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15.ホームシック

ルカ第二王子との嵐のような時間のあと、クドウさんが作ってくれた赤飯なるものをいただいた。初めて食べたけど素朴な味わいで懐かしい感じがする。不思議だ。


久々のノアとの食事は和やかで、本当にノアが帰ってきたんだと改めて実感する。


しかし、そんな和やかな時は突然終わってしまった。



「…そろそろ、いってくる。」


綺麗に食事を済ませたノアは、ナプキンで少し口を拭って伏せ目がちにそう呟いた。それから私の顔を見ることもなく無表情でサッと席を立つ。


いつも名残惜しそうに私から離れていくノアとは別人のようなその様に、どこへ行くの?なんて野暮なことを聞けるような雰囲気はなく、主人へ丁寧にお辞儀をするクドウさんとミナミさんの様子と、彼の背中を見ながら行き先を感じ取るしかなかった。



『今日のお父様との面談がここでとはいえ、わざわざ第三離宮にこの俺が顔を出してやったんだ。』


ルカ第二王子の言葉が脳裏を過ぎる。


…ノアに会いに国王陛下がここへ来る、この国の王が自ら。



ノアが去った後、そっと立ち上がり窓辺へ近づいて外を見てみる。離宮の警備がいつにも増して多い。第三離宮の制服ではない兵も多数見受けられる。


昨日の夜あんなに無邪気に戯れていたノアは本当にこの国の王子なんだ。

いや、疑っていたわけではないけど。改めて実感せざるを得ない。


そして自分が今、どんな立場でどんなところにいるのか…考えだすと足が震えた。



「…アメリア様?」


気づけばクドウさんが先ほどまで着ていた割烹着を丁寧に畳みながら隣に立っていた。だから足音しないんだって。


「な、何?」


クドウさんの動作に驚きつつ、今だに生まれたての子鹿のように小刻みに震える太ももをサッと抑える。そしてお母さん直伝のとびっきりの笑顔を作ろうとするが、うまく笑えず引き攣ってしまう。


…下手すぎる。


そんな下手な私の笑顔にクドウさんはつられてくれることはなかった。


「アメリア様?少し確認なのですが、窓辺から国王と第一王子・第二王子直属の兵士を見て、ノア様とご自分のお立場の差を改めて感じ、まさか怖気付く…ということはないですよね?」


おいおいおい、的確に言い当ててくるのやめて〜。


「先程頷いてくださったですもんね?ノア様の隣にいて下さいますよね?」


「え?いや?あはは…」


完全に目が泳いだ。この敏腕執事に何ひとつ隠し事など出来るはずがない。


「ノア様の隣にいて下さいますよね?病める時も健やかなる時も。」


ん…⁈それは誓いの言葉では⁈早くない⁈今は違うんじゃない⁈


なんてツッコミもクドウさんの鋭い眼光を前に出来るはずがない。

しかし、誓いの言葉だとしてもこんな圧が強い毒使いの牧師様に誓うのは絶対嫌だ!!怖すぎるッッッ!!一回誓うと色々と取り返しがつかなそう!!意に逆らえば毒死もあり得る!!

なんて失礼なことを考えながら思わず後退りするが、物理的に近寄ってないはずの毒使い牧師を取り巻くドス黒いオーラが私に迫り来る。


「隣にいて下さいますよ、ね?」


怖い怖い怖い!!!!


「ね?」


ヌォォォォオオオ!!!


「はい。もちろんです。」


引き攣る笑顔でこう答えるしかない自分が情けなかった。



……



ノアが国王や王子たちと会っている間、私は自室にいるよう毒使い牧師に言い付けられた。


ミナミさんに自室まで送ってもらい別れた後、昨夜の不眠と今朝の第二王子や牧師の圧にドッと疲れを感じ、自室のベッドに倒れ込む。


そのまま窓から差し込む光を受けながらウトウトと重くなる瞼を支えきれなくなり、私はそのまま瞳を閉じた。


……



「アメリア?起きて!もう昼前だよ!」


あぁ、ごめんごめん。すぐ支度するね。



騒がしい足音、笑い声、香水の香り



「今日は侯爵が来るんだから、すぐ支度してね。」


わかってるってば、すぐ一階におりて支度するから、ソフィア。




……



「……ハッ!」


勢いよく起き上がると、窓から差し込む光が幾らか傾いていた。どれほど寝ていたのか…。


懐かしい夢を見た。そして頬を伝う温かい感触。


…私、夢を見ながら泣いていたんだ。


平凡で楽しいあの日々。

アンティークのみんな、元気かな??


急に胸が締め付けられたような感覚を抱えていると、ドアの方からコンコンコンッとリズムの良いノック音がした。



「…アメリア、ちょっといいか?」


少し疲れたような表情のノアが、部屋に入ってくるなり私の顔を見て目を丸くした。


「どうした⁈何があった⁈なんで泣いている⁈」


長い足を素早く捌きながらベッド横に来て本当に心配そうに覗き込んでくる。その焦る様子がなぜかとても可愛く見えて少し笑った。


「何もないよ、少し眠って夢を見ただけ。」


「どんな夢を?」


そう言いながらノアは私の手を優しく握る。


「…アンティークにいた頃の。」


なんとなく言いづらくて小さくそう言うと、ノアのアメジストの瞳が微かに揺らいだ。


「…そうか。」


とだけ返事をしたノアは両腕を組んで考えるような動作をする。


少しの沈黙がとても長く感じて、やっぱり言わないほうがよかったかな?と反省した。

この気まずさを取り除こうと今日の国王陛下との話はどうだったのか聞こうとしたその時ー。


「アメリア、欲しいものが出来た。今度休暇が出来たら1日買い物に付き合って欲しい。街へ行こう。」


ノアはそう言って、何故か小さく「ごめん。」と付け加えた。


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