エピローグ&プロローグ 血と怨嗟の讃美歌を
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ここはリュスル帝国の帝都、ヘイレル。
いつもは活気に溢れる帝都民たちの姿が見えるはずであるのに、帝都民たちの姿は一つも見えず代わりにゴブリンやオーガ、オークと言った魔物たちが跳梁跋扈していた。
それよりも異様であるのはその魔物たちが食料を略奪するでもなく、人々を殺戮するわけでもなくただただ帝都を歩いていることだった。
そして、その帝国の皇帝が住んでいるはずである宮殿のそのバルコニーに三人の男女の姿が認められた。
一人はサングラスをかけたホスト風の浅黒い男。
一人は頭付近にに天使の輪のようなものを浮かばせたスチームパンク風の服を着た小さな少女。
そして、最後の一人はスリットがあり、胸元のざっくり開いたドレスを着て右足と豊満な胸元を大胆に露出させ、妖艶な雰囲気をまとった女性だった。
サングラスの男が妖艶な女性に話しかける。
「ひゃー、さすが姫、この量の魔物造り出すとは」
軽薄さを感じさせる物言いに姫と呼ばれた女性が返す。
「あらぁ、褒めてもなにも出ないわよ? 」
その言葉に傍らの少女が感情を感じさせない声と顔で反応する。
「そんなことよりも、そろそろ兵を動かしてはどうですか」
「そうねぇ、配下の魔物にやらせて王国との国境付近に展開させるわ」
「じゃ、俺とレシアはルーベルカン遺跡に向かいますかね」
「否定します、私の名はアナスレシアです。レシアなどと言う名ではありません」
「あら、連れないわねぇ。可愛いじゃないのレシアちゃん」
「否定します」
レシアと呼ばれたーー本名アナスレシアーー感情のない少女がキッパリと告げる。
「かぁー、これだからホムンクルスは」
「そういうこと言わないのよ、ジェレド。レヴェリエと第一の工房長が怒るわよ」
「へいへい、さっさと行くぞレシア」
否定されてもまだレシアと呼ぶジェレドに対して尚も言い募ろうと、口を開いたときにはもうジェレドは炎の残滓を残して消えていた。
「否定します、私の名はアナスレシアーー」
無駄だと分かっているのかいないのか、アナスレシアも自身の頭付近にある輪を自分の体が通る位までに大きくするとその穴に入り込み、消えてしまった。
一人残された姫と呼ばれた妖艶な女性はうっすらと笑うと言葉を紡いだ。
「|《黄昏を齎す者》《ラグナレク》の|《十二剣》《トゥエディウス》が第六剣、魔従の歌姫マリヴェール。我らが盟主様に血と怨嗟の讃美歌をプレゼントいたしますわ」
そう言ってマリヴェールは杖を振り上げ高らかに詠い出した。
† † †
リファン王国国王の執務室に二人の男女がいた。
一人はリファン王国国王クヴェル・ジャリオ・フォン・リファン、そしてもう一人はリファン王国の王女ミカエラ・ツヴェル・フォン・リファンの専属護衛であるシエテだった。
二人の間に流れる空気は深刻なもので、二人の顔も引き締められていた。
ふと、クヴェルが口を開く。
その声は国王の威厳を感じさせるプレッシャーが含まれていた。
「して、ミカエラの封印の具合はどうだ」
対するシエテは国王クヴェルが発するプレッシャーに緊張しながらもしっかりと受け答えをしていた。
「はい、経過は順調です。このまま何もなければ良いのですが……」
シエテは物憂げな表情をして俯く。
それを見たクヴェルの顔も曇った。
「無理、であろうな。あれの事であるから絶対にシンゴ殿と一緒に行くと言うだろうな」
「そう、ですね」
ミカエラは産まれたときにその母体となった母親を殺している。
無論、故意ではなく事故であったし、父親であった国王クヴェルや忠臣たちが必死に隠したため、本人がそれを知る術はない。
ミカエラの母は上の兄姉たちとは違い、異母の兄弟姉妹であった。
ミカエラは母親の力を引き継ぎ、産まれたときから絶大な力を持っていた。
その為ミカエラを産んだ母はその反動で亡くなり、その絶大な力は残ったクヴェルたちを大いに困らせた。
クヴェルたちは苦肉の策として、シエテを要としてその力を封印した。
そしてその事情を知るシエテをミカエラの専属護衛とすることで経過を確認させていたのだ。
それを十七年続けており、最近ミカエラを取り巻く環境に変化が訪れた。
冒険者であるシンゴの出現だ。
それ自体は悪いことではない。
しかし、シンゴの影響ーーシンゴの影響だけではなく、何らかの外的要因ーーで封印が解けることを恐れたのだ。
そもそも、ミカエラに施した封印自体彼女の母親の家に代々伝わっていたものであり、どんな理由で解けてしまうかも分からなかったのだ。
分かっていることと言えば、強すぎる力を封印するためのものであると言うことだけ。
慎重になるのも当然と言えよう。
そのシンゴも冒険者であるため、依頼が終わればここを発つ。
ミカエラはその出生の性質上外に出ることを良しとされていなかった。
そして、彼女は自由である冒険者に憧れていた。
その彼女の前に冒険者であるシンゴが現れたのだ。
着いていく、と言い出すのは必然であろう。
勿論、行くなと言うのは簡単だ。
だが、ミカエラは確実に何故と聞いてくるであろう。
ミカエラの上の兄姉たちは優秀で、ミカエラは自分が重要な立ち位置にはいないことーー重要な立ち位置にはいないとは言っても一国の王女である。外に出れば狙われることは必定と言えよう。しかし、護衛もついているし自身の身は自身で守れるだけの力を持っているーを知っている。
大した理由もなく止めようとすれば反発するのは当然。
理由などいくらでもでっち上げられるのだが、クヴェルは娘を愛するが故に嘘をつくのはーー隠し事は構わないーー良しとはしなかった。
であるからして事実上止めることは不可能であった。
「はぁ、仕様がないな。あれが着いていくと言ったら好きなようにさせよ」
「はっ、了解いたしました」
シエテは国王の言葉に頷くと執務室を出て、護衛対象であるミカエラの下へと向かった。
シエテが居なくなった執務室で国王は一人、呟く。
「真竜ニアラとその子孫、か。代を経て力は薄まってきているとは言え、全くもって如何ともしがたいな……」
国王クヴェルは自身の過ちとその業について思いを馳せ、頭を悩ませながらも仕事へと戻っていった。
しかし、そこにもう一つの頭を悩ませる案件が舞い込んで来た。
「陛下! 陛下はいらっしゃいますか!」
執務室のドアを激しくノックしながら兵士が叫んでいた。
その事に尋常じゃない何かを感じたクヴェルはその兵士を執務室に入れて話を聞くことにした。
「入れ」
「しっ、失礼いたします」
兵士の顔には焦燥が浮かんでいて、焦っているのがありありと伝わってきた。
「して、何用だ」
「帝国が、帝国が我が国との国境に軍を展開致しました!」
「それは真か?!」
出来れば嘘であって欲しい、そんな想いを胸に聞き返すが同時に嘘ではないことも分かってはいた。
しかし、聞き返せずにはいられなかったのだ。
だが、そうすると少しおかしいことになってくる。
前々から帝国軍が軍備を増強していたのはクヴェルは勿論の事知っているし、国民たちにでさえ噂として囁かれている。
けれども帝国軍の動きと言えば軍備の増強程度であり、軍が帝都を出発した等と言う報告は上がってきてはいなかった。
ある地点を点と点して空間を歪めて繋げる|《転移門》《ゲート》と言う魔法があるが、それを使って森などに転移したとしても気づかぬはずがない。
であるからして、帝国の軍程の大量の人員や物資が一瞬にして国境に展開しているなどと言うのはにわかには信じがたい事であった。
が、目の前の兵士の焦り具合からしてそれが本当の事であるのは確実。
「真であります」
「どうして急に……!」
クヴェルが苛立ちのあまり執務机に拳をダンッと叩き付けると兵士の体がビクリと震えた。
「わ、分かりませんが、事実であります」
「そうか、分かった下がれ」
「はっ」
兵士を下がらせるとクヴェルは早速情報の収集と事態の収束に向けて動き出すのであった。
第1章 王都動乱編
Fin
第2章 帝都陥落と魔神の右腕編
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