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第8話 ここは乙女ゲームの世界?

『ブルーローズの誓い』


 RPG要素もある乙女ゲームで、プレイヤーは主人公を操作して攻略対象たちとの仲を深めたり、森やどうくつなどのダンジョンを攻略したりしてストーリーを進めていく。


「そうそう。たしか、そんなゲームだったよね」


 机の上の日記帳にざっくりと書き出したゲームの情報を見て、突き出したくちびるに指を当てる。


 今は部屋にいるのは私だけだ。だから堂々と、ゲームのことを考えられる。


 メイドのネリネは王子たちを見てうずくまった私をひたすら心配していたけれど、どうにか出てってもらった。


(ダンジョンか……、お父様や家庭教師の先生たちからも聞いたことがないけど、この世界にもあるのかな)


 ゲームでは、ダンジョンで鉱物や薬草を集めてくるようなミッションもあった。

 ほかにも特定の場所、レベルに達しないと開かないストーリーもあったし、なにげにRPGパートも重要だった。


(それなのに、ちょっと戦闘に手間取ってると、ティエラが邪魔してくるんだよね)


 地水火風すべての魔法属性に適性を持ち、魔力量も多いティエラは最初から最強だった。

 少しでも戦闘に手こずっていると、横から経験値をうばっていくのだ。

 そのせいで魔物やボス戦にも勝てなくなるから、迷惑でしかない。


「ああ、もう。ほんっと、ティエラってヤなキャラ!」


 思わず大きな声が出て、あわてて口を押さえる。


 ドアの方を振り返る。ネリネが入ってくる様子はない。

 ほっと息をつき、あらためて日記帳を見る。


「それにしても、子供時代のベルモント王子やリフネくんたちに会えるなんて」


 日記帳に書いた王子やリフネくんの名前をなぞる。

 そっと窓に近づいて外をのぞいてみたけど、もう王子たちは帰ったあとみたいだ。


(ベルモント王子って、ちっちゃいころから美人さんだったんだな)


 王子の幼少期のエピソードはゲームでも少し出てきたから、なんとなく覚えてはいる。

 でも実物はそれ以上だった。


「リフネくんやファルコさんには気がつかなかったな」


 ブルロファンとしてなんたる不覚。好きなゲームだったはずなのに、なんでもっと早く気づけなかったかな。


(だって、私はベルモント王子一筋だったし……!)


 いやまあ、ほかのキャラのスチルも、全部集めたけど。


 でも幼少期のエピは、ゲームの回想シーンでちらっと出てきただけだし、正直、王子以外はうろ覚えだ。

 だから、しかたがないと思うの。


 自分自身にいいわけをしながら、はあ、とため息をつくと机まで戻る。


「それにしても、王子のお見舞いもそうだけど、ちっちゃい頃のティエラとリフネくんに接点なんてあったかな」


 日記帳を見ながら首をかしげる。

 リフネくんの幼少期エピはあんまり覚えていないけれど、子どもの頃のティエラと接点があったのは、王子だけのはずだ。


(王子の、幼少期エピで語られるんだよね)


 王子の幼少期のエピソードではふたつの話が描かれている。

 王子が九才の誕生日に王宮でのパーティーで出会った女の子との話と、王城を抜け出して城下町を探索した時に起こったちょっとした騒動。


 王宮のパーティーではティエラと、街の探索では主人公とのエピソードがそれぞれ描かれている。

 どっちも女の子の姿は、はっきりとは書かれていなかったけど、シルエットが明らかにティエラと主人公だった。


「九才の誕生日パーティーかぁ。ベルモント王子って、今いくつだっけ?」


 たしか、王子は私が産まれる二年前にお産まれになったはずだ。私が今、七才だから、えっと……。


「もしかして、今回のパーティーがそうだった?」


 はっとなって、日記帳から顔をあげる。


「え、でもそんなエピソード、今回のパーティーじゃ……。いや、そもそも、私が途中で帰ったから……。いや、でも」


 もしそうだとしたら、ティエラと王子との出会いのイベントを飛ばしたことになる。

 悪役令嬢への道が遠くなったと考えればそうだけど、これって未来に影響が出たりとかするのだろうか。


「待って、待って。ちょっと落ち着こう」


 胸に手を当てて、そっと息をつく。目を閉じて、ゲームの記憶をたどる。


(……そうだ。ゲームでは、そもそもティエラは、パーティーに参加してないじゃん)


 ゲームでティエラは父親に連れられて王宮の会場には行ったけど、中には入れなかった。

 父親が、招待されていなかったから。


 怒鳴り込み、強引に中に入ろうとする父親と、周りからのばかにしたような視線とひそひそ声。

 耐えきれず逃げ出したティエラが王宮の庭の隅で泣いているところに、王子が手を差しのべてくれたんだ。


「ん?」


 そこまで思い出して、首をかしげる。


「でも、今回は、普通に招待されてたよね?」


 パーティーに参加するか聞かれたときに、すっごいイヤそうな顔をしてお父様が招待状を見せてくれた。

 つるつるとした白い紙に、箔押しの模様がとってもきれいな招待状。

 当日、王宮に入るときにも渡していたはずだ。


 それにお父様が怒鳴りこむ姿とか、想像できない。

 王子たちがきたときは、大きい声を出していたけれど。


「んん?」


 わけがわからなくて、まゆを寄せる。

 閉じていた目を開くと日記帳に視線を落とす。


 ゲームの情報をざっと書きとめたメモの中で、ふとリフネくんの名前が目についた。


『リフネ・フラワード 15歳 158cm

 フラワード伯爵家次男。魔法庁長官の息子。皮肉屋で天の邪鬼な性格。

 自分に自信がなかったが、はじめて自分を認めてくれた主人公のことは気になっている。』


(魔法庁、長官……それって、お父様の役職だったような)


 自分の書いた文字をなぞる。


 そう、ファルコさんのお父さんも、ベルモント王子も、お父様のことを『魔法庁長官』と呼んでいた。


(それに、リフネくんのお父さんは『魔法庁副官』って呼ばれていたし、お父様もそう紹介してくれたわ)


 でも、そうだ。たしかにゲームの中では、リフネくんが魔法庁長官の息子だった。


「え、どういうこと?」


 ゲームと、お父様の役職が違う。

 前にお母様や家庭教師から聞いた話では、魔法分野で大きな功績を残したことがきっかけで、今の地位に就いたそうだけど。


 それに、思い返せば、ゲームで描かれていたティエラの父親とお父様では、性格もなにもかも違う気がする。


(お父様は、私に過保護なくらいだし)


 ティエラは、親からの愛情不足もあって主人公を邪魔しまくって、周りの気をひこうとしていた。

 やりすぎを指摘する人もいなかったから、行き過ぎた行動になり、結果的に破滅してしまうのだ。


 でも、ティエラとして過ごしたこれまでの七年間、愛情不足を感じたことはない。

 むしろ多すぎるくらいだ。


(お父様もひど……過保護だけど、お母様もなかなかなのよね)


 お母様のことに考えが飛んだところで、はた、と気がつく。


「そういえば、ゲームでのティエラの母親って、お母様とは違う人だったような……」


 ネグレクト気味だったティエラの母親がティエラと接することは、ほぼほぼなかった。

 それでも、ゲームの終盤に少しだけ出てくる場面がある。その時の名前や顔は、今のお母様とは別人だった。


(違う。ティエラの母親については、たしか裏設定があったはず)


 ファンブックの隅の隅に書かれていた情報。その内容を思い出す。


(……そうだ。実際の母親と、育ての親が違うんだ)


 ゲームでティエラの母親として描かれていたのは、育ての親でもあるお母様のお姉さんだった。

 お母様自体はゲームには出てきていない。


(あれ? そうだったっけ?)


 でも、お母様の名前も、なんとなく見覚えがあるんだよね。えっと、ファンブックのどこかに、書いてあったはず。


 頭の中で、ファンブックのページをどんどんめくっていく。

 どうにかお母様の名前、『ジェニー』が引っかかったところで、はっとして顔をあげる。


「お母様は、ティエラを産んだ、本当のお母さんと同じ名前だ」


 ティエラの実の母親は、ゲームが始まったときにはすでに亡くなったあとだった。

 ファンブックの中でだけ語られる話だけど、もともと重い病気を長く患っていて、ティエラを出産した後に産後の経過が悪く、命を落としてしまったらしい。


「んんん?」


 だったら、なんでお母様は生きているのだろう。病気は治ったのだろうか。

 まさか別人、というわけでもないだろうし……。


 ますます意味がわからなくて、首をかしげる。

 なんだか、すでにゲームといろいろ違う。

 これって乙女ゲーム的にどうなのだろう。


 てゆーか、お父様、何かした?


 とりあえず、今思い出したことも日記帳に書いておく。

 そこに、どたどたどた、と、ろうかを走る音が聞こえてくる。


 静止するネリネの声も無視して、ばん、と扉が開けられる。私はとっさに日記帳を閉じた。


「ティエラ、また倒れたって聞いたけれど大丈夫かい?」

「お父様! 勝手に部屋に……、ああ、いえ。でも、今はちょっと聞きたいことが……」


 突然のお父様の乱入にあわてつつも、どうにか言葉を返す。


「聞きたいこと? ティエラからそう言ってくるって珍しいね! どんな相談事だい? お父さんにできることなら、なんだって叶えよう。ああ、でも王子との婚約だけはやめておくれよ」


 前のめり気味なお父様に、自分の言動に少し後悔をしながら息をつく。

 嬉しそうに息巻くお父様は、なんだか大型犬みたいだ。


「……ネリネ。とりあえず、お父様と二人分の紅茶を用意していただけるかしら」

「すでにこちらに」


 窓際の丸テーブルには、いつの間にか二杯の紅茶が置かれている。


「あと、悪いけれど、また……」


 続きを濁す私に、ネリネは一度お父様を見てからしぶしぶうなずく。しずしずと部屋を出た。

 部屋のドアが閉まると、ほっと息をつく。


 これで心置きなく、お父様を問いただ……、疑問に答えていただけるわ。

 前世の話だし、さすがにネリネに聞かれるわけにはいかないしね。


「それで、ティエラ。聞きたいことってなんだい?」


 浮かれた様子のお父様を窓際の席にうながして、向かい合わせに座る。

 テーブルに肘をつき、まっすぐにお父様を見た。


「単刀直入にお聞きしますわ。お父様、いったい、何をなさったの?」

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