13.赤飯
「ん・・・。」
「おはよう、アメリア。」
柔らかな日差しの中、目を覚ますとノアが隣で私の髪を掬い上げて弄んでいた。
どうやら私は、昨夜ノアの隣で頭を抱えながらそのまま酷い倦怠感に身を任せて眠ってしまったらしい。
「寝顔も寝起きも可愛い。」
ノアは何やら満足げにそういうと弄んでいた髪の毛にゆっくりと軽いキスを落とした。朝から非常に糖度が高い行動にクラクラして胸元にあったふわふわな布団をグッと上げて目の下まで覆った。
コンコンコン。
「失礼しま・・・・。」
いつものようにピシャリとアイロンがけされたパンツスーツのミナミさんが、部屋に入ろうとして私たちのいるベットを確認した瞬間に硬直した。
「…失礼しました。また後程伺います。」
いつものクールな眼差しも表情も崩さずに一礼すると、静かにドアを閉める。
布団で胸から下は覆われているが鎖骨が顕になっているノアと目元から上しか見えない状態で眠る私。
完全に勘違いされた気がする!!
「え、あっ!ミナミさん!」
慌ててミナミさんを追ってベッドから飛び起きるも、時すでに遅し。
完全にドアは閉まってしまい、ミナミさんをパジャマ姿で部屋の外まで追うことは出来なかった。
「勘違いされた…絶対。」
青ざめる私にノアはニヤニヤと笑っていた。
私の部屋からなかなか出て行こうとしないノアをやっとの思いで追い出して、タイミングよく入れ替わりで入室してきたミナミさんと支度を整えてかなり遅めの朝食を摂りに行く。
するとそこには、クドウさんがイガではポピュラーな割烹着という白く袖の長いエプロンを着て鼻歌を歌いながらカトラリーを並べていた。
線が細いとはいえ、長身の男性であるクドウさんの割烹着姿は若干の違和感がある。肩の辺りパンパンだけど大丈夫かな?
「おはようございます、クドウさん。」
あまり感情を表に出さないクドウさんが、頭の上に音符が見えそうなほど上機嫌なので、すこし戸惑いながら話しかけてみる。
「おはようございます。アメリア様。あら!胸元のアメジストの輝きが見事デスネ〜!」
わざとらしい笑顔が眩しい。
「あっ、ネックレスありがとうございました。」
2週間、クドウさんもノアに付き合って山籠りしてくれていたんだからお礼言っておかなくては。
「いえ、ノア様の思いを受け取って下さり、その、本当に!ありがとうございます。」
「いえ…あの、それは、はい。」
昨日の夜を思い出して赤面してしまい、言葉に詰まる。
「フフッ、ミナミから今朝のこと伺いましたから。お二人の仲良きことは私の幸せでございます。」
クドウさんは華麗なステップを踏みながら大皿の上に乗った鯛の塩釜焼きを丁寧にセッティングしている。
んっ…?今朝のこと、ミナミさんから…?
「えっ、あの、その事なんですが。」
「ハッ、皆まで言わないでください!私めはそんな野暮なこと聞きませんから!」
強めに静止された。
「今日はお祝いです♪シェフに代わり今回は私が腕によりを掛けてお祝膳を準備いたしました。」
満足げにジャーン!!と何やら赤い豆が入ったご飯を差し出された。
「これは?」
何かわからずに首を捻った瞬間、私の背後から聞き慣れた声がした。
「赤飯炊いたのか?」
振り向くと、先程まで私の部屋で寝癖のついた頭を掻きながら半裸で過ごしていた人物とは思えない程、整ったスーツ姿のノアが真後ろに立っていた。
「はい、ノア様。先刻までのアメリア様との初夜のお祝いをと思いまして。」
「初夜?!?!」
やっぱり勘違いされていた!!!思った通り!!
「あぁ、ありがとう。」
「なっ!なんでよ!!ちゃんと説明してよ!!」
ノアは否定せずににっこり笑っている。
「アメリアは知らないかもしれないが、イガは祝い事の際は、この赤い豆が入っている赤飯という食べ物と鯛という魚を食べて祝うんだ。」
「そうなんだ。へぇー!初めて知った!…じゃなくて!!私たち昨日の夜、初夜とか、そんな!何もなかったじゃないの!!」
説明って、赤飯の説明してよって言ってんじゃないのよ!!会話のレスポンスどうなってんのこの王子?!絶対この状況楽しんでる。
「アメリア様。ノリツッコミも出来るとはやはりアンティークの舞姫は芸達者ですね。」
「クドウさん、どこに感心してるんですか!!」
はぁ〜。この場に翻弄されて息切れしてきた。
私が肩で息をしていると、ドアの辺りに待機していたミナミさんが隣に来てくれて優しく私の腰に手を当てた。
「アメリア様すみません。私が今朝のあの場面を立場上、上司のクドウに報告してしまったのでした。そしたらもうその瞬間から、この国は安泰だ、祭りだ、神輿だ、と騒ぎ出しまして。」
そこまで言った時、ノアが私の腰に据えるミナミさんの手を解いて強引に割り込んできた。
「昨日は寝てしまってすまない。でもせっかくクドウが作ったんだから後々の前祝いということで…いいでしょ?」
わざといつもより少し低い声で耳打ちしてくるからたちが悪い。
後々とは??と聞きたいような、聞いたらどうなってしまうのか怖いような。
ノアの甘ったるい香りを感じながら思考をぐるぐると巡らせていると突如食堂のドアがガチャリと開いた。
「ノアが遅いから来てみれば、なーんか第三離宮、楽しそうだね?」
開いたドアに腕組みして立っていたのは、薄い茶色の短髪をしたノアと同じアメジストのような煌めく瞳の少年?だった。




