第三話:公爵家の家族会議
ルーファスが名残惜しげに何度も振り返りながら帰った後、公爵邸のサロンでは緊急家族会議が開かれた。
参加者は三名。 胃痛の公爵、泣きそうな公爵夫人、そして腕組みをして仁王立ちする、いつものロザリンド。
「ロザリンド! いいかい、相手はあの『ルビーの騎士』ルーファス殿下だ! お前の本性がバレたら、婚約破棄どころか、我が家は『王家を欺いた』として断罪されてしまう!」
公爵が涙ながらに訴える。本来なら、王家との繋がりができることは門家としてほまれ高いことだ。だがしかし、今回は、相性が悪すぎる。
公爵家随一の剣士としての才能を誇るロザリンドは令嬢としては常識はずれもいいところだった。母親似の容姿はずば抜けており、その演技力もあることから、社交界では「可憐な」公爵令嬢として通っていたが、どこまで王子を欺けることが出来るか予想はできない。
しかし、そうであっても、王家からの申し出を理由なく断ることなど出来ない。……そもそも、先日の王子たちの婚約者探しの王宮舞踏会に参加しているのだから、断れるはずもない。
「わかっているわ、お父様。でも、向こうから来たのよ? 私だって、自分より剣が弱い男なんて願い下げだわ」
ロザリンドは不満げに鼻を鳴らした。彼女の理想は「自分を剣で負かす男」。
実力の程走らなかったが、王宮育ちの優男な王子など興味の外だ。
「そこをなんとか! お願いだロザリンド! 両親の願いを聞き届けてくれ!」
「そうよ、ロザリンドちゃん。どうか、お願いよ。あの方の前では、決して『馬を素乗り』したり、『素手でリンゴを握りつぶしたり』しないでちょうだい……! ただの、可愛らしいお人形でいてね!」
両親の必死の懇願に、ロザリンドは深いため息をついた。
「……はぁ。わかったわ。お父様たちのためにも、完璧な『可愛い薔薇水晶』を演じきってみせるわよ。……バレなきゃいいんでしょう、バレなきゃ」
こうなれば、腹をくくるしかない。最後まで乗り切れるよう可憐な令嬢で有り続けるしかない。
こうして、「絶対に本性をバラしてはいけない最強令嬢」と「彼女を壊れ物だと思っている寡黙な王子」の、前途多難な交際が幕を開けたのであった。




