第81話 絶対絡まれる洋食屋
「これで最後だな。よいしょっと!」
「おーーわったぁ! 疲れたぁ!!!」
「ったくフィリアはだらしないですわね。家具は全部そろっていたから重たいのは何もなかったですのに……」
「疲れたもんは疲れたのーっ!!」
「まぁまぁ、とりあえず皆さんお疲れさまでした」
引っ越しの話を聞かされた翌日、デウスたちは新居に引っ越した。
とはいうものの……
「なぁ、なんで王宮のすぐ目の前なんだ?」
「うーん……デウスが公爵さまだから近くにってことじゃないの?」
「いえ……おそらく親バカのお父さまのたくらみですわ……」
「確かに。フィリアのお父さんも親バカだったしなぁ」
「思い出させないでよっ!!」
「皆さんはいいですね……親に愛されていて……」
会話を聞いていたフェリスが落ち込む。
親がうざいと笑って愚痴られるのは親に愛されているからこそ。親に愛されず捨てられたフェリスにとっては親の愚痴を言えることすら羨ましく思えたのだろう。
配慮が足りなかったとデウスは反省した。
「と……とりあえずお腹すかない?? ちょっと早いけど、正午の合格発表の前にご飯食べようよ!」
「いいですわね! そうしましょう!」
「あぁ、午後から入学説明会に参加しないといけないからな」
「あの……この前の洋食屋がいいです……」
普段から自分の意見をあまり言わないフェリスが行きたいところを自分から言った。よほどおいしかったのだろう。なにはともあれ、自分の意見を言えるようになったのはいい傾向だ。
「よし、それじゃあ行くか!」
「「「はーい!」」」
「うーん! やっぱおいしいね!!」
「ああ、そうだな」
相変わらずこの店はうまい。自然とみんな口数が少なくなって本気で食べている。
カランカラン……
「いらっしゃい!」
店主が声をかけたが、入ってきた男はそれを無視し奥のほうに進んでいった。
「お客さま! 1名様でよろしいでしょうか?」
「見たらわかんだろうが平民風情が! 俺様に気安く話しかけんな!!」
短い金髪の男が怒鳴り散らす。あぁ、ウーヌスやデュオみたいなやつはどこにでもいるのかとデウスは落胆した。
「なんかあの人感じ悪ーい……」
「ご飯もおいしくなくなりますわ……」
「そうですか?お肉の味は変わりませんよ?」
……もしかしたらフェリスはフィリアよりも食いしん坊なのかもしれない。
「なんかここに来るとなぜか面倒な奴と会うな……。まぁめんどくさそうだから関わらないで食べたらすぐにで……」
「おいこのくそ店主!! なんで店の中に獣人がいるんだよ! くせぇだろうが!!!」
男の暴言に店の空気が変わった。さすがのフェリスも口に運ぼうとしていた肉をそのまま鉄板に戻した。
「お客さん、ここは種族関係なくおいしいものを食べて頂いてますので……」
「っるせぇな!! 口ごたえしてねぇでさっさとあいつをつまみ出せよ」
「おいお前……」
「あん?」
しびれを切らしたデウスが男のほうに歩いていく。その身体からは霊力が溢れている。
(あーぁ……デウスが怒っちゃった……)
(当然ですわ、フェリスが馬鹿にされたんですもの。デウスの許可が出たら私も参戦しますわよ)
(でも面倒だから関わらないって言っていたのに……私のせいで……)
なんだか後ろからひそひそ話が聞こえていた気がしたが、デウスはそれを気にせずに男の前まで歩いた。
「なんだガキが! 平民が俺様の前に来るとは大した度胸だな。靴でも舐めに来たのか?」
「お前、『平民』って言葉が好きなのか? つまり自分が貴族ってこと以外では他人には勝てないから、身分だけでも勝てるようにとわざわざ強調しているんだな?」
「なんだと!? ……言わせておけば…!! 後悔して死ねや!! 燃え盛る命たる炎の……」
「霧散しろ」
パリン……
「なっ!? 何をした!?」
「そんなことはどうでもいいだろ。話の途中に魔法を使おうとする貴族がいるなんてな。世も末だ」
絶対的なプライドと圧倒的な力のぶつかりは、もちろん圧倒的な力が勝利する。
プライドなどなんの力にもならないというのに……デウスは男が少し可哀想に思えてきた。




