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第57話 王妃インウィディア(2)


「おめでとうございます。マーテル王妃。お生まれになった王女さまも《幸運》の加護を授かっているようですね」

「ありがとうインウィディアさん。お見舞いに来てくれてありがとう」

「とんでもないです! 側室として、正妃であるマーテルさまのご出産に立ち会えなかったことが悔やまれます……」

「いいのよインウィディアさん、こうして来てくれただけでもありがたいわ!」


インウィディアは強い殺意を持っていた。

(どうして、生まれた子にまで加護がかかっているの……?)


「こちら、東方の国より取り寄せたお茶でございます。今入れてきますね」

「ありがとう、でもそれは侍女にやらせてあなたは私のそばにいてくれないかしら?」

「いいえ。私の気持ちをこめたいので、自分で入れさせてください」

「そう……わかったわ。お願いね!」


インウィディアはお茶を入れに行った。お茶に致死量の毒を混ぜて……


「どうぞ、マーテルさま」

「ありがとう。いただくわ」

マーテルがお茶を口につけようとする。その一連の動作をインウィディアは目で追った。


「インウィディアさん……。ごめんね。でも娘に罪は無いから……あの子を、フォルトゥナをよろしくね」

「えっ……?」

マーテルはそう言い残すと、お茶をゴクリと飲み干した。


「ゲホッ、ゲホッ……っ!! うぅ……あぁ……」

マーテルは毒に苦しみ、しかしその苦悶の顔は数秒で終わった。マーテルは死んだ。


「マーテル……あなた毒が入ってるってわかってて……」

インウィディアは泣いた。憎くて、殺したくてたまらなかったマーテルを殺したのに。

(……私が後悔してるっていうの!? 違う、ありえないわ!!)



このマーテル毒殺事件はお茶を生産した農民が首謀者として村ごと焼き払われ、全国民が悲しみに暮れる中、インウィディアを正妃として幕をおろした。

結果としてインウィディアはソキウスとマーテル、2人の命の後悔を背負った王妃として君臨することとなった。





「お前がいなければ……お前がいなければ私はマーテルを殺さずに済んだ!! お前が生まれてこなければ!!」

「それは……ただの八つ当たりでしょう……。私の母を殺したのは……紛れもないあなたなのでしょう……?」


インウィディアもわかっていた。これがただの八つ当たりなのだと。

しかし人のせいにしなければやっていけなかった。

インウィディアの背中に…2人分の命は重すぎたのだ。


「……でもね、私は本当のお母さんを知らない。私のお母さんは……王妃さま、あなただけなのですわ」

「……っ」

ルナが痛みにこらえながら訴えた。

その訴えはインウィディアの……心をえぐった。


「違う!! 私はあんたなんかの母親じゃない! あんな女の子どもなんか1度も愛したことなんてない! ……さっさと死になさい!!」

激高した王妃インウィディアは自分の椅子をルナに投げつけた。


ブォン……


ルナの周りに光の障壁が展開され、投げつけられた椅子からルナを護る。


「今のは……幸運の加護……?」

「えぇ、そうみたいですわ。一定の確率で攻撃を無効化する。幸運の加護の能力の一つみたいですわ」

「加護……加護加護加護っ! いい加減にしなさい!! ネームレス!!!」

王妃は姿を隠し控えていたネームレスを呼び出し、剣を奪い引き抜いた。


「いいわ、マーテルと違ってあなたは首を切り落として一瞬で殺してあげるわ」

「そう……苦しまないように一瞬で? やっぱり優しいね、お母さん……」

「……っ。あんたたち母娘(おやこ)は本当に……本当に腹が立つ! 死になさい!!」


振り下ろした剣は首を切り、ルナの鮮血が飛び散った。

王妃の迷いから切断はされなかったものの、片方の頸動脈は完全に切れていた。


カラン……


王妃は脱力し剣を落とした。これで…全て終わったのだ。背負っていたものが、全て……




「ルナ!!!」

血溜まりの部屋に、1人の少年の声が響いた。


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