14.第二王子
「あぁ、ルカお兄様。もういらっしゃったんですか?時間前行動過ぎません?暇なんですか。まあいいでしょう。そんなところに突っ立ってないで中に入ったらいかがです?今日はめでたい席なので是非。」
ノアはそう言って何食わぬ顔で客人よりも先に優雅な所作で自分の席に着座した。
おぉー、今日もノアお得意の嫌味が遺憾無く発揮されているなぁ〜。
って…ん?ルカ?…お兄様…?て言った?えっ、この茶髪の少年が、ノアのお兄さんなの?!!
「ノア、ふざけるな。何がめでたいのかは知らんが、めでたいのはお前の頭だろうが。今日のお父様との面談がここでとはいえ、わざわざ第三離宮にこの俺が顔を出してやったんだ。なのに迎えも無しで悠長に食事とはどういうことだ。」
不機嫌そうに腕を組み直して少年はこちらに歩いてくる。
ノアが17歳と言うことは、この少年…ではなくルカ王子はそれ以上と言うことだよね?
茶髪の短髪は利発そうな印象を与えるし、ノアと同じアメジストの瞳は溢れるように大きく睫毛も長い、その下にある鼻と口は控えめであり幼さを感じる。ノアの方がお兄さんだと言った方がしっくりくる気もする。
自分よりも年上の男性にこんなこと思うのもどうかという感じだけど、黙っていると本当にお人形かな?と思うほど可愛い。
眉間に皺を寄せながらルカ王子は、ズカズカと足音を鳴らして歩いてくる。
そうして着座したまま淡々とレモン水を飲むノアの隣に立つ私に近づいて、品定めするような眼差しを向けてきた。
近づいて分かったけど背丈は私とさほど変わらない。
「へぇ〜。お前がノアの婚約者か?戦から帰ってきた『美しい鬼神』が見初めた女はどんなもんかと思ったが。はっ、シケたツラしてんな。さすが庶民。」
潮笑を浮かべて私の顔をまじまじと眺めてくる。ノアと目元が似ている美形だからか圧は感じるけど、元の顔が可愛い系だからかあんまり怖くはない。むしろ威嚇してくる子犬のようで愛らしい。
…っていやいや。ノアのように顔面偏差値の高さで思考が鈍ったけれども、今私すごく失礼なこと言われなかった?
そりゃまぁ、ノアと同じDNAを宿してる人からしたら私なんてそこら辺の石ころみたいなもんだろうけど…初対面でシケたって、酷くない?
そう思った瞬間、私と対峙するルカ王子の前を一筋の光が通った。
シュンーー、トスッ。
凄まじい速さで光の矢が目の前を掠めて食堂の壁に刺さった。
え、何?吹き矢??
一瞬にして身を硬くしながら矢の刺さった壁をまじまじと眺める。
ん…?あれは…塩釜焼きの…鯛の骨??
「初対面でそのようなお口の聞き方。カルシウムか足りてないんじゃないですか?それとも貧血でそのような無愛想な面構えですか?今日はそんな今のバカ様…おっと、ルカ様にぴったりな鯛と小豆の祝膳ですよ。とりあえず着座されたらどうです?」
目を細めて狙いを定めながら、ムチムチの割烹着の袖口に手を添えて2本めの鯛の骨をダーツのように投げようとしているクドウさんがルカ王子にそう言った。
ムチムチ割烹着で笑えそうなのに所作が怖すぎて笑えない…!!!!
「はぁ??第三王子の執事如きが第二王子にそのような態度、無礼にも程があるぞ!」
この人第二王子なのか‼︎
私がそんなことを考えている間にクドウさんの眼光が鋭くなった。
ヤバい‼︎クドウさんを怒らせてはダメだ‼︎このままだとバカ王子…じゃなくルカ王子の命が危ない‼︎
本能的にそう感じ、思わずクドウさんを静止できそうなノアに助けを求めて目配せをする。
ノア!このままだと鯛の骨が全部ルカ王子に突き刺さってしまう‼︎この状況どうにかして‼︎
そんな私の思いを受け取ったのか受け取らなかったのか、ノアはレモン水をコクリと喉を鳴らして飲み干すと、
「無礼なのはお兄様の方でしょう。私の婚約者への失言、死で償うしかないのでは?あなたの言う『美しい鬼神』の手で、息の根止めて差し上げましょうか?」
ヒィーッ‼︎もうだめだ、最悪だ!!!!この2人を怒らせては、ルカ王子が簡単に消えてしまう!!!!!
私はさっき自分がシケたツラだと言われたことへの怒りも忘れて、このバッチバチのジリッジリの雰囲気を少しでも和らげようと背中に冷や汗をかきながら発言してみる。
「あ、あのぉ〜ルカ様??と、とりあえずこちらに座られてはどうですか?」
私はそう言って目の前にあるノアの隣の席の椅子を引く。
「オイ、庶民。どうやってノアに取り入ったのか知らんが名乗りもしないくせに席の案内とは早速家主気取りか?」
アァー!!確かに雰囲気に飲まれてすっかり名乗るの忘れてたー!!
「あ、い、う、申し遅れてすみません。アメリアと申します。ルカ様以後お見知り置きを。」
そう言って今更ではあるがゆっくりとカーテシーをする。
「ハッ。まぁ、名乗られたとてさほど興味ないがな。女など所詮この国の駒に過ぎん。」
…ハァァァァ??!!何この第二王子?!?!
もぉー、ダメ。もう私もダメです。もうこの可愛い顔にも騙されません。普通にムカつきます。
思わず拳を握り、この僅かな期間で身につけ始めていた貴族の所作を忘れて飛び掛かりたい衝動に襲われていたその時。
ルカ王子はそんな私を見て鼻で笑ったあと、踵を返して
「オイ、ノア。お父様との面会に遅れるなよ。」
と言いいながら廊下に待たせていた従者たちに客間に行くぞと声を掛けて部屋を後にしていった。
何だったんだ、今の嵐みたいな時間…。
食堂のドアをミナミさんがゆっくりと閉めると、私が怒りを堪えて握っていた拳にそっとノアが自身の指を絡ませてきた。
「こんなに強く握ってはダメでしょ。爪の跡がつく。アメリアに跡を付けていいのは俺だけだろ?」
そう言ってフッと柔らかく笑って私を抱き寄せて膝に座らせた。
「なッ!!」
思わず赤面して立ちあがろうとしたが、腰に回ったノアの腕が力強過ぎて無理だった。
「ごめんな。ルカが失礼なことを言って。俺が王になったら即刻始末するから今は我慢してくれる?」
そう言って申し訳ないと私の背中におでこを擦り寄せてくる。
「いやいやいやいや、怖い怖い怖い。そこまでしなくていいから。」
本当にしそうで怖いなー。私が青ざめているとノアがぽつりぽつりと話し出した。
「俺の生い立ちの話はしたよね。クドウからも聞いたと思うけど。今会ったルカともう1人いる俺の兄は小さい頃から王にもなる資格はなく政治的に利用されているのもあって、その運命から逃れて1人のうのうと生きてきた俺のことをよく思ってはいない。」
「え。」
のうのうとなんて生きてないじゃない!たくさんノアだって苦悩して。と言いたかったけど、それを感じ取って静止するようにノアは腕にさらに力が入れた。
「だから、今みたいに心無いことを俺といる限りアメリアはまた言われるかもしれない。それは兄たちだけではなく…他にも。」
他にも…??誰が…?
と疑問が一瞬浮かんだけれど、ノアの掠れた声を聞いて今は言葉にすることも憚られた。
「それでも、一緒にいて…くれるか?」
少し自信なさげにそうやって訪ねてくるノアを背中に感じながら、私と出会う前のノアを思いを馳せて、迷いなくゆっくりと頷く。
そんな私たちをクドウさんとミナミさんが暖かい目で見ていたのに気づいて、少し恥ずかしかったけれど2人はとても優しく微笑んだ。
「本当にありがとうございます。アメリア様。」




