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幕間 この力は絶対に


 王都に着いてから二回目の朝、俺は起きてから飯を食ってから顔を洗ったり歯を磨いたりしてから、王都にある双剣術の道場に向かった。

 王都の東区の一角にあるその道場には《アルクゼオ流・双剣術道場》の木製の看板が掛けられていた。

 その道場の外観は立派なもので、何でも東国の道場を模して作られたそうだ。

 そしてそんな道場の周りでは多くの門下生が二降りの木刀を持って互いに打ち込んだり、型の練習をしていた。

 そんな門下生たちの間を縫って道場の入り口にたどり着いた。

 俺は木製の扉を叩き、


「頼もぉぉぉ!」


 と大声を上げた。

 なぜなら、兄貴から「道場に行って稽古つけてほしいときは、こう言うんだぞ」と言われていたからだ。

 しかし、そんなセナを周りの門下生たちは奇怪なものを見るような目で見ていた。

 そんなことに気づかない彼は、もう一度


「頼もぉぉぉ!」


 と大声を上げた。

 すると、木製の引き戸がガラガラガラッと勢いよく開けられ、中から薄緑色の長髪を頭の天辺で結った男だか女だか判別のつかない中性的な顔立ちの人物が現れた。

 その人物はセナの顔を見て嫌そうに顔をしかめると、


「うっせぇな、そんな叫ばなくても聞こえてるよ。ったく、オレは難聴じゃねぇっつーの」


 と言った。

 だが、最後の方は小さく呟いたため目の前にいたセナにさえ聞こえていなかった。

 その呟きには、うんざりしたようなニュアンスが含まれていた。

 これはセナの知るところではないが、彼は人付き合いが良くはなく、めんどくさいとの理由で人の話を無視することが多々あった。

 そのため、男は影口で難聴、とか老化が始まってる、とか周りに言われたい放題なのだ。

 それに対して一々怒るのも面倒なので、そのまま放っておいてあるのだ。

 セナは慌てて謝罪をして、師範代に話がある旨を伝えた。

 すると男はセナを値踏みするような視線で見て口を開いた。


「師範代はオレだ、何の用だ?」


 その言葉を聞いたセナは驚愕に目と口をあんぐりと開いていた。

 師範代というのは、その流派において開祖に連なるものに認められたと言うこと、目の前の男性にそれだけの実力がある様には見えなかった。

 セナが懐疑的な目をしていると、それに気づいた師範代の目が不快そうに細められた。


「信じてねぇだろ」

「いやぁ、あははは」

「笑ってごまかすなよ、で、何の用だ」

「そうだった、稽古をつけてほしいんすよ」


 それを聞いた男は呆れた様に溜め息をつくと、苛立ちを隠すことなく


「急に来て稽古つけてほしい、なんて言われたって無理だろ?」


 聞くので


「あぁ、まぁ、ははは」


 と笑ってごまかすと、男はまた溜め息をついた。


「はぁ。そもそも、何で稽古つけてほしいんだよ」

「強く、もっと強くなりたいんす」

「そりゃまた、何で」

「何も出来ないのは、嫌なんす」


 そう言ったセナの目に何を見たのか、はたまた何も見なかったのかは師範代しか知ることのない所だが、しかしはっきりしているのは師範代の男がセナに稽古をつける気になったと言うことだろう。


「はぁ、ったく。来いよ」

「ふぇ?」


 と呆けているセナの頭を軽く小突くと


「稽古、つけてほしいんだろ」


 と言って、セナ腕を掴んで道場の中にある試合の行われる様な場所へとズルズルと引きずって行くと、ポイッと床に放った。


「痛っ」

「稽古っつっても、ちょっと(オーラ)の扱い方とか教えるだけだかんな。それで、(オーラ)についてどんくらい知ってるんだ?」

「えっと、人が必ず持っている肉体的エネルギー、てことくらいっす」

「大雑把に言うとそうだ。んで、(オーラ)は誰でも持ってるが誰でも扱えるわけではないし、その量には個人差がある」


 その説明をセナはコクコクと頷き、メモを取りながら聞いていた。


「まずは、(オーラ)が扱えなけりゃ話にならん。練ってみろ」

「どうやるんすか?」

「何でもかんでも聞こうとするな、自分で考えろ」


 それもそうかと俺は思い、胡座をかいて床に座る。

 そして目を閉じて自分の内側に目を向ける。


「せめてヒントはやろう。自分の体の中に器があるようなイメージだ」


 数分間、そうしていたろうか。

 不意に、セナの体から半透明の何かが覆った。

 それを見た師範代は先程とは違い、驚嘆に目を細めた。 

 通常、気の扱いは数分程度で出来るようになるものではない。

 数時間かかって器の存在に気づき、そこから気を引き出すのにはまた数時間かかるものなのだ。

 いくらヒントを出したと言ってもそこまで簡単にいくとは思っていなかった師範代はセナの持つ才能に驚嘆した。

 

「こんな感じっすか?」


 セナは閉じていた目を開き、目の前の師範代に話しかけた。 

 

「あ、あぁ、そうだ。次は(オーラ)の量だな」


 そう言って師範代は懐から水晶の様な丸い玉を取り出して、セナの前に置いた。


「これは?」

「これは(オーラ)の量を量るマジックアイテムだ。それに(オーラ)を込めると、量に比例して大きくなる」

「大きく?」

「大きくっつーより膨れる、が正しいな。ま、やってみろ」


 その言葉にセナはコクリと頷いて水晶に手を置いて、気を込めた。

 気を込めていると水晶はブクブクと膨れていき、次第に水晶の表面に罅が入って、次の瞬間には破裂してしまった。


「あ、破裂しちゃったっす! すいません」


 水晶を破裂させた当の本人は慌てて謝罪していたが、師範代はそんな事はどうでも良いとすら思っていた。

 自分でも直径十メートルが限界なのに、セナは水晶を破裂させて見せたのだ。

 それから師範代は最初とは打って変わり、その後はノリノリでセナに稽古をつけていた。

 日没まで稽古をつけてもらった結果、セナはアルクゼオ流の中伝奥義の会得まで至ったのだ。

 これは異例の速さで、いや、異例と言うよりかは異常だった。

 それほどまでにセナの気を操る、操気能力(オーラコントロール)と気の最大量は常軌を逸していたのだ。

 セナが稽古をつけてもらった礼を言って帰ろうとすると師範代が、何やら手紙のような物を手渡して


「もし、今よりもっと強くなりたいと思ったら、竜人国家ウルフェリウの霊峰ヤーノシュ山にあるアルクゼオ流の総本山に行ってこれを見せろ。そうすれば稽古つけてもらえるはずだ」


 と言った。

 それを貰ったセナは大変感激して、「ありがとうっす! ありがとうっす!」と連呼して帰っていった。

 

   †  †  †


 セナの居なくなった道場で師範代が一人、ひたすらにひたむきに双剣を振るっていた。

 目の前であの才能を見せつけられたのだ、感化されない方がおかしい。

 しかし、セナの才能は底が知れなかった。

 初伝から中伝の奥義まで全て一度だけやって見せただけなのに理解し、既に自分のものにしていた。

 そして、自分が休憩して気を回復させているときでさえ、セナは教えられた技を大量の気に飽かせて何度も何度も繰り返していた。

 一教えると十理解する。いや、もしかすると百かもしれない。

 師範代をしてもそう思わせるほどの才能をセナは持っていたのだ。

 

「今まで埋もれていたのがおかしい位だ」


 休憩の合間、先程のことを思い出してポツリと呟いた。

 それもそのはずで、セナは今までほとんど他の冒険者に寄生しているような形だったので、自分で強くなろうと思わなかったのだ。

 それがシンゴに会って変わり、強さを求めるようになった。

 その結果として、今まで埋もれていた才能が遺憾なく発揮され、スポンジの様にどんどんどんどん教えられることを吸収していったのだ。

 師範代がセナに紹介状を書いたのも、セナなら自分に果たせなかった想いを果たせるのではないかと思ったからだ。

 すなわち、アルクゼオ流裏修練《龍の試し》を。

 《龍の試し》とはアルクゼオ流宗主が自身と仲の良かった龍に頼み、類い稀なる才能を持つ者にのみ行わせるようになったもので、師範代が修練しているときもまことしやかにその噂が囁かれていた。

 師範代が修練していたときのアルクゼオ流当主に確認したところ、否定も肯定もしなかったが、その時の様子から裏修練はあると確信していた。

 だから、底知れない才能の塊であるセナなら《龍の試し》を行わせるのではないかと思ったのだ。


   †  †  †


 アルクゼオ流の道場から王宮へと帰る帰り道でセナは自分が強くなった事を確信していた。

 シンゴには当の遠く及ばなくとも多少は強くなれた確信があった。

 セナは自身の両の拳を握ったり開いたりして、今日の感触を確かめていた。


「何にも出来ないのは、嫌だから。何も知らないのは、嫌だから。だから絶対、この力は絶対に……」


 セナはそう決心を込めて一人で呟と、両拳をグッと握り込み王宮へと決意新たに歩き出した。

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