001:ウルシュ・ファニ・スネイブル 再会できたなら
ベイザラード王子の発言の『萩嬢の頭部を持って旅している』が気になるところだけど、多分エピソードが長くなる気がするから後日改めて聞く事にして、夢の中で萩嬢が手に入れた情報である《元の世界に帰らなければ、輪廻転生のための輪廻の輪から外れてしまう》という情報を深堀すれば、イザベラお嬢様の夢に関しての情報や原因が掴めそうな気がした。
イザベラお嬢様が静かに泣いているところ申し訳ないが、午後に家庭教師による授業がなく、課題訓練もない自由な時間が取れる日はそうそうないので、今のうちに少しでも多くの情報を集めるために質問を重ねる事にする。
「イザベラお嬢様と萩嬢が知っている輪廻転生や輪廻の輪の話を、もっと詳しく聞く事は出来ますかぁ?」
「そうだな。確かにこの夢がただの夢か、それとも魂の記憶かを考える手がかりは、きっとそこにあるのだろう」
そう言ってベイザラード王子、いやイザベラお嬢様が語った内容は次のようなものだった。
後日一人でも考察できるように、内容を忘れないようメモを取っておく。
• 輪廻転生によって配置された魂は、その世界での生涯を終えると、次の転生の為に輪廻の輪に回収される。
• 輪廻転生によって配置された魂は、配置された世界に記録されているため、何らかの原因により配置先の世界から魂が紛失、移動、滑落した際は、記録上の配置場所に無いため輪廻の輪に回収する事が出来なくなる。
• 輪廻転生の初期配置時点で配置ミスが起きた際には、本来配置され、記録される予定だった世界に、再転移され記録修正が行われることがある。こうして転移した存在は『異界渡り』や『渡り人』などと呼ばれ、生涯を終えた際には輪廻の輪に回収する事が出来る。
• 輪廻転生によって配置された魂を、何者かが儀式等により配置されていた世界から召喚、誘拐、転送を行った際には、輪廻の輪に回収する際、記録上の場所に魂が存在しないため回収不可となり、召喚先、転送先に魂が残留する事になる。残留した魂は長い年月の間に消耗し消失する事もあるため、異世界から召喚等の儀式により、魂を無断で配置移動する事は禁忌とされている。
「萩は人族が禁忌を犯して行った、異世界から生命体を召喚する儀式に巻き込まれた少女だった。人族はそれを勇者召喚などと呼んでいた。次元を超えると魂は特殊な能力に目覚める事があるらしく、それを利用し特殊な能力やスキルを持つものを都合よく手に入れようとした、人族の王家による被害者の一人だ」
なるほど、だから萩嬢は本来配置記録されていた世界に戻る必要があったという事か。ただ疑問が更に湧いてくる。
ベイザラード王子の知っている情報によると、萩嬢は『儀式に巻き込まれた少女』という事らしい。つまり事故的な要因で召喚され移動してきたようだ。
「巻き込まれたっていう事は、萩嬢は召喚される予定じゃなかった人物という事ですかぁ?」
「本来は成人男性2人と成人女性2人の、合計4人を召喚する予定だったらしい。だが萩は予定にない5人目で、元の世界では未成年者という扱いだった。だから他の召喚者4人が協力して萩だけは、なんとか逃がしたらしい。人族の王族達が信用に値しないから、お前だけでも逃げて生き延びろと、旅に必要な装備や金銭をかき集め、監視の目を欺き萩だけは王族の管轄外へと送り出してくれたのだと、萩はそう言っていた」
どうやら勇者召喚された大人達は、未成年者の萩嬢だけでも無事に生きられる道を願う、善良な人達だったらしい。
その彼らも元の世界に戻れたのか疑問だが、ベイザラード王子の持っている情報だと、人族の魔術師によって異世界から召喚する事はギリギリ出来たとしても、送り返すことは不可能だという。
「異世界の人間を、元の異世界に正しく戻すというレベルの干渉を行えるのは、そういった特殊スキルを持たされている存在。もしくは、魔王や精霊王かそれに準ずるレベルの力を持ったもの、もしくは神格の存在だ」
「だからベイザラード王子は、魔王レベルになるまで生き残る必要があったんですねぇ」
「萩が生きていて、俺が魔王に成れたのなら、萩を俺の世界の存在として記録改変して妃として娶ったのだが、俺が魔王になるどころか次元や時空に干渉出来るスキルを手に入れる前に、俺の力及ばず死なせてしまったのだ。だから、夢の中の俺はせめて萩の魂を元の、記録上の世界に戻してあげたいんだ。そうすればいつか転生した先で、再会できるかもしれないからな」
なんとなく、これは本当になんとなく、何故か興味本位で聞いてみたくなった。
イザベラお嬢様の夢の正体や原因を探る手掛かりでも何でもなく、ただ本当に興味本位で聞いてみたくなった。
「もし、夢が本当だったとしてぇ、例えば転生前の魂の記憶だったとしてですよぉ? 萩嬢を元の世界に返してあげられて、お互いに転生して、そして再会できたならぁ………どうしたいですかぁ?」
「もちろん、改めて求婚する。俺の隣にはアイツしか要らないんだ。なんど生まれ変わろうとも必ず俺は萩を見つけ出すよ。そしてまた共に旅をするんだ。世界中を」




