第98話 奥義・夢幻泡影
すっ……とステラは右手で剣柄を握った。会場は静寂に包まれている。太陽が雲に隠れたその時だった。
キン……
ステラが鯉口を切る音が聞こえた。その音がデウスたちに聞こえるころにはすでに縮地でティアの背後をとっていた。
「抜刀術 神速!!」
ステラは剣を抜いた。斬りつけたその場所にティアはおらず、空を切る音だけが響いた。
「……っ!」
ステラは殺気を感じて本能でかがんだ。頭上をティアの剣がかすめる。
ステラは消えるように縮地で距離をとった。……が、ティアは距離をとったはずのステラの背後をとっていた。
すっ……と首に風を感じたステラ。ステラの首元の皮は少し切れており、血が垂れていた。
「……っ」
ステラは唇を噛みしめて納刀した。
「秘技 影移動」
ステラは自分の影に吸い込まれるように消えた。
「影移動……神妖刀の継承者だけに伝わる剣技ね……」
ティアは最大限に警戒を強めた。
影移動は、存在するすべての影に瞬時に移動できる秘伝の技である。この会場にはティアだけでなく、多くの死体の影がある。つまり……この会場のほぼすべてがステラの剣の領域である。
「奥義 夢幻泡影」
キーーンと剣と刀がぶつかる金属音が鳴り響く。その音は数秒にも続いた。
何秒にも渡り鳴り響く金属音。それはステラの一撃をティアが受け止めた音ではない。ステラによって四方八方から襲いかかる目にもとまらぬ速さの斬撃を、ティアが全て受け続けている音である。
(夢幻泡影まで使えるとは……まずい、持ちこたえきれない……)
ティアは焦った。ステラの奥義・夢幻泡影は、神妖刀・無影の継承者だけが使用することができる最上級の攻撃であることを知っていたからだ。
剣姫のティアですら焦りを覚える程の剣撃。夢幻泡影は、戦いの場に影が多くあるか、もしくは影しかない夜に真価を発揮する。
その奥義の恐ろしいところは、影移動で影を移動しつつ圧倒的スピードで斬り付けまた次の影に移動しまた斬りつける、という攻撃方法にある。
それにより、敵はどこからどう斬られたのか視界に捉えることすらできずに息絶えると言われている。それはもはや「実体のない斬撃」に等しい。
(どうして.....夢幻泡影が受け続けられているの……)
ステラは動揺した。無影を使っていないとはいえ、奥義を使っても届かない剣姫ティア。実力の差を思い知らされていた。
「こっ……のおおぉぉぉ!!!!」
ステラの気合いの入った声が響く。刀と剣がぶつかり合う金属音はより激しい音になっていった。
「剣技 血風乱舞」
ティアはステラの刀を攻撃を無効化する右手の剣で受け続けていたが、加えて左手の剣で同時に反撃を始めた。
金属音の音が変わる。刀と剣がぶつかり合う音ではなく、擦れるような音に。
それはティアがステラの刀を受けるのではなく、受け流すようにいなす動きに変えたからに他ならなかった。
これにより、ステラの強力な連続の斬撃を右手のみで防ぎきり、左手での反撃を可能とした。そして……
「ぐうぅ……」
ステラは腹部を斬られ苦痛の声を上げティアと距離をとった。
刀を地面に刺し寄りかかるように立っている。体力的にも負傷の度合い的にも、限界が近いのだろう。
「ステラ。よく鍛錬しているのだろう。いい戦いだった。褒美にいいものを見せて終わらせてあげよう」
「……っ」
ティアから殺気を感じたステラは最後の力で影に溶け込み隠れた。
ティアは右手の剣を鞘に納め、左手の剣に付与魔法を施す。
「付与魔法 時空間」
ティアは時空間魔法を施した。すると左手の剣は消えてしまった。
しかしティアの左手は剣を握っているかのように空洞をあけて握りしめられていた。恐らく消えているように見えているだけなのだろう。
観客がゴクリ……と唾を飲んだ次の瞬間だった。
「きゃあああ!!!!」
ステラの悲鳴が会場に響いた。ステラが影から実体を現した時、ステラは血だらけで横たわっていた。
「くっ……そんな……影にいたのに……どうして……?」
ティアと賢者レガティス以外は、今起こった現象が何なのか分からずただただ混乱していた。




