第88話 それぞれの責務
「こ……ここは……?」
ディスキが目を覚ますと、白い天井が目に映った。そして自分はベッドに寝かされているとわかった。
「目が覚めたか」
「デウス……さま?」
「おいおい、急にさま付けかよ。変な奴だな」
ふっ……とデウスが笑う。ディスキは自分も笑っていい場面なのか迷い顔だけにやけさせた。
「ここは……病院ですか?」
「学院の医務室だ。……とはいってもお前の怪我はフィリアが回復魔法をかけたから治っているぞ。効果付き武具とかいうやつで血を抜かれたのはそのままだがそれはお前の自業自得だ。我慢しろ」
「はい……もちろんです。あんな騒ぎを起こしたのに……ありがとうございました」
「本当に。おかげで入学式が明日に延期になって大変なんだぞ? なぁ国王さま」
「……ったく、お前たちは親子そろって問題ばかり起こすのぉ……」
「国王さま!?」
ディスキは突然現れた国王に驚いて飛び起きたが、貧血でそのまま倒れてしまった。
「これ! 無理をするでない! お前はあの血塗られた腕輪を使ったのじゃろ?」
「はい……父が王宮から勝手に持ち去ったものでございます……」
「じゃろうのぉ。危険だから王宮で保管していたというのに……まぁ罪を問う奴は死んでおるからの。それについてはお咎めなしじゃ」
「そうですか……ありがとうございます」
ディスキがしゅんとしている。そんなディスキに国王が話しかけた。
「ディスキよ。お前はプルース領でわがまま放題に過ごしてきたらしいのぉ。平民を見下し、税を納めるだけの存在としか見ていなかった。そうじゃろ?」
「はい……もっと言うと、殺しても勝手に湧いてくる虫のようにしか思っていませんでした」
「……っ。正直じゃのぉ……。まぁよい。過去形なところをみると、今はそうではないのじゃろ?」
「そうですね……。デウスさんたちに惨めなまでの敗北を喫し、自分は弱いのだと思い知らされました。それはとても悔しくて、泣き出しそうで……実際に涙が止まりませんでした。
そして考えたのです。私は戦って負けて弱いのだと分かりました。しかし領民たちは領主の息子である私に対し、身分差から戦うことすらできずに私に虐げられていたのだと。それにもかかわらず、彼らは拳を握りしめながら泣くことなく懸命に生きていたのではないかと。
そうであるとすれば……彼らは身分は低くとも尊敬すべき人々であり、私は彼らにも圧倒的に負けているのだと」
ディスキは弱々しく、しかしはっきりと答えた。それは後悔であり、懺悔であり、そして今まで自分が虐げていた者たちへの尊敬の言葉であった。
「そうじゃの。民たちは立派な者たちじゃ。尊敬こそすれ、虐げるなどあってはならないことじゃ。王族に生まれるのも、貴族に生まれるのも、平民に生まれるのも……全てただの運じゃ。それを誇っても、貶してもならぬ」
しかしの……と国王が続ける。
「責務はそれぞれ違うものじゃ。王族は国を治め、守り、発展させていく責務が。平民は子を育て、働き、税を納め、自信と尊厳をもって生きていく責務が。そして貴族は……」
「……平民の暮らしを守り、国を繁栄させる責務……ですか」
「そうじゃ。今までのお前は、そしてお前の父親は平民の暮らしを劣悪にし、国に害を与えてきた。それが事実じゃ。じゃがそれが間違っていたと自ら理解したお前になら……貴族としての責務を果たせるような人間になれるのではないか?」
国王はまっすぐにディスキの目を見た。
「はい……。民や国を導いていけるような人間になっていくこと、そしてそのために学院でより多くのことを学んで生かしていくことを……このディスキ=プルースの名に誓います」
ディスキは国王の目をまっすぐに見返し答えた。その目には決意がこもっていた。
「よろしい。期待しておるぞ」
「はい。期待していてください」
心なしかディスキの頬が緩んだ気がした。
「デウス……先生。これからたくさん教えてください。よろしくお願いします……」
「あぁ。たくさんの人間を守り、そして導いていけるような人間に一緒になっていくぞ。お前には特別厳しくするがそれでいいな?」
「はい……でも死なない程度に頼みますよ」
デウスたちとの戦いにより今までの間違いに気づいたディスキは、復讐ではなく人を守り導くために強くなることを決意したのだった。




