第87話 プルース領主と国王の真意
「ねぇ、2人とも一旦その人から離れてくれる?」
フィリアはそう言ってディスキを制圧していた男女を離れさせると……
「生命の根源たる水の壁よ 轟く雷鳴たる紫電よ
我が敵の道を塞げ 其よ 無慈悲な監獄たれ 氷の監獄」
氷の監獄でディスキを拘束した。
おぉー……となっている男女の横を通ってルナがディスキに近付いた。
「もうわかっていると思うけど、私は第2王女にして王位継承権第一位 フォルトゥナ=ウィンクルムよ。あなたに聞きたいことがあるのですわ」
「……ふん! 人殺しの娘のことになんか答えるかよ!」
「いいからルナの問いに答えろ」
デウスの言霊により強制的な尋問が始まった。
「その腕輪……どこで手に入れたのかしら? 間違いなく王宮内の宝物庫に保管してあったはずですわ」
「父上が……賄賂を渡して盗んできたものだ……」
「そう。わかったわ。それじゃあどうしてこんなことをしたの? 自分の命を危険にさらしてまで……」
「復讐だ。お前たちのせいで殺された父上の無念を晴らすためだっ……!」
ディスキは自分から褒賞式の日に父親が処刑されたこと、その原因がデウスたちであったことを睨みつけながら悔しそうに話した。
「……もう話はいいだろ。自由にさせてくれ……」
ディスキは懐に忍ばせていたナイフを取り出し首にあてた。
「動くな」
ピタッ……とディスキの動きが止まった。
「なんだよ……なんなんだよ!! 自分が死ぬくらいいいじゃねぇか!! どうして止めるんだよ! どうして……」
ディスキは顔を歪めた。頬の辺りにはべっとりと砂がついている。
「泣いてる暇があるなら強くなれよ。ディスキ=プルース」
デウスがディスキに語りかける。
「お前は俺たちが憎いんだろ? 殺してやりたいんだろ? こっちからしたら迷惑な話だが、お前の今の気持ちはそうなんだろ?
だがな、お前には力がない。弱いんだよ、惨めなくらいに。
でもな……だからといって死ぬのは違うだろ。死んだらそこで終わりだ。死ぬのはいつでも出来る。そうじゃないだろ」
デウスが大きく息を吸う。
「死ぬ気で強くなれ! ディスキ=プルース!! 父親が殺された恨みも、道具で力を底上げしたうえで惨めに敗北し地に顔をつけた悔しさも……全て心に刻んで強くなれ!」
(デウスったら熱くなっちゃって……兄たちに虐げられてきた自分とボロボロにやられたディスキを重ねてるのね)
クスッとフィリアが笑った。
「ディスキさん……それにあなたの父親の処刑は、あなたを守るために国王さまとあなたのお父さんが示し合わせたものですよ」
「……なんだと!?」
ディスキがティアのほうを向いた。
「そうですわよ。あなたの領地、プルース領では領主であるあなたの父親に対して反乱が起きるはずでしたの。
反乱が起きた場合……この国ではその領主含め一家は全員粛清と決められていますわ。
反乱の兆候を耳にした領主は国王である私の父に相談し、国王を介して反乱の中心人物と接触したのですわ。
そして反乱を取りやめるための条件を提示され、それをのみましたの」
その内容は……とルナが続ける。
「領主を処刑すること、ですわ。プルース領主は自分が処刑され死ぬ事で反乱は起こらなくなるという条件をのんだ。つまり、あなたの父親は自分の命であなたを含め家族を守ったのですわ」
「そ……そんな……父上……父さん……」
ディスキがまた涙を流す。しかしそれはさっきまでの涙とは違うものだった。
「反乱が起こりかけたことが知られるとプルース領の統治に支障が出るということで、国王さまは別件でプルース領主を処刑しました。あなたは国王さまに感謝こそすれ、恨むなどもってのほかですよ」
「僕は……一体何のために……うわあああぁぁぁ!!!」
ティアの最後の言葉にディスキは抑え込もうとしてきた感情が爆発した。
会場にディスキの泣き声が木霊する。悲しみと虚しさに愛が混じったその声は、晴れた青空に消えていった。




