第22話 帰還
フィルの手をつかんで|《転移門》《ゲート》をくぐると、そこはリファン王宮の上空1000メートルだった。
見渡す限りの青い空、眼下には小さく王宮が見える。
「あ、座標指定間違えた」
俺が悪びれた様子もなく言うと、即座にフィルが反応した。
「ちょ、御主人?! えぇぇぇぇぇぇぇ?! 」
フィルが驚愕する声をその場に残して、下へと落下していく。
その浮遊感を感じながら、気づくと俺は笑っていた。
「あっははははははははは! 」
そんな俺をフィルは睨むと落下しながらも叱責してきた。
「御主人! 笑ってる場合じゃないですよ! 」
そんな焦ったような、恐怖しているような声に、
「ごめんごめん」
返すと
「ならどうにかしてくださいよぉぉ! 」
と返ってきた。
「わかった、わかった、どうにかするから泣くなよ! 」
気づくとフィルは泣き出していた。
こんな上空で泣くと風で鼻水とかがこっちに飛んでくるんだよ。
「フィル、しっかり捕まっとけよ! 」
そう言って俺は視界内ならどこにでも転移できる魔法|《転移》《テレポート》を発動した。
そして、また転移。
また転移を繰り返して下へ下へと降りていく。
† † †
シンゴとフィルが上空から転移で降りてきているその真っ只中、リファン王宮では空から落ちてくる人影が二つ確認されていた。
最初に発見したのは見回りの兵士で、空を見上げるとゴマ粒ほどの何かが段々と大きくなってきて、視認ができるようになったため、人だと判断したのだ。
そんなこんなで王宮は大騒ぎである。
天変地異の前触れか、魔王の襲来か、神の使いか、と上へ下への大騒ぎであった。
兵士たちは人影の落下地点を囲むように槍や剣を持って立ち、今か今かと警戒していた。
† † †
ようやくリファン王宮が普通に見えるような距離に近づくと俺はフィルをお姫様だっこして、ペガサスブーツを起動して降りていった。
「御主人?! 」
お姫様だっこされたことに驚くフィルに、
「黙ってろ」
と言って黙らせると、グングンと王宮に降りていった。
二人が王宮の中庭と思われるところに着地すると、周りを兵士が囲んでおり、警戒していた。
しかし兵士たちは降りてきたのが俺だと気づくと一旦警戒を解くと俺の方に近づいてきた。
「シンゴ殿でしたか、してどうされたので? 」
話しかけてきたのは兵士長だった。
「転移門の座標指定間違えて上空に出ちゃった」
「はははっ、シンゴ殿でも失敗するのですな」
兵士長は豪快に笑いながら俺の肩を叩いてきた。
するとフィルを見た兵士長が誰か聞いてきたので、素直に魔王だと伝えておく。
「は?」
「いや、魔王だよ」
「はぁ?! 」
すると兵士長以下兵士団は皆が驚いたようすで目を見開き口をあんぐりと開けていた。
「魔王って、どういう事ですか?! 」
「どうもこうもそのまんま」
「何で魔王とシンゴ殿が一緒にいるのですか?! 」
「契約したから」
そうして俺は悪魔を止めに行ったときの事から話し、フィルと契約したことを伝えた。
「はぁー、魔王を下して契約ですか。規格外ですね」
「人を化け物のように言うなよ」
そんな会話をしていると兵士の輪の一角が横にさぁっと開き、誰かが歩み出てきた。
ーー誰だったっけ? 海割ったの。
俺がそんな益体も無いことを考えていると、歩み出てきたのが誰かが分かった。
ミカエラとシエテだ。
「シンゴ……! 」
ミカエラは心底心配したと言った様子で、目に涙を溜めていた。
「ここでは何ですから、医務室に行きましょう。藍玉殿もセナも居ます」
その言葉に従い、医務室に行くとベッドに横たわったセナと窓の真下にある良く日の当たる小さなタンスの上で丸くなっている藍玉がいた。
「兄貴っ! 」
セナは入ってきた俺を見て、起き上がろうとしてすぐにベッドに倒れこんだ。
慌ててセナの下に駆けつけ、ゆっくりとベッドに寝かすとセナは「ありがとうっす」と言って横になった。
藍玉は俺が入ってきたのを確認すると黙って飛んできて俺の頭の上で丸くなった。
「それで、何があったんだ」
俺が聞くと、ポツリポツリと各々自分の身にあったことを話し始めた。
藍玉は悪魔を瞬殺したこと、ミカエラとシエテは協力して悪魔を倒したこと、セナはアインに庇われ気づくと悪魔を殺していたこと。
「そう、か。アインは死んだか」
俺が悲しむかのように言うと、
「ごめんなさいっす……」
セナが謝罪してきた。
「いや、冒険者なんてやっている以上アインだって覚悟はできてたはずだ。セナが気にすることじゃない」
「でもっ! 」
「悲しむなと言ってるんじゃない、悲しんで立ち止まるなと言っているんだ。アインに貰ったその命でアインの分まで生きてやれよ」
「アインの、分まで……」
セナが俺の言葉を反芻すると、ハッと何かに気づいたかのように顔をあげた。
「そうだ、俺……! 」
「どうした、何か気づいたか? 」
「はい、悪魔をどうやって殺したかっす」
「どうやったんだ」
「アインが俺を庇って、そしたら俺が怒って、そして、耳と尻尾が出てきて、それで、そっから先は思い出せないっす」
「そう言えば、髪の色が金髪になってるな」
茶髪だったはずのセナの髪が艶やかな金髪になっていたのだ。
「尻尾と耳も出せんじゃね? 」
俺がそう言うと、セナがウンウン唸り始めた。
数分間唸り続けただろうか、ふとセナの頭からピョコっと金色の耳が現れた。
そして、よくよく見るとセナの顔の横についていた耳が無くなっている。
「セナって、獣人だったのか? 」
「分かんないっすけど、こっちのがしっくりするっす」
「何も異常がないならそのままでも良いんじゃないか? 」
「そうっすね、しばらくこのままで居てみるっす」
そう言ってセナはベッドに横になった。
「あぁ、怪我してるんだったか」
俺はセナがどの程度の怪我か分からないので、ディアスティマを呼び出して回復魔法をかける。
「光よ、彼の者を癒せ|《完全回復》《フルヒール》」
すると、セナの体を柔らかな光が包みその体を癒していった。
「兄貴、ありがとうっす」
「気にするな、そうだ、俺の話をしていなかったな」
そう言って俺は悪魔を追い詰めたこと、逃げようとしたので一緒に転移したこと、転移先でフィルと戦って勝ったこと、フィルと契約したこと、フィルが魔王であることを伝えた。
「はは、藍玉殿の予想が当たったな」
「そうだな」
「そうっすね」
「そうですね」
「どういうことだ? 」
一人訳が分からない俺が聞くと、きちんと話してくれた。
なんでも、藍玉が俺なら魔王を連れてきそうだと言ったそうだ。
「さすが、藍玉良くわかってるじゃん」
「当たり前だ」
そう言いながらも藍玉は少し自慢気だった。
「さて、皆さん報酬をお渡しします」
ミカエラがシエテから受け取って俺にわたした皮袋にはきちんと聖金貨四枚に王金貨二十枚が入っていた。
これで一躍大金持ちだ。
「それで、我が父から感謝の言葉があるそうですので、玉座の間までお越しください」
玉座の間へと向かうミカエラに続き、シエテ、俺、藍玉、セナの順で向かっていく。
国王からの話は、この国を救ってくれてありがとうと言うものを限りなく長くしたものだった。
しかし最後の今日の晩餐は豪華なものにしようと言うその言葉はしっかりと聞いていた。
そして日も暮れたので風呂に入ってから夕食となった。
王が言ったように、今日の夕食は豪華なものばかりだった。
何がなんなのか分からないが。
宴もたけなわ、解散となり各々の部屋へと戻り就寝するのだった。
ちなみにフィルは俺と同じ部屋ではなく、別の部屋を割り当てられていた。
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