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第九圏の欠落王 ―棺の底から始める地獄改革―  作者: カイメイラ
第一章 氷獄に火を灯す

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第十二話 そりに乗せるもの


 石切り場へ向かう隊を出す朝、ヴェスパーは研究所の中で地図を広げていた。


 机代わりの黒石板の上には、村の簡易図が描かれている。


 中央には炉。

 その周囲に調理場、保存小屋、研究所、寝床、門、見張り台。

 南へ伸びる赤い点の列は、昨日立てた帰還柱だ。

 その先に、黒い岩稜がある。


 南の石切り場。


 ようやく、燃えない材料を手に入れるための場所が見つかった。


 だが、ヴェスパーはそこへ行かなかった。


 行けなかった、という方が近い。


 炉はまだ完全に安定したわけではない。

 排管も、保存小屋も、研究所も、手を離せばすぐに問題を起こす。

 村には少しずつ仕事が増え、誰が何をするかを決めなければならなくなっていた。


 王が毎回現場へ出て、石を見て、木を見て、鍋を覗いていては、回らない。


「ザグ。石の形はお前が見ろ」


 ヴェスパーが言うと、ザグは静かに頷いた。


「承知した」


「バルガン。力仕事はお前だ。ただし、勝手に割るな」


 バルガンは胸を張った。


「王がそう言うなら割らん!」


「切れ」


「切る!」


「ザグの言うことを聞け」


「分かった! ザグの言うことを聞いて、王のために切る!」


「俺のためじゃない。村のためだ」


「王の村だろう!」


「……まあ、そう言われると面倒だな」


 バルガンは得意げに笑っていた。


 完全に舎弟だった。


 力はある。

 根性もある。

 命令も聞く。

 ただし、力加減と判断力に難がある。


 だからこそ、扱いを間違えると事故る。


「いいか、バルガン。お前を物流システムにする気はない」


「ぶつりゅう……?」


「全部お前が担いで運ぶなってことだ」


「俺は運べるぞ!」


「知ってる。だから駄目なんだ」


「なぜだ!」


「お前が倒れたら全部止まる」


 その言葉に、バルガンはぴたりと黙った。


 そして、なぜか感動したように目を見開いた。


「王……俺のことをそこまで……」


「違う。運用の話だ」


「任せろ! 俺は倒れん!」


「話を聞け」


 アガレスが横で記録帳を抱え、目を輝かせていた。


「王様、バルガンさんの運用方針ですね!」


「そんな大げさに書くな」


「ですが、重要です! 強い者をただ強いから使うのではなく、仕組みに入れる。これは組織運営です!」


「お前、そういう言葉好きだな」


「はい!」


 ヴェスパーは額を押さえた。


 だが、アガレスの言っていることは間違っていない。


 村はもう、ただその場の思いつきで動ける段階を少しずつ抜け始めていた。


 誰が何をするか。

 誰をどこに置くか。

 誰を出さないか。


 それを決める必要がある。


「グレルも石切り場へ出しますか?」


 アガレスが記録帳をめくりながら尋ねた。


 ヴェスパーは即座に首を振った。


「出さない」


「よろしいのですか? グレルさんなら、匂いも風も魔物の気配も見られます」


「だから出さない」


 アガレスがきょとんとした。


 少し離れた場所にいたグレルも、耳を動かした。


 ヴェスパーは地図の上に置いた指を、村の外周へ滑らせる。


「できる奴に、できることを全部やらせるな。そいつが倒れた瞬間、全部止まる」


 炉の周りには、粥の匂いがある。

 保存小屋には魔物肉と皮の匂いがある。

 加工場には血と脂の匂いが残っている。

 暖かくなった村は、魔物にとっても見つけやすい。


「グレルは狩猟番だ。村の鼻だ。外に出しっぱなしにするな」


 グレルは黙ってヴェスパーを見ていた。


「今までは人手が足りなかった。だから、石切り場の警戒にも出した。道の確認にも使った。探索にも回した。だが、それは臨時運用だ」


「臨時……」


「正規の運用に戻す」


 ヴェスパーは淡々と言った。


「狩猟番は狩猟番の仕事をしろ。村を守れ。狩りをしろ。危ない匂いを先に拾え。探索は、お前の下から別のやつを出す」


 グレルは少しだけ沈黙した。


 それから、静かに頭を下げた。


「承知しました」


「不満か」


「いいえ」


 グレルは首を振った。


「むしろ、安心しました」


「安心?」


「王様は、できる者を使い潰さないのですね」


 ヴェスパーは少しだけ顔をしかめた。


「使い潰したら、次が困るだろ」


「それを考える者は、多くありません」


「地獄の管理職は終わってるな」


 アガレスが勢いよく記録帳に書き込む。


「できる者を使い潰さない!」


「標語にするな」


「王様の統治方針です!」


「そんな立派な話じゃない。マルチタスクを避けるだけだ」


「まるちたすく?」


「一人に複数の仕事を同時に抱えさせるなってことだ。効率が良いように見えて、事故る」


 グレルは静かに頷いた。


「では、ラゴを出します」


「ラゴ?」


「犬型の悪魔です。鼻は私ほどではありませんが、風を読むのは早い。足も軽い」


「判断はできるか」


「弱いです」


「いい」


 グレルが少しだけ目を細めた。


「よろしいのですか」


「探索で一番いらないのは、無駄な勇気だ」


 ヴェスパーは地図を指で叩いた。


「見つけたら戻る。匂いが変なら戻る。魔物の気配があれば戻る。石も鉱脈も集落も、命より優先しない」


「ラゴには向いています」


「なら出せ」


 しばらくして、ラゴが連れてこられた。


 細い犬型の悪魔だった。


 グレルより一回り小さく、耳も尻尾もやや頼りない。

 炉のそばに立っているだけで、すでに帰りたそうな顔をしている。


 バルガンはそれを見て、腕を組んだ。


「こいつで大丈夫なのか!」


 ラゴの耳がぺたりと伏せる。


「た、たぶん」


「たぶんだと!」


「危なかったら、戻ります」


「根性がないぞ!」


 ヴェスパーは地図から顔を上げた。


「それでいい」


「王!?」


「危なかったら戻る。分からなかったら戻る。魔物の匂いがしたら戻る。今回の探索で一番大事なのは、それだ」


 ラゴは恐る恐る顔を上げた。


「戻って、いいんですか」


「戻るために赤い帰還柱を立ててるんだろうが」


 その言葉に、ラゴの耳が少しだけ立った。


 バルガンは腕を組み、しばらく唸った。


「王がそう言うなら、戻るのも勇気だ!」


「急に理解したな」


「王の言葉だからな!」


「便利な頭してるな、お前」


 石切り隊の編成は決まった。


 ザグが石を見る。

 バルガンが力仕事をする。

 ラゴが風と匂いを見る。

 数人の悪魔が赤い帰還柱、外套、粥、水、予備の皮紐を持つ。


 グレルは村に残る。

 狩猟番を立て直し、外周警戒と狩りに戻す。


 ヴェスパーは地図を指差した。


「いいか。いきなり大量採掘はしない。まず石切り場までの道を安定させる」


 アガレスが復唱するように書き込む。


「石切り場までの道を安定させる」


「途中に簡易暖所を作る。炉からの余熱を使え。長居する場所じゃない。手を温めて、粥を少し飲んで、戻れるようにするための場所だ」


「簡易暖所ですね!」


「一号とか付けるなよ」


「……はい」


「今、付ける気だったな」


「少しだけ」


 ヴェスパーは続けた。


「石切り場の足元だけ少し温めろ。溶かしすぎるな。泥になる。作業できる範囲だけでいい。短時間交代だ」


 ザグが頷く。


「石はどこまで切る」


「規格を決めろ。積める形、運べる重さ、そりに載る大きさ、あとで組める形。石は石じゃねぇ。部品だ」


 アガレスの手が止まった。


「王様、今のは」


「書くな」


「重要発言です!」


「恥ずかしいから書くな」


「書きます!」


「お前、最近逆らうな」


 アガレスは嬉しそうに記録帳へ書いた。


 石は石ではない。部品。


 ヴェスパーは諦めた。


「とにかく、ザグの判断を優先しろ。バルガン」


「なんだ!」


「割るな。切れ」


「王がそう言うなら切る!」


「分からなくなったら」


「ザグに聞く!」


「よし」


 バルガンは胸を叩いた。


「任せろ、王! 石を切って持ってくる!」


「勢い余ってそりごと吹っ飛ばすなよ」


「分かった!」


「分かってるかどうか怪しい返事だな」


 石切り隊は赤い帰還柱をたどって出発した。


 ヴェスパーは見張り台の近くまで出て、その背中を見送る。

 白い荒野の中、赤い柱の列を追って、黒い影が南へ進んでいく。


 アガレスが隣に立った。


「王様、行かれなくてよろしいのですか」


「俺が行くと、全部俺が見ることになる」


「それは、よくないのですか」


「よくない。ザグが石を見て、バルガンが運んで、ラゴが匂いを見る。その形にしないと、いつまでも俺が現場に張りつくことになる」


「王様は現場がお好きですものね」


「好きで地獄の現場監督をやってるわけじゃない」


「ですが、楽しそうな時があります」


「ない」


「あります」


「ない」


 アガレスはにこにこと笑った。


 その頃、石切り隊は南の黒い岩稜へ到着していた。


 白い氷原の中に、そこだけ夜が突き刺さったような場所だった。

 黒い岩が幾重にも重なり、裂け目を作り、氷を押し退けるように地表へ顔を出している。


 ラゴは着いた瞬間、耳を伏せた。


「風が、変です」


 バルガンが腕を組む。


「何が変だ!」


「岩の間で回ってます。匂いが戻ってきます。魔物が近くにいても、分かるのが遅れます」


「面倒だな!」


「はい。面倒です」


 ザグは黒い岩に手を当てていた。


 岩肌を撫で、割れ目を見て、指先で叩く。

 その目つきは、村で粥をすすっていた時とは違っていた。


 職人の目だった。


「いい石だ」


「切れるか!」


「切れる。ただし、力任せに叩くな」


 バルガンが石槌を持ち上げる。


「任せろ!」


「叩くなと言っている」


「王にも言われた!」


「なら聞け」


 ザグは岩肌に線を引いた。


 石をただ砕くのではない。

 積める形にする。

 持てる重さにする。

 そりに載せられる大きさにする。


「ここに溝を入れる。くさびを打つ。そこで力を入れろ」


「全部砕いた方が早いぞ!」


「早いだけだ。使えない」


「石なのにか!」


「石だからだ」


 ザグは低く言った。


「石は、割った瞬間に価値が決まる。使える形で割れば部品。雑に割れば瓦礫だ」


 バルガンは少し考えた。


 そして胸を張る。


「王も同じことを言っていた!」


「なら聞け」


「聞く!」


 石切りは、派手ではなかった。


 バルガンが期待したような、どごん、ばごん、という破壊音はない。

 ザグが線を引き、溝を作り、くさびを打つ。

 バルガンは指示された場所へ、指示された分だけ力を入れる。


「もっと強くか!」


「弱く」


「弱く!?」


「割るな。切る」


「切る!」


 何度か失敗した。


 角が欠けた。

 重すぎる塊になった。

 薄すぎて割れた。


 そのたびにザグが舌打ちし、寸法を変えた。


「もう少し小さい方がいい。そりに載せた時、二人で降ろせる重さだ」


「俺なら一人で降ろせるぞ!」


「お前基準で作るな」


「王にも言われた!」


「なら二度言わせるな」


 やがて、一つ目の石材が切り出された。


 不格好ではある。

 角も少し欠けている。

 だが、ただの瓦礫ではない。


 平たい面があり、積める。

 持てる。

 運べる。


「できたぞ!」


 バルガンが声を上げる。


 ラゴは周囲の匂いを確認しながら、小さく頷いた。


「今のところ、魔物の匂いはありません」


「なら運ぶぞ!」


「待て」


 ザグが止めた。


「どうした!」


「一つ抱えて戻ってどうする。そりを作る」


「そり?」


「王が言っていただろう。お前を物流システムにするな、と」


「そうだった!」


 石切り隊は、村で用意してきた材料を組み始めた。


 氷木の板。

 魔物皮の紐。

 骨の留め具。

 石を固定する枠。


 最初から完成品を持ち込めるほど、村に余裕はなかった。

 現地で組む。

 使いながら直す。


 それが今できる精一杯だった。


 ザグがそりの枠を見て、眉をひそめる。


「石の幅と枠が合わない」


「どうする!」


「石を枠に合わせる。次から寸法を変える」


「そりに石を合わせるのか!」


「運べなければ意味がない」


 メルツが作った皮紐は強かったが、石の角が当たる場所は傷みやすかった。

 骨の輪を通して、擦れる場所を逃がす。


 底面にはリトが試した脂を塗ってある。

 凍っても硬くなりすぎず、氷の上を滑る。


「よし!」


 バルガンが皮紐を肩に掛けた。


「行くぞ!」


「まず歩け。曲がる時は落とせ。下りは押さえる」


 ザグが低く言った。


「分かっている!」


 バルガンは勢いよく踏み出した。


 そりが滑る。


 滑りすぎた。


 石材が枠の中で跳ね、そりごと斜めに流れる。

 ラゴが悲鳴を上げ、ザグが悪態をつきながら押さえた。


「今のは走っていた」


 ザグが言った。


「歩きが速かっただけだ!」


 ラゴが小さく言う。


「風も驚いてました」


「風にまで言われるのか!」


 何度か試すうちに、使い方は分かってきた。


 そりは引くものだ。

 暴走させるものではない。

 曲がる時は速度を落とす。

 石は枠に固定する。

 下り坂では後ろから押さえる者がいる。

 赤い帰還柱の線から外れない。


 当たり前のことばかりだった。


 だが、第九圏では、その当たり前も一つずつ作る必要がある。


 やがて、黒い石材が村へ届き始めた。


 最初は数個。


 次の日は十数個。


 赤い帰還柱の列に沿って、黒い石材が村へ運ばれてくる。


 見張り台からそれを見ていた悪魔たちが声を上げた。


「石だ!」


「黒い石が来たぞ!」


 炉の周囲に、黒い石が積まれていく。


 ヴェスパーは石材を一つ見て、手で表面を撫でた。


「悪くない」


 ザグは少しだけ目を細める。


「まだ揃っていない」


「最初から揃うと思ってない。直していけ」


「次は、もう少し幅を合わせる」


「頼む」


 黒い石材は、村に新しい可能性を持ち込んだ。


 炉の補強に使える。

 研究所の床の一部に使える。

 保存小屋の土台にも使える。

 排管の支えにもなる。


 木、皮、骨だけだった村に、燃えない素材が加わった。


「ようやく、燃えない材料が増えてきたな」


 ヴェスパーが呟くと、アガレスが記録帳を開いた。


「王様、それも記録します!」


「ただの感想だ」


「素材の増加は文明の進展です!」


「文明ってほど大げさじゃない」


「地獄では大げさなくらいがちょうどいいのです!」


 ヴェスパーは否定しなかった。


 実際、悪魔たちは黒い石材の山を見て喜んでいる。


 壁が直るかもしれない。

 床が湿らなくなるかもしれない。

 炉が崩れにくくなるかもしれない。

 排管が倒れにくくなるかもしれない。


 ただの石が、生活の土台に見え始めていた。


 その日の午後。


 石切り場で作業していたラゴが、突然耳を立てた。


「……匂いが変です」


 ザグが石槌を下ろす。


「魔物か」


「違います」


 ラゴは黒い岩稜の東を見た。


「弱った悪魔の匂いです」


 バルガンが石材を持ち上げたまま止まる。


「悪魔だと!」


「はい。魔物じゃありません。凍って、消えかけた匂いです」


 ザグは短く言った。


「作業中止だ」


「石はどうする!」


「置いていく」


「王に石を持って帰るのではないのか!」


 ザグはラゴを見た。


 ラゴは怯えた顔で、それでも東を指している。


「生きている悪魔が先だ」


 バルガンは一瞬だけ黙った。


 それから、力強く頷いた。


「分かった! 王ならそう言う!」


 実際、ヴェスパーはその場にいない。


 だが、バルガンには分かっていた。


 王なら、石より悪魔を乗せろと言う。


 石材は雪の上へ下ろされた。


 ラゴの案内で黒い岩稜の東側へ回る。

 そこは風が強く、雪が岩肌に叩きつけられている場所だった。


 黒い岩の陰に、白い塊が見えた。


 最初は雪の山かと思った。


 だが、近づくと違った。


 悪魔だった。


 霜に半分埋もれ、うつ伏せに倒れている。

 片方の角は欠け、薄い翼は氷に張りついていた。

 指先は黒ずみかけ、肌は凍った灰のように冷えている。


 ほとんど息がない。


 だが、胸がわずかに動いていた。


「生きてます」


 ラゴが震える声で言った。


 バルガンはすぐに前へ出た。


「担ぐ!」


「駄目です!」


 ラゴが悲鳴に近い声で止めた。


 バルガンがぎょっとして振り返る。


「なぜだ!」


「翼が凍っています。そのまま担ぐと裂けます」


「ではどうする!」


 ザグが外套を広げた。


「包む。動かすな。そりを空けろ」


「石は!」


「置いていくと言った」


「分かった!」


 凍りついた翼の周囲の氷を、少しずつ削る。

 無理に剥がさない。

 外套で体全体を包み、皮紐で軽く固定する。


 そりは石を運ぶために作ったものだった。


 だが、今そこに乗っているのは石ではない。


 外套に包まれた、今にも消えそうな悪魔だった。


「行くぞ!」


 バルガンが皮紐を肩に掛ける。


「揺らすな」


 ザグが言った。


「分かっている! 王にも言われた!」


「それは言われていない」


「似たようなことは言われた!」


 バルガンは、今度こそ慎重にそりを引いた。


 赤い帰還柱の列の向こうから、そりが戻ってきた。


 村の見張りが声を上げる。


「石切り隊、帰還!」


 ヴェスパーは研究所から顔を出した。


 だが、そりの上に積まれていたのは石ではなかった。


 外套に包まれた、小柄な悪魔だった。


 バルガンが炉の前までそりを引き、胸を張って叫ぶ。


「王! 悪魔を拾った!」


「拾った言うな」


 ヴェスパーは即座に返した。


 だが、その足はすでに動いていた。


「炉に近づけすぎるな。メルツ、外套。リト、水。ハボリム、粥を薄めに。アガレス、記録帳」


「はい、王様!」


 アガレスが慌てて記録帳を抱える。


 ヴェスパーは外套に包まれた悪魔の顔を覗き込んだ。


 角は欠け、翼は凍りつき、指先は黒ずみかけている。

 ほとんど息がない。


 だが、生きていた。


「……間に合ったな」


 ヴェスパーは小さく言い、粥の器を受け取った。


 炉の近くに寝かせる。

 ただし、近づけすぎない。


 急に温めると体が傷む。

 凍りついた翼も、無理に溶かせば裂ける。


 リトが温めた布を持ってくる。

 メルツが外套を重ねる。

 ハボリムが薄い粥をよそう。


 ヴェスパーは粥を少しずつ口元へ運んだ。


 最初、悪魔は反応しなかった。


 湯気が鼻先に触れた時、わずかにまぶたが動いた。


「……火」


 かすれた声だった。


「食い……物……」


「ある。粥だ。まず飲め」


 ヴェスパーは器を傾ける。


 粥が少しだけ口に入る。

 悪魔は弱々しく喉を鳴らし、飲み込んだ。


 しばらくして、かすかな声が漏れる。


「熱い……のに、うまい……」


 炉の周りにいた悪魔たちは、その言葉を聞いて黙った。


 少し前の自分たちが、そこにいた。


 初めて炉を見た時。

 初めて粥を食べた時。

 腹が減ることを思い出した時。

 熱いものをうまいと感じた時。


 この悪魔は、少し前の自分たちだった。


 その悪魔は、一晩かけて少しずつ回復した。


 名前は、モルクと言った。


 小柄な悪魔だった。

 角も翼も小さく、腕も細い。

 だが、荷を背負うための肩の形をしていた。


 元は荷運びをしていたらしい。


 翌朝、モルクはまだ外套に包まれたままだったが、話せるようになっていた。


「石切り場の、東……黒い岩の向こうに、小さい集落がある」


 ヴェスパーは炉の前で膝をつき、モルクの目を見る。


「何人いる」


「二十くらい……もう少し、少ないかも」


「動ける奴は」


「ほとんど、いない。火はある。でも、弱い。食うものも、ほとんどない。家も崩れて……風が入る」


 モルクはそこで咳き込んだ。


 リトが水を渡す。


 モルクは少し飲んで、続けた。


「助けを呼びに出た。でも……戻れなくなった」


 フルカスが低く呟いた。


「この村の、以前の姿ですな」


 ヴェスパーは黙って記録帳を開いた。


 アガレスが横から覗き込む。


「王様、地図ですね」


「モルク。場所を指せ」


 モルクは震える指で、石切り場の東を示した。


 ヴェスパーはそこに、小さな赤い丸を打つ。


「東の小集落。仮記録です」


 アガレスが書き込む。


 ヴェスパーはモルクを見た。


「案内できるか」


「行く」


「歩くな」


 モルクが目を瞬かせた。


「でも、道は俺が」


「そりに乗れ。歩くな。指をさせ」


「……そりに?」


「案内役が倒れたら意味がない」


 モルクはしばらく言葉を失っていた。


 助けを求めて倒れた悪魔が、今度はそりに乗って仲間を助けに行く。


 そのことに、まだ頭が追いついていないようだった。


 救出隊はすぐに編成された。


 ヴェスパーは研究所の地図を前にして、隊の面々を見た。


「石切り隊は道を確保。そりが通れる幅と足場を見る。ザグ、判断はお前だ」


「承知した」


「バルガン。そりを引け。速度はザグに合わせろ」


「分かった!」


「ラゴ。匂いと風を見る。危ないと思ったら戻れ」


「はい」


「グレル」


「はい」


「お前は村に残れ。救出で粥と血と弱った悪魔の匂いが増える。魔物が寄るなら、ここだ」


「承知しました。狩猟番を外周に回します」


「頼む」


 グレルは、もう探索に出たいとは言わなかった。


 自分の持ち場がどこかを理解していた。


 ヴェスパーはアガレスを見る。


「外套を積め。粥を骨壺に入れて積む。水も持て。予備の赤い帰還柱も持たせろ」


「はい、王様!」


「そりは空けておけ」


 アガレスの手が止まる。


「石は」


「石は後でいい」


 ヴェスパーは低く言った。


「まず、生きてるやつを連れて帰れ」


 バルガンが力強く頷いた。


「分かった! 王の命令だ!」


「あと、そりは壊すなよ。帰りは石より重い」


「石より?」


「命だ」


 バルガンは一瞬だけ目を見開いた。


 それから、真剣な顔で頷いた。


「分かった。絶対に落とさん」


 モルクをそりに乗せ、救出隊は出発した。


 赤い帰還柱をたどって石切り場へ。

 そこからさらに東へ進む。


 黒い岩稜の向こうは、風が複雑だった。

 岩が壁になり、風を巻き、時々まったく違う方向から冷気が吹きつける。


 モルクはそりの上から、弱い声で道を示した。


「あの黒い岩を越える」


「右は?」


 ザグが問う。


「駄目だ。魔物が来る」


 ラゴが鼻を動かし、すぐに頷いた。


「右から古い魔物の匂いがします」


「左は」


「風が強い。戻れなくなる」


「正面か」


「風が弱い時だけ、通れる」


 ラゴは耳を伏せたまま、風を読む。


「今なら行けます。ただし、長くいると危ないです」


 ザグは頷いた。


「進む」


 赤い帰還柱を追加で立てながら、一行は東へ進んだ。


 モルクは、立てられていく赤い柱を見ていた。


「こんなものがあれば……もっと早く、戻れた」


 その呟きは、風に消えかけた。


 誰も軽く返さなかった。


 やがて、小集落が見えた。


 崩れた小屋がいくつか。

 風除けにもならない壁。

 消えかけた火種。

 広場にうずくまる悪魔たち。


 十数人から二十人ほど。


 ほとんどが動けない。


 モルクはそりの上で身を起こそうとした。

 すぐにザグが支える。


「戻った……」


 かすれた声だった。


 それでも、小集落の悪魔たちは顔を上げた。


「モルク……?」


「戻った」


 モルクは震える声で続けた。


「火がある。食い物もある。迎えに来た」


 誰かが泣いた。


 声にならない、乾いた泣き声だった。


 壁にもたれていた片角の女悪魔が、信じられないものを見るように口元を押さえた。

 小さな翼を抱えた若い悪魔は、粥の入った骨壺を見ただけで、目を見開いたまま涙をこぼした。

 奥の小屋の陰にいた老悪魔は、外套を差し出されても、しばらく受け取ろうとしなかった。


「……まだ、そんなものが残っていたのか」


 彼が呟いたのは、外套のことなのか、火のことなのか、迎えに来る者のことなのか分からなかった。


 救出は、静かに始まった。


 ラゴが周囲を警戒する。

 石切り隊がそりを動かす。

 動ける者には外套を着せる。

 動けない者はそりへ乗せる。

 粥を少しだけ飲ませる。


 その場で長居はしない。


「荷物は」


 小集落の悪魔の一人が、壊れた小屋を指した。


 ザグは首を振った。


「置いていく」


「火種は」


「向こうに炉がある」


「家は」


「後で王が考える」


「王……?」


 その悪魔は、信じられないものを見るようにザグを見た。


 後で考える。


 その言葉が使えるほど、彼らには後が残っていなかったのだ。


 バルガンは動けない悪魔を外套ごと抱え、そっとそりへ乗せた。


 乱暴ではなかった。


 力任せでもなかった。


 それを見て、ラゴが少し驚いた顔をする。


「バルガンさん、丁寧ですね」


「王に言われたからな!」


「何をですか」


「命は石より重い、と!」


「それは、たぶん合っています」


「だろう!」


 赤い帰還柱を追加で立てながら、救出隊は戻った。


 そりは石を運ぶために作った。


 だが、その日そりに乗っていたのは石ではなかった。


 外套に包まれた悪魔たち。

 粥の匂いに、かすかに目を開ける者。

 赤い帰還柱を見て、声にならない声を漏らす者。

 まだ自分が助かったことも分かっていない者。


 白い荒野の中を、そりの列がゆっくり進む。


 氷の上に刻まれるそり跡は細く、すぐに風で薄れていった。

 けれど、赤い帰還柱だけは消えなかった。

 白と灰の世界の中で、血のような赤が点々と続き、その一点ごとに、帰る方向を示している。


 外套の隙間から、黒ずんだ指先が少しだけ出ていた。

 ラゴが気づいて、そっと布をかけ直す。

 片角の女悪魔は、そりの上で何度も目を開け、赤い柱を見るたびに唇を震わせた。


「本当に……戻れるのか」


 誰もすぐには答えなかった。


 やがて、ザグが短く言った。


「戻るための柱だ」


 その言葉だけで、女悪魔は再び目を閉じた。


 バルガンがそりを引く。


 今度は無駄に力を入れなかった。

 肩に掛けた皮紐を軋ませながら、一歩ずつ踏みしめる。

 いつもの大声も少なかった。


 ラゴが前方の風を読む。

 ザグがそりの揺れを見て、時々止める。

 狩猟番から出された数人が左右を固める。


 白い荒野の中、赤い点をたどって、二十人ほどの悪魔が村へ戻ってくる。


 村の見張り台から、最初にそれを見つけたのはニムだった。


「帰ってきた!」


 その声で、村が一気に動いた。


 グレルは外周の狩猟番へ短く指示を飛ばす。


「左右を見る。匂いに釣られる魔物が来るかもしれない。炉の近くには近づけるな」


「はい!」


 メルツは外套を抱える。

 リトは水を温める。

 ハボリムは大鍋の前に立つ。

 ブエルは食べられるものと、今は食べさせない方がいいものを選り分ける。

 フルカスは寝床に使えそうな場所を空けていく。


 ヴェスパーは炉の前に立った。


 そりが戻ってくる。


 外套に包まれた悪魔たちが、次々に下ろされる。


 村は一気に混乱した。


 寝床が足りない。

 粥が足りない。

 外套が足りない。

 炉の周りが混む。


「王様、寝床が足りません! 粥も足りません! 外套も足りません!」


 アガレスが叫ぶ。


「見りゃ分かる。増やせ。作れ」


「王様、指示が雑です!」


「状況が雑なんだよ」


 ヴェスパーはすぐに指示を出す。


「炉に近づけすぎるな。重いやつから外套を二重にしろ。粥は薄めでいい。いきなり食わせすぎるな。寝床は研究所横を空ける。石材は一度どかせ」


「石材をですか!」


 ザグが少し反応した。


「石は凍えない。こいつらは凍える」


「……承知した」


 黒い石材の山が移される。

 そこに外套が敷かれ、弱った悪魔たちが寝かされていく。


 片角の女悪魔は炉の熱に触れた瞬間、顔を歪めた。


「痛い……」


「急に近づくな」


 ヴェスパーは外套を一枚ずらし、炉から少し離れた位置へ寝かせ直す。


「熱も刺激だ。少しずつだ」


 女悪魔は震えながら頷いた。


 小さな翼を抱えていた若い悪魔は、薄い粥を一口飲むと、器を両手で抱えたまま動かなくなった。


「取らない」


 ヴェスパーが言うと、若い悪魔はびくりと肩を震わせた。


「それは、お前の分だ」


 若い悪魔は器を見下ろし、それから小さく頷いた。


「……自分の分」


 その声は、粥の湯気よりも薄かった。


 救出者たちは、炉の熱と粥で少しずつ回復した。


 すぐには働かせない。


 まず食わせる。

 温める。

 寝かせる。


 名前と得意なことだけ確認する。


 アガレスは記録帳に新しいページを作った。


 救出者一覧。


 動ける者。

 まだ寝かせる者。

 手が使える者。

 足が弱い者。

 荷運び経験者。

 石を知る者。

 狩りの経験がある者。

 何も思い出せない者。


 モルクは外套に包まれたまま、炉のそばで息を吐いた。


「みんな……戻れた」


「まだ戻っただけだ」


 ヴェスパーは言った。


「ここで生きるなら、これからだ」


 モルクは目を閉じたまま、小さく笑った。


「これから、があるのか」


「勝手に終わるな」


 その言葉に、近くで寝ていた悪魔がかすかに肩を震わせた。


 笑ったのかもしれない。


 夜になる頃、救出者たちはようやく落ち着いた。


 だが、問題は山のように残っている。


 寝床が足りない。

 粥が足りない。

 外套が足りない。

 炉の周りが狭い。

 石材置き場も移動したため、作業動線も崩れた。


 ヴェスパーは研究所で地図を広げた。


 アガレス、フルカス、グレル、ザグ、メルツ、リト、ハボリム、ブエル、バルガン、ラゴ、モルクが集まっている。


 モルクはまだ立てないため、外套に包まれたまま座らされていた。


「まず確認する」


 ヴェスパーは地図を指で叩いた。


「人が増えた。だから仕事も増えた。だが、一人に何でもやらせるな」


 アガレスがすぐに記録帳を開く。


「マルチタスク禁止ですね!」


「禁止とまでは言わん。ただ、避ける」


「できる者を便利枠にしない!」


「それは書いていい」


「はい!」


 グレルが静かに頷いた。


「狩猟番は、村の外周警戒と狩りに戻します」


「そうしろ。特に今は匂いが増えてる。弱った悪魔、粥、皮、肉、血。魔物が寄ってくる可能性がある」


「はい」


「ラゴ」


「は、はい」


「お前は探索補助だ。グレルの下から出る。匂いを見て、危なければ戻る。勝とうとするな」


「戻ります」


「いい返事だ」


 バルガンが腕を組む。


「俺も戻る!」


「お前はまず、引く時に考えろ」


「考えて引く!」


「急に難しそうな顔をするな」


 ヴェスパーは次にザグを見る。


「石切りは継続する。黒い石は土台、炉、排管、工房に必要だ。ザグ、石材の規格を決めろ」


「積める形、運べる重さ、そりに載る大きさ」


「そうだ」


「次から揃える」


「頼む」


 ザグの目には、弱っていた頃にはなかった光が戻っていた。


 石を見る目。

 使う形を考える目。

 職人の目だ。


「バルガン」


「なんだ、王!」


「そり運搬隊を作る。お前は引くだけじゃなく、引き方を教えろ」


「俺が教えるのか!」


「速度を出しすぎるな、曲がる時は落とせ、下りは押さえろ、石を固定しろ。それくらいなら教えられるだろ」


「任せろ!」


「そりは荷物に合わせる。荷物は石だけじゃない」


 バルガンは少し黙った。


 それから、いつもより低い声で答えた。


「分かった」


 次に、メルツ。


「外套が足りない。皮革補助を付ける」


「助かる。縫う手が欲しかったんだよね」


「救出者の中で手が使えるやつを回す。ただし無理はさせるな」


「分かってる」


 リトには、保存と毒確認の補助を付ける。


「急に人数が増えた。食べられるものの確認を増やす。毒抜きも記録しろ」


「はい」


 ブエルがにこにこしながら手を上げた。


「毒抜きすれば、だいたい食べられますよぉ」


「その基準を新人に教えるな」


「では、食べると少しだけ動けなくなるものは」


「食わせるな」


 ハボリムには粥炊き補助を付ける。


「鍋を増やす。火加減を教えろ」


「焦げたものは香ばしいのう」


「焦がすな」


「難しいのう」


「補助役に止めさせる」


「それは助かるのう」


 フルカスには、村全体の統率補助を任せる。


「寝床の割り振り、動ける者の確認、休ませる者の判断。お前が見ろ」


「承知いたしました」


 フルカスは静かに頭を下げた。


 かつての老騎士の輪郭は、今ではかなり戻っている。

 まだ全盛期には遠い。

 だが、村の古参として、新入りを支えるには十分だった。


 ヴェスパーは地図に新しい線を引いた。


「今後の方針は三つだ」


 アガレスが姿勢を正す。


「一つ、石切りは継続。黒い石は土台、炉、排管、工房に必要。石材規格を決める」


「はい!」


「二つ、石切り場の奥で鉱脈を探す」


 バルガンの目が輝いた。


「掘るのか!」


「掘らない」


「なぜだ!」


「まず見るだけだ。黒い岩場があるなら、金属の筋が近くにあるかもしれない。だが、見つけても掘るな。報告しろ」


「掘らないのか!」


「掘るな」


 アガレスが記録帳に書き込む。


「バルガン、掘削禁止」


「おい! 俺だけ名指しか!」


「お前だけ名指しだ」


「王!」


「抗議しても掘削禁止だ」


 バルガンは悔しそうに唸った。


 ラゴが小さく言う。


「掘る音は、魔物に聞こえます」


「ほら見ろ」


 ヴェスパーが言うと、バルガンはラゴを見た。


「お前、弱そうなのに嫌なことを言うな!」


「すみません」


「謝るな。合ってる」


 ヴェスパーは三つ目の線を引いた。


「三つ、西側にも赤い帰還柱を伸ばす」


 その場が静かになる。


「東に小集落があった。なら、西にも同じ境遇の悪魔たちがいるかもしれない」


 アガレスが小さく息を呑んだ。


「また、救出ですか」


「いきなり本格救出はしない。まず確認だ」


 ヴェスパーは地図の西側を指差す。


「見張り台から見える範囲。炉の煙が見える範囲。帰れる距離。赤い帰還柱を少しずつ立てる」


「探索隊は」


「回復した者の中から、杭作り、塗料塗り、そり整備、荷運びに回す。すぐ外へは出さない。軽作業からだ」


 モルクが外套の中で顔を上げた。


「荷運びなら、俺が」


「今は寝ろ」


「でも」


「明日から軽い物だ。石はまだ持つな」


 モルクは少しだけ笑った。


「明日から、か」


「そうだ」


「いい言葉だな」


 誰も笑わなかった。


 この村では、明日という言葉がまだ新しかった。


 グレルが静かに言った。


「西風の日に匂いを見ます」


「頼む。ただし、お前は遠くへ出るな。村の鼻だ」


「承知しています」


 アガレスが嬉しそうに記録帳を抱えた。


「王様、集落が広がりますね!」


「問題も広がる」


「でも、できることも広がります!」


 ヴェスパーは否定しなかった。


 研究所の記録帳には、新しいページが増えていた。


 南には黒い石切り場。

 その奥には鉱脈探索予定地。

 東には救出した小集落。

 西には新しい赤い帰還柱予定地。


 村には二十人ほどの新入りが眠っている。


 炉の周りは狭くなった。

 粥も足りない。

 寝床も足りない。

 外套も足りない。


 だが、動ける手も増えた。


 ヴェスパーは地図を見下ろし、低く言った。


「石切りは続ける。鉱脈も探す。西にも帰還柱を伸ばす」


 アガレスが記録帳に書き込む。


 ヴェスパーは続けた。


「凍らず、迷わず、戻れる範囲でな」


 炉が低く唸る。


 外では、救い出された悪魔たちが、初めて凍えずに眠っている。

 そりは石を運ぶために作られた。

 だが、その日そりに乗っていたものは、石よりも重かった。


 命だった。


 地獄の改革は、石と人手と地図を増やしながら、さらに外へ広がり始めていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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