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第三話 最後に、一度行きたい
紗季は春に町を離れた。
最初は旅先の写真が届いた。駅の売店、妙な形のパン、稽古場の高い天井。
やがて便りは減った。
忙しいのだろうと思った。
忙しいのだろうと思うために、修一は何度も同じ便りを読んだ。
閉館が決まって連絡すると、電話がかかってきた。
「最後に、一度行きたいです」
修一は窓枠のことを話した。彼女が初めて立った芝居で、そこから朝の光を入れた。欲しければ取っておくと言った。
受話器の向こうで、少し間があいた。
「その前に、話しておかなきゃいけないことがあって」
一緒に暮らしている人がいる、と紗季は言った。
修一は作業台の木屑を手で払った。
床へ落ちる音はしなかった。
「そうか」
紗季は、劇場で過ごした時間を大切に思っていると言った。修一に会いたいとも言った。
彼はその言葉を聞きながら、作業台の端に残った一本の木屑を見ていた。
「少し、考えさせてくれるか」
電話を切ってから、窓枠を裏返した。
金具を外そうとしたが、ねじ山が潰れかけていた。
工具を戻した。




