第七話:薔薇の騎士、覚醒
1.薔薇の騎士、覚醒
ある日のデートの帰り道。二人が乗った馬車が、人通りのない森の街道で襲撃を受けた。 黒衣を纏ったプロの暗殺集団だ。
「ロザリンド嬢、僕の後ろへ!」
ルーファスは瞬時に剣を抜き、馬車から彼女を降ろして背に庇った。 彼の剣技は王国最強の名に恥じない凄まじさだった。襲いかかる刃を最小限の動きで弾き、次々と敵を無力化していく。
しかし、敵の数は多く、連携も巧みだった。 一人の敵が、死角からロザリンドを狙って毒矢を放った。
「くっ!」
ルーファスは彼女を庇い、その矢を左肩に受けた。毒が即座に回り、彼の動きが鈍る。その隙を突かれ、別の敵の剣が彼の脇腹を浅く切り裂いた。
「殿下ッ!!」
ルーファスが膝をつく。視界が霞む。
「逃げろ……ロザリンド……君だけでも……」
絶体絶命の窮地。暗殺者たちが、勝利を確信して薄汚い笑みを浮かべ、二人に近づく。
「へへっ、第二王子も、女連れじゃ形無しだな」
その瞬間。 震えていたはずのロザリンドの雰囲気が、一変した。
彼女は、邪魔なドレスのスカートを、バッと両手でたくし上げた。 露わになった白い太ももには、革製のホルスターと、特注の折りたたみ式細剣が装着されていた。
シャキィン!
乾いた金属音と共に、彼女の手に握られた細剣が鋭く展開する。
「……形無し、ですって?」
彼女はルーファスの前に立ちはだかり、切っ先を敵に向けた。その瞳は、もはや「仔ウサギ」のものではない。獲物を狩る薔薇の捕食者の目だった。
「私の未来の旦那様に傷をつけるなど、言語道断。……覚悟はよろしくて?」
「な、なんだこの女!?」
襲いかかる暗殺者たち。しかし、ロザリンドの剣技は、舞踏のように美しく、そしてルーファス以上に速かった。 急所を的確に突き、関節を砕く。彼女は、公爵家でひた隠しにしてきた才能を、愛する人を守るために爆発させた。
薄れゆく意識の中で、ルーファスはその背中を見ていた。
(……なんて、強く、美しいんだ……)
2.薄れゆく意識と、別れの言葉
毒を受けた直後の森。 騎士団の増援が到着し、ルーファスが搬送される騒ぎの中、ロザリンドは蒼白な顔で、担架に乗せられるルーファスの耳元に囁いた。
「……申し訳ありません、殿下。わたくしは、貴方様が思うような可憐な花ではありませんでした」
ルーファスは毒による高熱と痛みで意識が混濁していた。 だが、頬に落ちた彼女の熱い涙と、震える声だけは、魂に焼き付いた。
「わたくしは、貴方様を欺いておりました。……さようなら、私の愛しい騎士様」
(待て……行くな、ロザリンド……!)
ロザリンドの手が離れていく。 ルーファスは手を伸ばそうとしたが、身体は鉛のように重く、そのまま深い闇へと落ちていった。




