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ハイスペ佐藤くん、この恋だけはポンコツです〜五月雨式に失礼いたします〜  作者: もふおのしっぽ
第一章

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第79話:【聖地】多摩川を越えて、22世紀へ

 ホテルでキャリーケースを自宅へ送り出し、僕たちは駅へと向かった。



 丸ブチ眼鏡越しに、路線図をスキャンする。

目的地は「東京都内」ではなく、多摩川の向こう側だ。



「……さて、行こうか。君の熱烈なリクエスト、当初の予定通りの場所へ」



「はいっ! 巧くん、チケットの予約本当にありがとうございました! 私、昨日の夜からワクワクしてて……!」


 僕の顔をじーっと見る凛。

 その視線は、僕の鼻筋に乗った「丸ブチメガネ」に釘付けだ。



「巧くん、その眼鏡……やっぱり最高に似合ってます! ちょっと抜けてる感じがして、22世紀のあの主人公そのものですよ!」



「……褒め言葉として処理していいのかな、それ。僕のIQが30くらい低く見積もられてないか?」



「でもコスプレまでしてくれて、本当は私よりも楽しみだったんですね」


「……これはコスプレじゃない。ただの応急措置だよ」



 眼鏡の縁をクイッと押し上げる。


 その仕草すら「あ、今のポーズ、テストで0点取った時みたい!」とはしゃがれ、軽く凛のほっぺをつねった。




 千代田線から小田急線への乗り換え。



 車内は休日を楽しむ家族連れやカップルで賑わっている。僕は吊り革を掴み、人混みに押されそうになる凛を、自分の体でさりげなくガード(物理的ディフェンス)した。



「……また神奈川へ戻るのか。昨日はギリギリ東京だったが、結局は川崎か」



「いいじゃないですか! これが私たちの旅行の正解なんです!」



 揺れる車内で、僕の腕をぎゅっと掴みながら無邪気に拳を握る凛。



 今回の旅行、表向きのタイトルは『東京・南青山 豪華お誕生日ツアー』だったはずだが、実績ベースでは『ほぼ神奈川周遊旅行』として決算されることになった。


(でもこの判断で間違ってなかったな……、ずっと楽しそうだ)


 車窓を流れる多摩川を眺めながら、「どら焼きあるかな!?」とはしゃぐ凛の姿は、もはや旅の行き先など些細な問題だと思わせてくれる。



「……よし。行こう、凛さん。便利なドアはないけど、この急行電車が君の夢まで運んでくれる」


「……」


「黙らないで。真顔にならないで。今のセリフ、かなり完成度高かったはずなんだけど」



 僕たちは再び、多摩川を越える。



 二人の「お誕生日旅行」は、懐かしくて愛おしいあの「聖地」へと加速していった。



 * * *




 小田急線・登戸駅に降り立った瞬間、僕たちの視界は「22世紀から来た青い猫型ロボット」の色に染まった。



 エレベーターからゴミ箱にいたるまで、徹底された特定のコンテンツ仕様。



凛は子供のように瞳を輝かせ、スマホのシャッターを押す手が止まらない。



「巧くん! 見てください、ここもあそこも例のユニットですよ! わあぁ……っ!」



「……落ち着いて。ここはまだ駅だよ。アーカイブ施設はこれからだ」



 興奮で足元がおぼつかない彼女の肩をそっと支える。



 その時。

 凛の視線が、壁面に描かれた「あるキャラクター」でピタリと止まった。



 ツンと鋭利に尖った三又の髪型に、自信満々な表情。フランス料理を自慢し、自家用ヨットを所有する、あのお金持ちの少年――。


「…………あっ! 巧ちゃまだ!」


「……は?」


 僕は耳を疑った。


 今、彼女は僕のことを「あの御曹司の少年」と同一視した。


(いや、前からその素振りはあったけどヤッパリその認識なのか……)


「見てください巧くん! 髪型は違いますけど、この『お金持ちで、なんでも持ってて、ちょっと自慢げな感じ』……まさに、巧ちゃまじゃないですか!」



「……僕をあんな、地元のガキ大将の顔色を伺うようなポジション(バイプレーヤー)と一緒にしないでよ。僕ならあの乱暴なガキ大将のリサイタルは、ロジカルに中止へ追い込む」



 * * *



 そして到着したミュージアム。


展示を見学し、屋上スペースに出たところで、凛が「きこりの泉」の前で足を止めた。



「巧くん! これです、これ! これが見たかったんです!」



 凛は子供のようにハシャぎながら、鉄製のレバーを全力でガシャンガシャンと往復させた。



 水面が揺れ、ゆっくりと「彼」が姿を現す。



 本来は乱暴なガキ大将のはずが、どこか清らかな瞳と、整いすぎた顔立ちで現れる――通称『きれいなガキ大将』。


「ふふ……あははは! 巧くん、見てください! この顔! 絶妙に腹立たしくて……あははっ!」


「……公共の場で、そこまで爆笑するのは」


 僕は冷静にたしなめる。


 だが、凛の笑いは止まらない。


 彼女は「きれいな彼」と僕の顔を、交互に何度も見比べ始めた。


「だって……これ! まさに『きれいな巧くん』と『デフォルトの巧くん』じゃないですか!」


「……は?」


 凛は、泉から出てきた美男子の涼しげな顔を指差し、涙目になりながら爆笑を続ける。



「この泉から出てきた方は、きっと『あぁ、凛さん。それはロジックが……』とか言い出す、超ハイスペックな『きれいな巧くん』なんです! あはは、想像しただけでお腹痛い!」



「…………腹立つな」



 僕は、自分の『デフォルト設定』が彼女の中で『きれい(純粋)』に分類されていない事実に、深い苛立ちを抱えた。



「……よし、凛さん。満足したな。次に行くよ。これ以上ここにいると、僕が本気の『ロジック』で君を叩きのめしたくなるリスクがある」



「えっ!? 巧くん、待ってください! 最後に動画撮らせて……あはは! 本当に似てる! 特にこの、自信満々な口元が……っ!あはは、ぶふふ、お腹痛い!」



 僕は彼女の首根っこを、小動物を捕獲するように優しく(かつ迅速に)掴み、その場を後にした。



 お誕生日旅行、最終日の午後。



 僕は「きれいな自分」という架空のライバルに、敗北感を感じながら、川崎の空を後にした。

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