第23話 帝都ヘイレル
シンゴが魔王城から帰ってきた次の日。
藍玉とセナと新たに武装契約したフィルとシンゴとでアイテムボックスから取り出した朝食を王宮の中庭で食べていると、一人の兵士がシンゴたちの所へと大慌てで走って来た。
「シンゴ殿!」
シンゴは慌てて走ってきた兵士を一瞥すると、手に持っていたサンドイッチを手早く口に入れて咀嚼、嚥下するとベンチから立ち上がり、兵士の方へと歩いていった。
「何かあったのか?」
「はぁ、はぁっ、陛下が、国王陛下がお呼びです。直ぐに執務室へいらしてください。他の皆さま方も」
「ん、分かった」
ちなみに、兵士がフィルを見ても普通に話しているのは、それだけ契約の拘束度が強いからだ。
契約は、契約者の意にそぐわない事を被契約者がすると、ある程度の罰を与える事が可能だ。
奴隷契約の劣化番の様なものである。
奴隷契約は契約者の匙加減一つで生きるも死ぬも決められてしまうが、主従契約や武装契約は被契約者意志が尊重されるので、契約者の気まぐれ等で殺されることはない。
主従、と付いてはいるがそこまで拘束力はなく、貴族で言うところのお嬢様と執事の様な関係だ。
武装契約は言わずもがなだろう。
† † †
兵士に連れられて国王の執務室へと入るとそこには既にミカエラとシエテがいた。
チラリと顔を見ると、少しばかり暗い顔をしていたがこちらに気付くと、ミカエラは微笑み、シエテは顔をキリリとした表情に切り替えた。
「ふむ、来てくれたか」
「用とは何でしょうか、陛下」
皆を代表してシンゴが発言する。
一国の主に対してタメ口が不味いのは幾らシンゴでも分かる。
「用と言うのは他でもない、冒険者である君たちに依頼だ」
「依頼、ですか……」
一国の主からの依頼ともなれば重要度も報酬も危険もギルドで受けるそれと一線を画する。
本来ならギルド以外での依頼の受注は、報酬を支払わずに依頼主が逃げてしまう等の可能性から良しとはされていないが、国王であるならそのような心配も要らないだろう。
そもそも、国王から直々に依頼等と言うのは一冒険者にあるような事では中々ない。
国王から依頼をされると言うのは、信頼の証と言っても差し支えないだろう。
それらを加味しながらシンゴは慎重に頷く。
「内容にもよりますが、聞きましょう」
「ふむ、では……。昨日、帝国が我が国との国境に兵を展開したそうなのだ。これについてはきちんと確認されており、誤報ではない。まぁ、兵を展開したと言うだけでも大変なことなのだが、不幸中の幸いと言って良いのかどうかわからんが、進軍は開始しておらん」
「展開して、放置ってことですか」
「そうなるな。そして、こちらは別口の情報なのだが、帝都が占領されたそうだ」
「なっ?!」
「三日程前にな、突如として魔物が帝都内に現れ、占領したそうだ」
「帝都内に“現れ”? 外から入ってきたのではないのですか?」
「違う。帝都内に出現したのだ。そして、その時帝都にいた冒険者を全て冒険者ギルドに収容し、一般住民も住宅に押し込み、外に出さない様にしているそうだ」
「魔物がそんな組織立った行動を?」
「そのようだ。しかも、魔物の種類が一種類ではない。ゴブリンに始まりオークやオーガ、ハーピィ等多種多様な魔物がいるらしい」
「それは……」
「そして、依頼と言うのは他でもない、帝都に行って状況の確認、可能なら鎮圧も頼む。報酬は、聖金貨五枚だ」
「ふむ、依頼内容を確認します。依頼内容は帝都の現在の状況の確認と、可能であればそれの鎮圧。そして報酬は、聖金貨五枚。ですか?」
「あぁ、そうだ。受けてくれるか?」
「自分としては構いませんが……」
そう言いながらセナを見ると、頷いているので受けても良い様だ。
ここで藍玉とフィルに確認を取らないのは、契約者と被契約者と言う関係なので確認を取る必要は無いからだ。
「分かりました、その依頼、受けましょう」
「おぉ! そうか、受けてくれるか」
そこで、今まで黙っていたミカエラが口を開いた。
「お父様、私も彼らと一緒に行っても宜しいでしょうか」
そう問いかけられたクヴェルを見やると、あまり驚いた様子ではないのである程度予想ができていたのだろう。
クヴェルはその言葉を受け、少し目を瞑り考えると口を開いた。
「好きなようにするといい。しかし、シンゴ殿にしっかりと許可を取り、言うことを聞くのだぞ」
それを聞いたミカエラは顔を輝かせ、蕾が花開いた様な笑顔を見せた。
「ありがとうございます! シンゴ、着いていっても宜しいですか?」
「お、おう」
嬉しそうなミカエラの迫力に押され、頷くと両手を握られ、ブンブンと上下に振られた。
「では、陛下、準備が出来次第帝都に向かいたいと思います」
「うむ、そうしてくれ。して、帝都までどのようにして向かうのだ?」
「魔法で向かいます」
「そうか、心配は無さそうだな」
「ええ、お任せください」
そう言ってクヴェルの執務室を退出したシンゴたち一行は、必要なものを買いに道具屋へと向かった。
† † †
道具屋へと着いたシンゴたちは各々必要なものを買っていた。
「シンゴ、回復薬はどの程度持っていれば良いでしょうか」
「うーん、そうだな。自分のポーチに入れておく分十個と予備分二十個程度じゃないか? 予備分は俺が持っといてやるよ。あ、そうだ。魔力回復薬も買っておけよ」
「上級と中級と下級のどれが良いでしょうか」
「金に余裕があるなら上級がいいと思うが、傷の具合にも依るからな。予備分含めて十個ずつ位で良いんじゃないか?」
「はーい」と声をその場に残し、ミカエラは各種回復薬を両手一杯に抱えて、カウンターへと向かった。
ミカエラのポーチは勿論、|《空間拡張》《スペースエクステンション》が施されたマジックアイテムだ。
シンゴがふぅ、と一息吐くと、シエテがすまなそうな顔をして寄ってきた。
「すまないな、シンゴ殿」
「あぁ、シエテか。別に、どうってことない。それに、楽しそうだしな」
「そう、か。ともあれこれから、よろしく頼む」
「あぁ。それと、殿付けはやめてくれ。むず痒くて敵わん」
「む、そうか。努力しよう」
そう言い残すと、シエテは自分の買い物へと戻って行った。
するとそれを見計らったかの様に、ミカエラが戻ってきた。
「シンゴ、状態異常の回復薬はどうすれば良いでしょうか」
「あぁ、そうだなぁ。そこら辺はシエテに聞いてくれ」
「分かりました」
等と言ったやり取りをしながらも各々の買い物を済ませ、次に冒険者ギルドへと向かった。
「次はどこに行くんですか?」
「ギルドだ」
「ギルド? 何でですか?」
その言葉にシンゴはピタリと足を停め、ミカエラへと向き直る。
そしてその両肩を掴み、一言
「お前はバカか?」
と言い放った。
王女相手にその様なことを言えば、極刑は当然だろう。
案の定、シエテが腰に佩いた剣に手を掛け今にも抜くところであった。
しかし、ミカエラがそれを手で制し、シンゴへと語り掛けたのを見て剣から手を退けた。
「何故ですか?」
「お前、身分はどうやって証明するつもりだったんだ?」
「それは勿論、この王家の紋章の入ったハンカチを見せて」
「だからバカだと言うんだ。お前は、リファン王国王女、ミカエラ・ツヴェル・フォン・リファンとして俺たちと一緒に来るのか? それともミカエラ一個人として一緒に来るのかどっちなんだ?」
「あ、そう言うことですか」
「分かったか?」
「はい、分かりました」
そこまで言ってミカエラはセナに向き直り、
「セナさんも普通に接してくださいね」
藍玉やフィルに向かってそう言わないのは必要ないのが分かっているからだろう。
人間よりも遥かに寿命の長いドラゴンに対して、人間の王族に対して敬意を払えと言うのがお門違いであり、元魔王であるフィルに対しても、似たような理由から必要いとは判断したのだろう。
一方、そう言われたセナは苦笑しながら頷くことしか出来なかった。
† † †
そして、ギルドに着いたシンゴはミカエラとシエテの冒険者登録をセナに任せ、ギルドの壁に身を預け|《森羅万象を知る者》《アカシックレコード》と会話(?)をしていた。
ーーおい、アカシックレコード。
ーー何でしょうか我が主 。
ーーてか、呼びづらいな。お前の名前はアカシで良いか?
ーーお好きなようにお呼びください。して、何のご用でしょうか。
ーーお前についての話だよ。人工知能的な何かとか言ってたが……。
ーーそうですね、簡単に言いますとそうなります。私は神の書庫にアクセスし情報の精査、及びその提示が可能となります。
ーー何でも知ってるってことか?
ーーNO、否定します。私が調べることが出来るのは神が開示している情報のみとなりますので神が開示していない情報につきましては、調べることは勿論提示も不可能です。
ーーうーん、そうか。なら、リュスル帝国の帝都の座標位置は分かるか。
ーーYes、肯定します。
ーーそうか、なら俺が呼び掛けたらリュスル帝国の帝都のすぐ近くに|《転移門》《ゲート》を開いてくれ。
ーー了解です、我が主。
そこまで話すとちょうどミカエラとシエテとセナが戻ってきたので、皆で王都の外に向かう。
「して、シンゴはどのようにして帝都に向かうのだ?」
「言ったろ、魔法だって」
「しかしなぁ」
「まぁ、見とけって」
ーー開いてくれ、アカシ。
ーー了解です、我が主。
シンゴがアカシックレコードに呼び掛け、アカシックレコードがそれに答えると、シンゴの前の空間が歪み、|《転移門》《ゲート》が現れた。
「よし、行くか」
まずシンゴが意気揚々とゲートを潜って向こうへと出た。
それに続いて藍玉、フィルの順番に潜るとひょっこりとシンゴが向こう側から顔を出して残っていたメンバーに声を掛けた。
「ほら、早くいくぞ」
そう言われてようやく三人は動き出した。
しかし、まだ警戒は解けていないのか恐る恐るといった様子でゲートを潜った。
そのゲートの向こうに広がっていたのは鬱蒼とした森で、魔法で明かりを作ったシンゴたちが待っていた。
「じゃ、行くぞ」
そうして、シンゴたち一行は異変があったと言う帝都ヘイレルへと向かって歩き出した。
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