第五話:騎士団デートと、ときめきの芽生え
交際が始まって数週間。ルーファスは「僕の職場を知ってほしい」と口実を付けて、ロザリンドを騎士団の演習場へ案内した。
先日のアレクセイの調査結果が間違っていないことを祈るばかりだった。
金属音が響き、屈強な騎士たちが怒号を上げながら模擬戦を行っている。汗と土の匂いが充満する、まさに男の職場だ。
ルーファスは、隣を歩くロザリンドをちらりと見た。彼女は扇で口元を隠し、言葉を失っているように見える。
(しまった……。やはり失敗だった。こんな野蛮でむさ苦しい場所に、あんな華奢な彼女を連れてくるなんて。彼女はショックで声も出ないのだ。早くここから連れ出さなければ、彼女が怯えてしまう)
実のところ、ロザリンドは興奮を隠しきれず、扇でニヤける顔を隠すしかなかったのだった。
(素晴らしい……! 見て、あの騎士の踏み込み! 軸足が全くブレていないわ! それに、あっちの騎士の剣速! 筋肉の使い方が合理的だわ……ああ、身体が疼く! 私もあの輪に入って、思いっきりレイピアを振るいたい!!)
「……すまない、ロザリンド嬢。退屈で、恐ろしい場所だろう」
ルーファスが申し訳なさそうに眉を下げた。ロザリンドは、ハッとして「淑女の仮面」を被り直す。
「い、いいえ、殿下! 皆様の……その、熱気に、わたくし、胸が高鳴りましたわ!」
(嘘ではないわ。本当にこの演習場って素晴らしい……!)
ルーファスの背後の剣戟に視線が吸い寄せられる。
(あら、あそこの木剣の打ち込み、鋭いわ!)
そこへ、部下の騎士がルーファスに模擬戦をお願いしに訪れた。
「副団長! 一本お願いします!」
ルーファスはロザリンドを気遣い断ろうとしたが、ロザリンドが「是非、拝見したいですわ」と言ったため、剣を取ることになった。
試合が始まると、ルーファスの雰囲気は一変した。
普段の「恋に浮かれたポンコツ」でも「不器用な王子」でもない。
「ハッ――!」
無駄のない構えから、圧倒的な速さと重厚な剣技が繰り出された。
シュッ――!
相手の剣を最小限の動きでいなし、一瞬で喉元に切っ先を突きつける。
「勝負あり!」
「ありがとうございましたっ!!」
敬礼する騎士を小さく頷き、汗を拭いながら振り返ったルーファスの姿に、ロザリンドは息を飲んだ。
(……ルーファス殿下はお強いわ。多分、お父様よりも、兄様たちよりも……今まで見た誰よりも。長年の鍛錬と才能に裏打ちされた洗練された剣技なのだわ)
彼女が求めていた「自分より強い男」。それが、目の前にいた。 ロザリンドの頬が、初めて演技ではなく紅潮した。
「ルーファス様……! とても、とてもお強くていらっしゃるのですね……!」
彼女の言葉に熱がこもっていることに気づき、ルーファスは驚き、そして照れくさそうに頬を掻いた。
「……ありがとう。君に見られて、少し張り切りすぎたかもしれない」
この瞬間、ちぐはぐだった二人の歯車が、カチリと音を立てて噛み合い始めたのである。




