこら辺を行脚すれば一人くらいは引っかかるだろうが、それだけでは足りない。なんせ候補は三十二人残っているのだ。
なら、効率の良いやり方で行こう。コランダムには申し訳ないことをするけどどうか、俺に入国拒否をしたこともしくは「聖女は聖神ドレアスの御許に」とかいって国家間衝突起こしそうになった自分の行いを悔いて欲しい。
◇◇◆◇◇
薄暗い路地に、不意に光が迸る。
何処ともない空間に現れた光は、ゆっくりと弧を描き、虚空へと細かいオルトリア大陸の言語を刻んでいく。やがて出来上がった魔方陣は脈動するように二、三度瞬き、そこへ薄青に輝く立方体を幾つも吐き出した。生み出されたキューブはくるくると自転をしながら"何か"を形作っていく。
「ふぅ……遮蔽物ナシ、人目もナシ、っと」
そこから現れたのは青年だ。キューブが作り上げた者は人間だった。彼はコランダムではかなり珍しい碧い瞳の持ち主で、視界の端に居た猫に見られていたことに苦笑した。
「にゃあ」
「猫か……久しぶりに触ったな」
じゃれついてくる猫の頭をおざなりに撫で、空いた手で懐のポケットの中のレンズケースを取り出す。カラーコンタクトだった。
何度か瞬いて具合を確認すると、彼の瞳はすっかり赤い色に変貌していた。
「勇者サマサマだぜ、これでコランダムでも好き勝手出来る」
にぃ、と頬を吊り上げた顔の何と愉快そうなことか。彼は猫を置いて路地を出て行く。日の差す往来へ向かっていく背中を黒猫は暫く眺めていたが、彼が早速"好き勝手"を始めたのを見ると大きな欠伸をして何処ぞへと行ってしまった。
「おーいおっさん、ちょっと串焼き一本売ってくれよ!」
誰が知らんや彼こそが、隣国リシアの誇る聖女の兄であり、他ならぬエイディンラム家の時期公爵――ソーマ・エイディンラムである。
以前はちょっとした悪ふざけで作ってもらった純度百パーセントの金貨だが、当たり前のことながらコランダムではそんなもんは流通していない。
最初の一枚であるあれは、はじめてのお使いならぬ"初めての偽貨幣造り"記念としてディスプレイケースに飾って部屋に置いてある。初めての偽貨幣造り、いやはや胸が熱くなる字面だな。
土門君と楓君には、純度まで流通しているものと等しい大量のシュノ硬貨を作ってもらっている。金銀合わせてざっと四千万枚。日本円にして二億二千万円ほど。
俺は何も、日頃入国拒否をされているコランダムへと観光へ来た訳ではなく、これらの金でちょっとした善行(笑)を積むためにここへ転移したのだ。
「失礼そこの美しい人……ここらに私営の孤児院などは無いだろうか?」
「っあ、ええと、外れのイムの森の方に、領主様が個人的に経営なさっている孤児院があります……」
「ああ、場所まで教えてくれてありがとう。お礼がしたいな、そこの喫茶でお茶でも如何でしょう?」
いやホント、他国で、その上身分隠してるからって遊んでる訳じゃねぇから。ホントだよ?
散々好き勝手した訳だが、ちゃんと俺はその日四件の孤児院を回った。目的は寄付だ。心優しいお貴族様が寄付をしに来た。何も不自然じゃないだろう? 瞳の色だって何処からどう見てもコランダム人だ。
「寄付をこんなにも……その、大変有難いのですが、一体なぜ……」
目の前の院長さんは中々用心深い人だ。五件目にして難所かな。今までは泣きながら「これで子供たちを満足に食べさせてあげられます!」と感謝されたんだが。まあ、こんなこともあると思って、言い訳はちゃんと考えてある。
「……貴方はきっと、説明しなければ受け取ってくれないでしょうから、お教えいたします。ですが、どうか。ここだけの話として、胸にしまっておいて欲しいのです……」
しんみりとした顔を作り、俺は嘯く。
やれ一部の上層部が、聖神ドレアスの教えに逆らい、過ぎたる欲を抱き税の着服により金を貯めていた。やれ自分はそれを発見したが、摘発してももみ消されてしまい、口止めに金だけを渡された。口惜しくて仕方が無い。せめて誰かの役に立てたい。などなど。
目元を抑え沈鬱に語ると、疑り深い院長さんはさっと青ざめた。
「し、しかし、そのような金銭を使うなど……!」
「大丈夫、こちらは私の私財ですから。……秘密を知ってしまった私は直に消されてしまう。その前に、何かを成し遂げたかったのです」
実際にはどっちかというと秘密を知った者を消す側の人間だけどな。
金貨を入れた皮袋を置き、立ち上がる。じゃらりという音に唾を飲み込んだ強欲な男は、きっと羽振り良く臨時収入を使ってくれるだろう。
別に、彼が見た目に合わず意外な倹約家の一面を持ち合わせていても構わない。こちらは無限に偽貨幣を生み出せるのだから、無理せず色んなところに配り歩けば良いだけのことだ。
これからコランダムに起こるであろう未曾有のインフレの嵐を思うとクツクツと笑いが漏れた。いやあ楽しみだなあ。
背後で院長さんが皮袋に頬ずりしながら「ありがとうございます、貴方に聖なる神ドレアスのご加護が御座いますように」と祈るのが聞こえた。
◆◆◆***◆◆◆
不思議なパワーを使って金属原子を変更することの出来る土門君と、同じく不思議なパワーを使って物の造形を弄ることのできる楓君はペアを組んで偽貨幣を作っている。
エイディンラムさんは日に一度それを受け取りに来て、みんなの体調を確認して……私たちが強請ったら、一緒に寝てくれる。お願いすると、彼は苦笑しながらも拒んだりはしなかった。
ベッドには九人が眠っていて、エイディンラムさんの近くに居られない子もいる。だけど、彼があの、困ったような笑みで頷いてくれる度、私たちの我侭を聞いてくれる度、今が夢じゃないということを認識することできて、それだけで私たちは安心して眠ることが出来た。
太陽の光が差さない所か窓も無いこの空間だが、天井に嵌められた光る石は勝手に太陽に合わせて明るくなったり暗くなったりする。室内灯としてシャンデリアの光を浴びるのにも慣れてしまった。
猫のように丸まっていた私たちは、ベッドにエイディンラムさんが居ないのを少し寂しく思いつつ、伸びをして洗面所兼お風呂兼トイレ……とにかく、水回りのある一画へ行く。
この部屋は、それこそ何のためにあったのかも分からないくらいに何もない部屋だったのだが、エイディンラムさんは転移術を使って様々なものを増やしていってくれた。この水道系の一画も、新しく作られたものの一つだ。
水は何処から汲んでいるのか気になって和馬君に聞いたら『魔石』というものが使われているらしい。大体一個三千万円だそうだ。吃驚して声が出なかった。
何気なく使っているベッドも読んでいる本も、エイディンラムさんがお休みの日に教えてくれる地理に使う正確で緻密な地図も、全部全部驚くような値段のものらしい。
和馬君の鑑定を聞き、私たちは恩を返す気は元より十分にあったが、より一層奮い立った。
雪ちゃんは氷を作れる=熱を操ることが出来る、というエイディンラムさんの推測を元にせっせと氷を作っては溶かしていて、三輪さんは佑太君のなくなってしまった腕を再生できないか、ということで練習も兼ねて毎日三時間ほど魔術を使っているらしい。……残念ながら効果は伺えないらしく、意気消沈していた。
和馬君は本を読んで鑑定眼を磨き、栞ちゃんは楓君たちと混ざって何か物を作る度に付与能力を試している。
佑太君は一度闘技場に売られた時に、剣術を我流ながら身につけたとエイディンラムさんに言ってからは木刀を与えられていた。
決して仲間はずれにされている訳では無い。能力の訓練、というか練習だって、エイディンラムさんは「君たちに戦ってもらうのは当分先だから、ゆっくり慣れてくれ」と言っていたから、空いた時間では皆で円を作って学校や家での話をしていた。
だけど私は少し居心地が悪かった。だって、私の能力だけ、何の役にも立たないのだ。
「谷咲、そんなに思い詰めるなよ」
「楓君にだけは言われたくないよ……」
最初の方、エイディンラムさんに偽貨幣を造るよう頼まれた彼は、自分が役に立たなければ私たちが捨てられるかもしれない、と思ったそうで、土門君とタッグを組んで三日間徹夜をしたのだ。
エイディンラムさんは思わぬペースに喜んではいたが、日に日にやつれていく彼らにクエスチョンマークを浮かべ、こっそりと佑太君に事情を聞いたところ、呆れたようにため息を吐いて言った。
「君たち、眠らずに作業しているというのは本当かい?」
「お、俺たちが勝手にやったんです。こいつらは、こいつらには何もしないで下さい! お願いします!」
「ハァ……言っただろう。もう一度言わないと分からないのかな?」
「す、すみませんでした、本当に、だからお願いします、こいつらは、」
「――私には君たちが必要なんだと、どうしたら分かってもらえるんだ?」
困ったように笑うエイディンラムさんは、泣き出しそうになっていた二人の頭を撫でて、それから釣られたように泣き出した私たち八人にお決まりのようにお菓子をくれた。
完全に幼児扱いをされているような気がするが、貰うと笑みを抑えきれないくらいに喜んでしまうので、ちょっと悔しいがその扱いは全く間違っていないのである……。
「二人は金貨作ってって指示されてて羨ましいよ」
「最近慣れてきて寧ろ物足りないぞ。こんな粘土丸めるみたいな作業でホントにいいんですか? みたいな」
「こんな言葉使うことになるとは夢にも思わなかったけど、偽貨幣作るの段々うまくなってきてるんだよな……」
「役に立ってるだけマシだよ。私ホント使えない能力なんだよな……」
「……み、見た目は綺麗じゃん?見た目は」
「そうだね見た目だけだね」
楓君は明らかにフォローに困った顔で頭をかいたが、はっと思い付いたように目を見開いた。
「エイディンラムさんに聞いてみるのはどうだ?」
n+1年 5月
登場人物紹介とかそろそろ必要ですかね? 八人に個性をつけるのが難しくて……キャラが似てるから多分判別しにくいですよね
ゆうた かずま かえで どもん
ゆうか みわ ゆき しおり
の八人がエイディンラムの手元にいます




