第56話 王妃インウィディア(1)
(……そうよ、何もかもあいつが悪いのよ……!)
王妃であるインウィディア。実は王妃にはなれなかったはずだった。
インペィルム公爵家の長女であるインウィディア。
インウィディアはその美しさと公爵家という権力から、早くより現在の国王、レックス=ウィンクルムが王子だったときに婚約することとなった。
それは周りのものからは羨望の目で見られた。しかし、インウィディアにとってはそうではなかった。
インウィディアには同じ公爵家の人間に想い人がいた。地位的にもこの人と結ばれるのだろうとそう思い疑わなかった。
しかし、ある日突然親に告げられた。お前は王子さまに嫁ぐ、将来の王妃になるのだと。
当然インウィディアは反対した。王妃になる重圧より、想い人に一生添い遂げたいと。しかし親には聞きいられなかった。
そして正式に婚約式が行われてしまった。別れも何も言い出せないまま。別れたくなどなかった。
そして……会いに行った。
「ソキウス!」
「お前……インウィディアか! 今さら何しに来た!! 俺に内緒で王子なんかと婚約しやがって!!」
「ソキウス、違うの!! 私は……」
「うるさい帰れ! 二度とその顔を見せるな!!」
「そんな……話だけでも聞いて…よ…うぅ……」
想い人のソキウスと会った瞬間、そこは修羅場だった。大好きな人に拒絶された絶望を感じた。
そしてそんなインウィディアに追い打ちがかかる。
(おい、あれ次期王妃インウィディアさまじゃないか?)
(ほんとね! 何だか泣いてらっしゃるようだけど……あの横の男の人は誰かしら?)
(王子さまじゃ……無さそうよね?)
(まさか、婚約した女性が他の男と2人きりなんて……)
噂はたちまち広がった。王子と婚約した女が他の男と密会していた。
そんな噂は、もちろんあってはならないことだ。どうにか収束しなければならない。
そして、王家や重役はひとつの結論に至った。
「ここにいるソキウスはインウィディアさまが王子さまの婚約者であると知りながら交際を詰め寄った。この行動は万死に値する。よって、この場で処刑とする!!」
捕らえられたソキウスに無慈悲な判決が下った。
ソキウスにとってはたまったものではない。処刑を言い渡された場にいたインウィディアをこれでもかと罵った。
結果として世論は罵倒されたインウィディアが可哀想ということとなり、ソキウスは濡れ衣を着せられた上に名誉の欠片すら残さず非業の死を遂げた。
(私のせいで……ソキウスが死んだ……)
インウィディアはこの事実から目を背けなかった。そして、王子の婚約者である事からも目を背けることなく、次期王妃に相応しいと思われるように努力した。
それがソキウスに対する贖罪だと。そう信じて。
当時の国王が王子に譲位し、正式にインウィディアが王妃として婚姻するというころ、障害が発生した。
平民出身の女が突如王妃候補として名前が上がったのだ。
その女の名前はマーテル。創世神ファリアより《母》の加護を受けた美しい女性だった。
(平民のくせに……)
インウィディアには受け入れ難いことだった。もう少しで王妃に。もう少しで贖罪が完了するはずだったのに……
そしてインウィディアに衝撃の事実が告げられた。
「マーテルさまが王子レックスさまのお子を懐妊したらしい。よって王妃はマーテルさまになるぞ」
平民であることに多少の反発はあったものの、創世神の加護、それも《母》の加護であることから、国の母になるべき人だとの民衆の声を汲んだ結果だという。
(マーテル……許さない。お前を絶対……)
そしてインウィディアはひとつの計画を練る。
(マーテル、お前が子どもを産んだ一番幸せな瞬間に殺してやる)
全ての者に対する憎悪は恐ろしい結論を導いた。




