第82話 幸せで幸運な日常
「お前……こんなことしていいと思ってんのか!?」
金髪の男は一生懸命に吠えている。
「じゃあ逆に聞くが、店員に横柄な態度をとったり種族が違うからと暴言を吐いたりつまみ出させようとしたりするのはいいのか?」
「いいに決まってるだろ! 平民は貴族の言うことを聞いていればいいんだよ!!」
「ほぅ? 身分が下の者は上の者に従っていればいいと、そういうことか?」
「あぁ、わかったらさっさと謝れや!!」
「そうか、わかった。俺は公爵なんだよ。だからお前が今すぐ謝れ。出来なければ今すぐ殺す」
「……は?」
男は固まってしまった。頭のなかで状況を整理しているのだろうか。
「そんなはずねぇ!! お前なんかが公爵なはずが……俺より身分が上のはずがないだろ……!」
「これを見たら認めるか?」
デウスはルナの暗殺未遂事件を調べるように王命を受けた際に国王に渡された、王家の文様のついた金属板を見せた。
「これは……王族の……」
「わかったか?自分が今何をしているのか。お前の理論では身分が下の者は上の者に従うのだったな」
「ひぃ……お……お許しください…」
「さっさと消えろ。そうしたら無かったことにしてやる」
「はい! はいっ……!」
男は足早に店を出ていった。握られた拳に込められた悔しさが他人に向かないことをデウスは願った。
「デウスさま……」
席に戻ってきたデウスにフェリスが申し訳なさそうに声をかけた。
「私がいるせいで面倒ごとになってしまい……大変申し訳ございません……」
フェリスの猫耳が下にさがっている。落ち込んでいるのだろう。
「どうして謝るんだ? 大事な人がバカにされたら普通怒るだろ?」
「大事な人……」
デウスにとっては当たり前の言葉だったが、フェリスには甘すぎる響きだったのだろうか。フェリスは顔を赤らめうつむいてしまった。
「むーっ……デウスの女たらし……」
「嫁や恋人を作るなら正妻になる私に相談してくださいまし!!」
「よめ……こいっ……」
ルナの言葉で余計フェリスが照れまくってしまった。もふもふな耳もきっと赤くなっているだろう。
「お前たち、変な話しないでそろそろ行くぞ!!」
デウスたちは一悶着あった洋食屋をあとにしてフォールテム学院に向かった。
「それにしても変だよね〜」
「何がだ?」
「だってこの前の褒賞式、魔法で映像として全国民が見ていたはずでしょ?どうしてさっきの奴といいデウスのクズ兄たちといい私たちのこと知らないのかなぁ?」
「確かに、それもそうだな」
「きっと貴族のプライドですわ。自分以外の人が褒められたのが気に入らないのですわきっと。だから見てないのだと思いますわ」
「貴族とはつまらないものですね」
「僕たちはそんなつまらない貴族にならないように気をつけないとな」
「そうですわね。デウスはいずれ国王になるからなおさらですわよ!」
「ルナ、気が早いんだよっ!」
「叩かないでくださいましっ!!」
話をしているうちに嫌な気分は薄れ、和やかな空気になっていった。
(ほんっと、みんなおかしいですこと!ふふっ)
全員がそれぞれを受け入れ、認め、大切に思っている。ルナはそんな今の日常がとても幸せで幸運なことなのだと感じた。
「合格者はそのまま第二演習場に移動してください! そこで学科ごとに分かれて待機しておくように!!」
フォールテム学院に着いた頃、合格発表の結果に喜ぶものと悲しみの顔をみせるものがいた。
そこに貴族や平民は関係ない。……はずだ。裏口が開きっぱなしでないことを祈る。
「僕たちも行こうか」
「そうだね!」
デウスたちも合格者の前で臨時教師として自己紹介があるため、第二演習場に向かった。
……そこには先ほどの金髪の男がいた。
「まじか……新入生だったか……」
非常にめんどくさいことになったと思うデウスだった。




