第65話 神懸り 火之迦具土神
「かけまくも畏き 炎の支配者たる火之迦具土神
主よ 我は主の分霊たりて主に仕えしものなり
我願う 為す術なき無力な我が身に 主の力を分け与えたまえ
母をも殺す その罪火を……」
悪魔たちを睨みつけながら祝詞を捧げるデウス。その背に映るのは……燃え盛る炎を纏った男神の姿。
「神懸り 火之迦具土神
権能 罪火の葬送」
男神の燃え盛る炎はデウスの霊力と混ざるようにうねり、白みがかったその炎は悪魔たちへ向けられた。
炎は全てを焼き尽くしながら悪魔たちを飲み込む。そしてそのままその炎は天へと繋がって行った。
それはまるで……天へと続くレッドカーペットのようだった。
悪魔たちが天へと召される炎に、誰もが見とれた。死闘を繰り広げたデウス、フィリア、ルナ、フェリス。王宮や王都から逃げる人々。そして……罪を重ね続けた王妃インウィディアにも。
「終わったのね……」
「なんとか……生きてますわ」
「皆さんご無事で何よりです……」
「そうだな……ゲボっ!! ……っあぁ」
悪魔たちは消えた。悪魔たちとの決戦はデウスたちが勝利した。
その代償は……小さくない。
「お父さま! お父さま!!!」
ルナが国王の亡骸に駆け寄り、泣きながら揺さぶる。
悪魔たちに勝利した今、ルナの感情を抑制するものは無くなった。
大好きな父親。大切な人が亡くなったという悲しみの感情に、王族も平民も関係ない。ルナは涙も声も枯れるほど泣き続けた。
デウスたちはそんなルナをただ見守るしかなかった。ましてや、国王を手にかけたデウスには何も言う権利はなかった。
「……フォルトゥナ」
「……?」
ルナに声をかけた人物。それは……王妃インウィディアだった。
そこにいる全員が最後の力を振り絞り構える。
「大丈夫よ。もうあなた達と戦う意思は無いわ」
「信じられるか。お前のせいでみんな死にかけた。そして……皆を護るために、国王さまが命をかけてくださったのだぞ」
「わかっておりますわ。しかし……あなたには人を蘇生する神の力があるのでしょう?」
「……無くはないが、今の僕には無理だ。霊力が無さすぎる」
「心配ありません。生き物を殺せば力が戻るのでしょう?」
「……なぜそのことを?」
「ウェスティーギウムから報告があったのよ。精霊術士と思われるが、何故か生き物を殺すことで力が回復するようだ、とね」
ウェスティーギウム。諜報員《手がかり》のネームド。おそらく最初の薬草採集の依頼でフィリアと一緒に霊力を回復していたところを見られていたのだろう。さすがネームレスのネームド……だった。
「しかしな。あいにくここには生き物がいない。急がないと、亡くなって時間が経つともしかしたら蘇生出来なくなるかもしれないんだよ」
「それは大丈夫よ。私を殺しなさい。そして国王レックスを蘇生しなさい」
王妃から衝撃の返事が返ってきた。誰もが驚きを隠せずにいた。フィリアに関しては、口があいたまま閉まりきらないようだった。
「でも……少し待ってほしいの。フォルトゥナと少しだけ、話をさせてちょうだい」
「……危害は加えないんだな?」
「もちろんよ」
王妃がルナに歩み寄る。デウスたちは警戒はしつつも、その様子を見守ることにした。




