第八話:沈黙する薔薇と、公爵家の憂鬱
数日後。クォーツィン公爵邸。
公爵邸は暗く静まり返っていた。
いつもは明るく、裏では剣の素振りを欠かさないロザリンドが、自室に閉じこもっているのだ。
「……お父様、お母様。申し訳ありません。全てお話しします」
事件当日、帰宅した彼女は、両親に「暗殺者を撃退するために本性を晒したこと」、そして「ルーファス殿下に怪我をさせてしまったこと」を告白した。
「婚約破棄になるでしょう。王族に怪我を負わせ、あまつさえ猫を被って欺いていたのですから」
ロザリンドの瞳からは光が消えていた。消沈する娘に公爵は、今回ばかりは胃痛を訴えることもなく、ただ娘を抱きしめた。
「……お前が生きていてよかった。殿下をお守りしたのだ、お前は立派だ。どんな処分が下ろうと、父さんと母さんがお前を守るから」
父公爵の腕の中で静かに涙を流すロザリンドはその日からずっと部屋にこもりきりになってしまった。
しかし、その日から待てど暮らせど王宮からの「婚約破棄」の通達は来ることはなかった。
さすがに、この生殺しの状態に耐えかねた公爵が、「私自ら王宮へ出向き、謝罪と婚約解消の申し入れをしてくる!」と決意し、馬車を用意させた、その時だった。
「だ、旦那様! 大変です! お、王宮から……!」
使用人が血相を掛けて駆け込んできた。
「ついに来たのか!?」
「婚約破棄」の通達がとうとう来たのかと、息を呑む公爵に、しかし、返ってきた答えは全くの想定外なものだった。
「いいえ、使いなどではありません! だ、第二王子殿下ご本人が、到着されました!」
「な、なんだってー!?」
またも度肝を抜かれる公爵であった。




