第29話 舞姫降誕
春休みが暇すぎて死にそうな作者です。
今回はミカエラさんが頑張る回です。(次回も)
慎吾と別れてルーベルカン遺跡へと、結社のメンバーを追って来た愛菜、セナ、ミカエラ、シエテ、フィレルミア、レイベルの6人は遺跡に居ると言う結社のメンバーを探していた。
しかし、探そうにもそもそも結社が何か分からなければ、そのメンバーの特徴すら分からない。そんな状態でどうすれば良いのか6人が迷っていると、遺跡の入り口の方から2つの人影が歩いてきた。
1人は小さな少女で、頭上に天使の輪っかの様なものが浮かんでいて、スチームパンク風の服を着ていた。そしてもう1人は、サングラスをかけたホスト風の浅黒い男ーーアナスレシアとジェレドの二人ーーだった。
ジェレドは片手に青い水につけられた右腕を持ち、それを玩びながら6人に近づいていった。
「おろ? おたくらどちらさん?」
遺跡内部から現れた2人に警戒心MAXで6人はいつでも動けるように構えた。
「そんなに警戒すんなよ~」
「人の腕を持った人間が現れたら、警戒するのは当然の反応だと私は考えますが」
「えぇー、だってしょうがないじゃーん」
「あなは本当に軽薄ですね」
「えっ、急に?!」
「気にしないでください、前々から思っていましたから」
「前々から思ってたの?! なんか知りたくない情報知らされた!」
目の前で突如として繰り広げられる漫才の様な何かに唖然とする6人だったが、ジェレドが持っている右腕を見ると警戒を緩めることはせずに、さらに警戒を強めた。
そんな6人にふと、ジェレドが視線を向ける。その目にはサングラス越しでも分かるほどの殺気が込められていた。その視線を浴びた6人は、六者六様の反応を見せる。飛びすさる者、武器を構える者、腰が引ける者、様々な反応を見せる6人に、ジェレドは油断なく目を向け、口を開く。
「それで、おたくらは……なんなの?」
さらに殺気を強めた視線を浴びた6人は、ジェレドとアナスレシアを敵だと判断する。武器を構えた愛菜が代表して話しかける。
「あなた達が、結社?」
「だったら、どうするって?」
「その腕を奪うわ」
「コレが何か分かってるのか?」
「知らないわ、でもそんなの関係ない」
「ふぅん……?」
「あなた達は、帝都で魔物を生み出している女の仲間なのでしょう?」
「まぁ、な」
「理由はそれだけで充分よ」
「あっそ、敵って事ね。俺としてはかわいこちゃんは出来るだけ傷つけたくないんだけどなぁ……」
「そんなことをいっている場合ではありませんよ。早く蹴散らして帰りましょう」
「レシアは言うことが怖いなぁ」
「否定します、私の名前はアナスレシアです」
サングラスをとったジェレドの目は、右が赤で左が青のオッドアイだった。ジェレドは左の目を怪しく、青く輝かせながら、6人を注視する。
「凍れよ、邪眼解放ーー|《氷神の邪眼》《フリーズ・ゲイザー》!」
ジェレドの左目から、全てを凍てつかせるかの如く冷気が迸り6人を襲う。愛菜とレイベルは咄嗟に飛びすさって避けるも、シエテとミカエラ、セナが逃げ遅れてしまう。
「姫様っ!」
「くっ、これはっ!」
「うわぁ! なんすかコレ!」
シエテは意地で、ミカエラと冷気の間に身を滑り込ませ盾を構え冷気を迎え撃つ。冷気を一身に受けたシエテとセナは下半身が完全に凍ってしまい、動くことが不可能となる。
「シエテッ!」
「姫様は、敵を……!」
「分かったわ。待ってなさい、必ず助けるから」
「お待ちしております」
セナはミカエラのように護衛が居るわけでもないので、誰にもかばってもらえず、当然の事として1人で放置されることとなった。
「大丈夫ですよ、セナ殿。心配せずともお三方に任せておけば」
「あ、はい……」
シエテの心遣いが身に染みるセナだった。
† † †
ジェレドの邪眼による攻撃を避ける事が出来た愛菜とレイベルの2人は、それぞれアナスレシアとジェレドを相手取っていた。
「ぐっ」
「降参することを推奨します、貴方では私に勝てません」
身の丈よりも大きい大剣を、頭上の輪っかから取り出して片手で軽々と振るうアナスレシアに愛菜は苦戦していた。
「降参しないのですか?」
「嫌よっ、慎吾に任されたんだから……っ!」
「そうですか」
無表情で、かつ無情にアナスレシアはさらに力を込めて大剣を振るう。自らの剣でそれを受けた愛菜だったが、あまりの威力に受け止めきれず吹き飛ばされ、付近の木に背中を強かに打ち付ける。
「ぐぅっ」
「これで、終わらせましょう」
言葉と共に、アナスレシアの大剣が降り下ろされる。しかしこんなところで死ぬわけにはいかない愛菜は、奥の手を使う。
「《竜気解放》!!」
それは竜人族の愛菜にのみ使えるスキル。身に蓄えた竜気を解放し、一部のスキルの使用制限を解除すると共に身体能力を倍ほどに引き上げる。そして、その変化は身体にも現れていた。
額から深紅の2本の角が生え、背中からは竜が持つような二対四枚の翼が生えていた。愛菜はその翼を用いて宙に飛び、アナスレシアの一撃を避ける。
「竜気を解放できるほどの竜人族でしたか、これは貴方の脅威度を変更しなくてはいけませんね」
アナスレシアは静かに呟く。そして、頭上の輪っかに大剣を仕舞うと、次は2つのハルバードを取り出し、片手に1つずつ構えた。小柄な少女が重そうなハルバードを片手に1つずつ持つという異常な光景の出来上がりだ。
アナスレシアは人工生命体であるが故の脚力を用いて上空の愛菜へと襲いかかる。愛菜はそれをさらに上空に飛び上がって躱し、今度は自分から仕掛ける。
「《竜砲・ドラグヴェイル》ッ!」
愛菜がスキルを発動すると、彼女の傍らの空間が歪み、そこから巨大な大砲が現れた。それは愛菜の手に併せて動き、彼女が手をアナスレシアへと降り下ろすと、巨大な砲口に力を蓄える。
「っ、させない!」
アナスレシアが空を踏み締めるようにして愛菜へと近づくも一瞬遅く、ハルバードを振るう前にパワーのチャージが完了していた。
「撃てっ!」
愛菜の意思により打ち出された強大なエネルギーは、大砲の眼前に居たアナスレシアを地面へと叩きつけ、数秒間、深紅のレーザーを照射し続ける。レーザーの照射が終了したそこに居たのは、愛菜の期待とは裏腹に、ハルバードをクロスさせた少し煤けただけの、大したダメージを負っていないアナスレシアだった。
「なっ」
自身の最大火力の攻撃でも多少しかダメージを負っていないアナスレシアを見て、一瞬呆ける愛菜。しかし戦場ではその一瞬が命取りとなる。
アナスレシアは愛菜が呆けた一瞬の隙をついて彼女へと接近し、ハルバードを振るう。咄嗟のことでしっかりと受けきれなかった愛菜は、大きく後退させられるも翼を振るわせて体を止める。
しかしアナスレシアは敵が体勢を整えるのを待ってくれるほど甘くはなく、体勢を整えている途中の愛菜に近づき、ハルバードを振るう。次々と繰り出されるハルバードの重い一撃は、愛菜の体力をガリガリと削っていき、最初は拮抗していた戦いが徐々にアナスレシアへと傾いていく。
† † †
レイベルは焦っていた。
レイベルが相手取っているジェレドは、常に一定の距離を保ち、懐に入らせることなく中遠距離から邪眼での攻撃を繰り出してくる、という接近戦しかできないレイベルにはやりづらいことこの上ない敵だった。
それに併せて、愛菜が苦戦しているのもレイベルが焦る要因となっていた。愛菜はレイベルよりも強く、何度手合わせしても敵わないほどの相手だった。
自分が相手にならない人が、苦戦している。
それによるプレッシャーは大きいだろう。援護に入ろうにもジェレドをどうにかしなければそれも儘ならない。
「くそっ、ちょこまかしやがって! 大人しく殴られろ!」
「いやいや、殴られるの分かってて近づくヤツいないでしょ」
軽口を叩きながらも、右目の能力である炎をレイベルの足下に顕現させる。その炎は意思を持つかのようにうねうねと動き、レイベルを追尾する。レイベルはその炎を魔力を纏わせた回し蹴りで消し飛ばす。
「おぉ、怖い」
さらにジェレドは氷の槍を作り出してレイベルへと発射する。己に向かってくるそれを躱し、反らし、砕きながらジェレドへと近づいていく。漸くジェレドに一撃加えられる、そう思いながら繰り出した拳は、空を穿った。
「は……?」
目の前にはゆらゆらと陽炎のように揺らめくジェレド。状況が上手く飲み込めず、呆ける。そこに浴びせかけられる人をバカにしたような声は、先程まで目の前に居たはずのジェレドだった。
「ざんね~ん、蜃気楼でした~。どれが本物か分かるかな~? |《蜃気楼による喜劇》《ミラージュ・コンパルティ》」
レイベルの周囲に次々と現れる無数のジェレド達。一人一人がニヤニヤとした軽薄な笑みを顔に張り付け、その様子は嫌悪感を抱かせるかイライラさせるかのどちらかだろう。
「うぜぇ! さっさと消えやがれぇ!」
どうやらレイベルは後者の様だった。それも半端じゃないくらい苛ついている。冷静な判断が出来なくなるくらいに。戦場での判断力の欠如は致命的。ましてや相手が自信と同等かそれ以上の力量を持つとなれば、なおさら。
身近のジェレドへと次々と攻撃を繰り出しては掻き消しているレイベルへと、本体からの氷の槍による攻撃が加えられる。苛ついているのにその攻撃はしっかりむ迎え撃っているあたりは、さすがと言うべきだろうか。しかし、数多くのジェレドが入り乱れている中では、どこから攻撃が加えられたのか分からないため、レイベルも攻めあぐねていた。
「ほらほら~、早く俺を見つけないと死んじゃうかもよ~?」
相変わらずの人をバカにしたようなジェレドの声は、しかし的を射ていた。どこに居るのか分からないジェレド本体から繰り出される氷や炎は、次第に数と勢いを増していき、レイベルでも捌ききれずにその体に掠りだすようになっており、先程は一撃がしっかりと当たってしまっていた。
「チィッ、どこにいやがんだ! 出てきやがれ!!」
「だから~、殴られるの分かってて出てくヤツなんかいないでしょ~」
「くそったれが!」
レイベル対ジェレド戦も、次第にジェレドへと勝利の天秤が傾いていった。
† † †
ミカエラは、歯噛みして自分の無力さを恨んでいた。
目の前で繰り広げられる愛菜とレイベルの戦闘に目が追い付けていない自分の無力さを恨み、そんな戦闘を繰り広げることのできる二人の力を羨み、一部の者に[舞姫]や[闘姫]などと呼ばれて調子に乗っていた自分が恥じていた。
そして、生まれて初めて、力への渇望を抱いた。力が欲しい。あの二人に届くような力が欲しい。あの二人を助けらるような力が欲しい。そう、切実に願った。
その願いが、神にでも届いたのだろうか。何はともあれ、ミカエラの願いは叶えられることとなったのは、紛れもない事実。
『力が、欲しいですか?』
「え……? 誰ですか?!」
頭に直接声が響くような、そんな不思議な感覚を覚えたミカエラは、俯かせていた頭を勢いよく上げる。その目に飛び込んできたのは、色彩を失った世界。木の緑も、地面の茶も、空の青も、全ての色が失われ、白黒となったモノクロの世界だった。
「え、何……これ……?」
『少しの間だけ、時間を止めました。しかし、それも長くは維持できません。ですから、早く問に答えてください』
「時間を止めた? 誰なんですか、貴方は?!」
『そうですね……[舞姫]とでも名乗って起きましょうか。まぁ、時間を止めたのは私ではありませんが』
「[舞姫]……」
奇しくも、彼女が名乗った名は、ミカエラの二つ名と同じ物だった。
『さて、早く問に答えてください。時間がありませんから』
「力が欲しいか……でしたっけ?」
『えぇ』
「それはどういう……」
『そのままの意味ですよ、元々貴女には素質がありました。あとひとつ足りなかったのは、力への渇望。その条件も今満たしましたし、私が力を貸す事への枷は特にありませんし』
「貴女は一体……」
『英霊ですよ、英霊』
「英霊……?」
『まぁ、過去の英雄みたいなものです』
「過去の、英雄……。その英霊が私に力を?」
『私達英霊は、とある条件を満たした一人にのみ力を貸すことを許されているのです。条件は英霊によってそれぞれ違いますが……まぁ今はそんなことどうでも良いのです。力が欲しいですか? それとも要りませんか?』
「貴女の力を借りれば、彼らに届きますか?」
『まぁ、本来の登らなければいけなかった階段の何段かは、すっ飛ばして近づけるでしょうね』
「なら、私の答えは決まっています」
『じゃあ、聞きましょうか。貴女の答えとやらを』
ミカエラは、大きく息を吸い込み強い決心を孕んだ目で英霊[舞姫]と対峙する。
「私に力をーー彼らに近づけるだけの力を貸してください」
『良く言いました、私の力の使い方は自ずと分かるでしょう。さぁ、行ってあげなさい。行って彼らを助けてあげなさい』
「はい!」
強い決意の目をしたミカエラは、大きくうなずいて一歩を踏み出す。苦戦している彼らを助けるために、憧れのあの彼に少しでも近づくために。
† † †
「《宝具解放》!」
モノクロの時の止まった世界ではなく、色彩のある、人が生きる世界に、一人の少女の声が響く。
そのミカエラの声に併せて、彼女の体は浮かび上がりその背後に巨大な扇が現れる。少し遅れて、彼女の周囲をグルグルと回るように12の普通サイズの扇が出現する。
その姿は、神々しささえ感じられるほどであり、現に誰もが唖然とした様子でミカエラの姿を見ていた。
「この力ならーー。行きます! お二方は今まで通りお願いします! ここからは、私達の大逆転劇ですわ!」
いつも読んでくれてありがとうございます!
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