第96話:【幸福】浴室の上書き
ゆっくりと、慎重に。僕の熱が、彼女の聖域へと沈み込んでいく。
「あ……っ、あ……あぁっ……!!」
結合部から伝わる、凄まじいまでの圧倒的な密着度。
「凛、あまり力入れないで……」
僕のすべてを包み込み、逃がさないとばかりに吸い付く、彼女の熱い内側。
「……全部、入った」
彼女の顔を覗き込み重いキスを落とした。
「ん……っ、あ……。……巧くん……の……すごく……熱い……です……」
「痛くない?」
「ちょっと……痛いです」
「……少しずつ、動くよ。力を抜いて。……君の全部を、僕に馴染ませて」
最初の一歩を踏み出す。結合したまま、空いた方の指を先ほどの「一点」へと伸ばした。
「あ……っ、や……、そこ……また……っ!!」
凛の体が、弓なりに大きく反り返る。
指先では逃げ場を塞ぎ、より強く擦り上げる。
「あぁ……っ、ああぁぁぁぁ……っ!!」
指先の刺激と、奥を抉るような腰の動き。
二重の波状攻撃に、凛は激しくのけぞった。
「……もう少し、動くよ。凛、顔見せて」
顎を掬い上げ、情欲に染まった彼女の顔を強引にこちらに向けさせる。
「あ……っ、巧……くん……。……もう、よくわかりません……」
「わからないなら、身体に覚えさせるよ」
最奥を抉るように一気に、容赦なく最奥の壁へと、熱を打ち付けた。
「やぁ……っ! あああぁぁぁ……っ!!」
未踏の領域を抉られた衝撃に、彼女の身体が激しく反り返る。僕はその絶叫をすべて飲み込むように唇を塞いだ。
もはや境界線が溶けて消えていく。
「……はぁ、もう……僕も、いく」
「あ……っ、巧……くん……っ! くる……っ、また……きちゃう……っ!!」
最後の一撃を、最も柔らかい壁へと叩きつけた。
「あ……あぁぁぁぁぁっ!!」
抑えきれない熱い奔流が、彼女の奥底へと溢れ出していく。
波打つような彼女の収縮が、吐き出されたばかりの僕の熱を執拗に絞り上げる。
「はぁ……っ、は……。……凛…………愛してる」
僕は力なく崩れ落ちるように彼女を抱きしめ、汗で濡れた肩口に深く顔を埋めた。
◇
「……凛? シャワー、浴びない?」
多幸感の中で凛を揺らすと、ようやく「むぅ……」と小さく唸り声が上がった。
「……なんだか、意地悪でした!」
「え……っ!? 僕が?」
「…………恥ずかしいことばっかり言うし、色々聞かないでほしかったですぅ」
苦笑交じりに乱れた唇を指先でなぞり、吸い付くようなキスを贈った。
「ごめん。でもあまりに可愛いかったから……そんな顔されたら、シャワーに連れて行くどころか、もう一回、承認を取り直さなきゃいけなくなるよ?」
「きゃあ……っ!!」
汗ばみ、妖艶な光沢を放つ体を抱きかかえ、僕は浴室への扉を開く。
「ふふ。……洗ってあげる」
「むぅ!……絶対に、また、やらしいことしますぅ!!」
腕の中で、凛の鼓動が、また一段と速まっているのが伝わってきた。
「……しないよ。それとも……してほしいの?」
腕の中の凛を覗き込むようにして、わざと低い声で問いかける。
すると、顔が見る見るうちに熟れた林檎のように赤く染まり、耳たぶまで熱を帯びていくのが分かった。
「……図星??」
確信を持って畳みかけると、僕の胸元に顔を埋めるようにして、情けない声を上げた。
「ひぃん!……ち、違いますぅ……っ!!」
ジタバタと暴れる凛を、僕は逃がさないように力を込めて抱きしめる。
否定すればするほど、密着した肌から伝わってくる鼓動の速さが、凛の本心を雄弁に語っていた。
「嘘だね。凛の身体は、さっきから僕に『もっと』って言ってるみたいだよ?」
「い、言……ってないです……っ。巧くんの……いじわるな、エッチな耳のせいです……っ!」
必死に抗議しながらも、僕の首に回された腕には、微かな期待がこもっている。
潤んだ瞳を見つめ、熱い吐息をその耳朶に吹きかけた。
「ふふ。じゃあ、その『いじわるな耳』が間違っていないか……、もう一度、シャワーを浴びながら検証してみようか」
「あ……っ、ん……っ。……はぅ……っ」
再び溶け出すような甘い溜息が、浴室に反響する。
否定の言葉とは裏腹に、彼女の身体は、僕の次の「上書き」を待つように、熱く、しなやかに震えていた。




