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不運な俺は異世界に行っても不運な様です  作者: 試験管
シェッテ王国騒乱
285/286

255 フォーグレノスッテに潜入 4



 翌朝、目が覚めると近くに森があるせいか辺りは濃霧に包まれていた。

 視界が悪く、気配だけで見張りをしなくてはならないだろう。


「んむぅ……」


 ゴロリと隣で寝ていたアルミンが寝返りを打った。

 ズリ下がった毛布を掛け直してやり、そっと天幕から外に出る。

 春の早朝はまだまだ寒い。

 布団に甘やかされた身体が冷たい外気にブルリと震えた。


「ハヨー」

「ぉおぉおはよょょざぃぁすすすしゅ……」


 天幕から出た俺に気が付いたレオンさんとマックスが挨拶してくる。

 霧に濡れたマックスは歯の根も合わぬくらいにガタガタと震えていた。

 レオンさんは防水布を頭から被っているので被害は少なそうだ。

 昨夜何故か防水布を出してくれと言われて不思議に思っていたけどこの霧を想定していたんだろうな。

 焚き火用の薪にも小さな防水布が掛けられていて、焚き火自体も火は小さいもののなんとか燃えている。

 マックスは不要だと言っていたので出してはいなかったが、それが今身に染みている事だろう。


「あれ?グレーテさんは?」

「あそこ」


 レオンさんの指差す先、丸まった防水布がガタガタと震えている。

 グレーテさんは自分の物を持っていたのか、俺が用意したものではない。

 全身包まっていても寒いらしく、声も出せない様だ。


「あわわ、えっと乾燥!」


 三人の服や髪を魔法で乾燥させる。

 蒸発させたら火傷をしそうなので水分を奪う形で乾かした。

 次いで、マックスに防水布を投げ渡し、焚き火を大きくして、ホットレモネードを淹れる。

 ほんの少し蒸留酒を垂らし、渡せば指先を温めながらそれを飲む三人。


「キリトキリト、お兄さんにはもすこーしその“あったまる水”追加してくれないかな?」

「ダメですよ。レオンさんは見た目に反してお酒に弱いんですから」


 甘えてくるレオンさんをぶった切って、俺は魔道懐炉に魔力を補充して震える二人のお腹の辺りに挟ませる。

 ホットレモネードで中から温まりはじめ、体温を奪われることの無くなった二人は、だいぶ顔色がましになってきているが、このままでは絶対に体調を崩すだろう。

 こっそり無言でキュアを()()に掛けておいた。

 他の二人よりはマシだとしてもこの寒い中ずっと一人で見張りをしていたのだ。

 辛くないわけがない。


 そんな三人に少し休む様に話している間にデイジーとジャックが起き出す。

 肌寒く、霧が深いので温かいスープが良いだろうと生姜入りの具沢山のスープを作った。

 上にパンとチーズを乗せ、簡易的なオニオングラタンスープの様にして食べる。

 少しでも冷めない様にという努力である。


 一晩寝たヴィンデもなんとか持ち直し、アルミンと笑顔で食事を摂っていた。

 まだ痩せ我慢だろうけど、下手につつかぬ様気をつける。


 食事を済ませた俺達はちょっとした森を抜け、フォーグレノスッテへ向かって進む。

 街道はキチンと整えられていて歩きやすい。

 分かれ道なども看板が設置されていて進むべき道がわかりやすかった。


「普通こういうところって侵略されにくい様に手入れしないものじゃないの?」


 オーランドにコソッと聞けば、外国と接する道は国の顔とも呼べるから綺麗に整える物なのだと教えられた。

 その代わり、道幅は馬車がギリギリ二台通れる程度で軍が進むには狭くて難しいラインを維持しているのだそう。

 なるほど?確かに大軍で進むには狭いね。

 そこで気付いた。

 エーアスト帝国側もそうだった。

 馬車がギリギリ二台通れて、その脇は草むらだった。

 なるほどなー。


「あと横の森に隠れ潜んで伸び切った隊列の横合いからぶすっと攻撃することもできるぞ」

「怖っ!」


 そんなこと言われたら通れなくなりそう。

 戦々恐々と歩いているうちに視界に見慣れぬ物が増え始めた。

 海が近いからか、植生が微妙に変わってきたのだろう。

 この辺にだけ生える植物や、同じ植物でもなんか地面に這いつくばってる感じだったり、大ぶりだったりする。

 見ているだけで結構面白い。

 薬草なんかも効能が違ったりするんだろうか?

 皆から遅れぬよう少しだけ採取をして、歩いて進む。

 鑑定するのは街に着いた後でも大丈夫だよね。


 しばらく歩くと風に乗って少し生臭い様な独特の磯の香りが漂ってきた。

 海の近くで生まれ育ったわけではないので、多少の違和感を感じる。

 普段は夏くらいしか海に行かないもんね。

 それにもう何年も行ってないし、変な感じ。

 女性陣が不思議そうに鼻を抑え、ジャックとレオンさんに至っては鼻白んでいる。


「なんか変な臭いがする、くせぇ……」

「磯の匂いですね」


 鼻をつまみながら文句を言うレオンさんにヴィンデが苦笑しながら言った。

 他の人達も違和感を感じている様だ。

 しきりに鼻を擦ったりハンカチを当てたりしている。

 確かに初めて嗅いだらそうなるのかな?

 意外なのはヤンスさんで平気そうにケロッとしている。

 絶対「くっせぇ!」ってイライラすると思ってたのに、どっちかといえば穏やか……?

 まあ、磯臭さの好悪は個人差があるもんだしね。


 植生や環境の変化を感じながら道なりに進めば、木々の隙間から海が見えてきた。

 はじめはチラッチラッと光が目をチラつかせる程度だったのだが、森が開けた瞬間視界一杯に照り返しが襲ってくる。

 正直、サングラスが欲しいくらいに眩しい。


「目、チカチカする」


 そう言って目を押さえるジャックが辛そうだ。

 サングラス作ろうか?と振り返れば、エレオノーレさんによしよしとまぶたを撫でてもらっている。

 …………これはまだいらないな。

 ケッ!

 数年ぶりに見た海は広大で、日本とは比べものにならない程の迫力だった。

 人工物が少なく視界一杯に広がる青い海と、高く澄んだ空、力強く吹き付ける海風に、自然の力を直に感じ、俺達はしばし海に魅入っていた。



 海が見えると街はすぐそこだった。

 昼頃にはフォーグレノスッテの街門が見えてきた。

 不慣れな街中で店を探して入るよりも、ということで、馬車を【アイテムボックス】にしまい、少し道から外れて昼食をとった。

 馬達にも水やリンゴなどを与えて、道草を食べてもらう。

 俺の髪の毛は食べなくていいからね?

 禿げちゃうからさ。


 食事が済むと、フォーグレノスッテの街に入る。

 前回の事もあった為、ヴィンデとアルミンも俺達と一緒に門を潜った。

 また賄賂を要求されるかと身構えていたが、理由と常識的な入門税を支払えば、あっけなく入れてしまった。


「国境だけかな?」

「どうだろうな」


 主語を抜いて呟けば、同じ様に返ってきた。

 とりあえずヴィンデに道案内してもらい商業ギルドに挨拶がてら軽い情報収集を行う。

 付け届けに去年買い漁って残っていたブラーレ()をカゴいっぱいに入れて、ギルドの皆さんでどうぞ、と微笑めばあっという間に受付嬢の態度が変わった。


「私達は初めてこの国に来ました。こちらは海国と聞きます。商業ギルドとしておすすめの商品や外国に広めたい商品などありますでしょうか?」


 精一杯商人っぽく話してみるが、どうにも違和感が拭えない。

 相手も俺が不慣れなのだとわかっている様な感じだ。


「そうですね、やはりこの街は海が近くにありますので……」


 外から来た商人達が良く聞いていくのだろう、考え込む事もなくスラスラと話し始める受付嬢。

 幾つか商品名と店名をメモしていくと、何故か彼女の視線が俺の手元に釘付けになっていた。

 俺が使っているのは、以前帝都の文房具商人であるウッツと作ったメモ帳だ。

 丈夫な木の板が表紙で、二本のリングで留められているもの。

 リングを指で押すと開き、簡単にリフィルを入れ替えできる便利なメモ帳だ。

 俺は表紙に鹿の革を貼っている。

 だいぶ使い込んできたのでかなり良い色になっているのだ。(自慢)

 当初は方眼紙だけだったリフィルだけど、現在では罫線や書き込み式のカレンダーや顧客情報管理用紙など様々なものが出ている。

 ウッツの店もあちこちに支店を出しているし、うちの雑貨屋以外にも沢山卸しているのだそう。

 エーアスト帝国内では結構出回っていると思ったけど、シェッテ王国では珍しいのかな?


「これはウチで売っている人気商品ですよ」

「まぁ!」


 軽ーく商品の紹介をすれば近くに座っていた者達まで食い付いてくる。

 こちらに支店が出せたら必ず販売ラインナップに入れる事を約束させられた。

 まあ、確実に売れるとわかっているのだから用意しないわけないよね。

 支店を出すかはわかんないけどね。

 とりあえずウッツには伝えておいてあげよう。


 そうして二、三世間話を挟み、ヤンスさんが横から口を挟む。


「あと危険であまり近寄らないほうがいいところも教えてもらえませんか?」


 敬語を使うヤンスさんが珍し過ぎてポカンと口を開けて見ていると、そんな俺を指差して爽やかに笑う。


「ウチの商会長は見ての通りポヤポヤしてるので、すぐに騙されたり襲われたり誘拐されたりするんですよー。そういった時にどこを探したらいいか教えて欲しいんです」


 その言葉に成程と頷いた受付嬢を不満に思いつつも、内容自体は知りたい情報なので黙って聞いておく。

 視線に抗議は乗せておこう。

 じっとり。


「そうですねー……」


 受付嬢は簡単な街の地図を取り出して、指さしながら「こことこことここは〜」と説明していく。

 どうして危ないのか、どの様に回避すべきなのか、その辺を教えてくれる。

 受付嬢の説明を探索魔法の地図に注意エリアとして追加しておいた。

 ホント便利。

 幾つかの裏路地やグレーな商売をしている店、最近増えている詐欺被害などそこそこ出てくる。


「あ、それと“海賊”っていう他国には馴染みのない組織があってね。彼等には注意しておいた方が良いわよ。でも別に“山賊”の海版というわけじゃないのよ?」


 受付嬢はペラペラと楽しそうに笑いながら説明してくれる。

 これも普通に他国から来た者には説明しているらしく彼女の口は止まるところを知らない。

 

「強い魔物が出たら退治してくれるし、よその海賊が攻め入ってきたら守ってくれるのよ。商会もみかじめ料を支払えば被害はないし、荒くれ者から守ってくれたりするわ。でも、気に入らなければ簡単に殺しにくるし、乱暴者なのは否定しないわよ」


 なんだろうね、海のヤクザ?マフィア?ヴァイキングもそうだけど、やっぱどこの世界や国でも似た様な組織が出来上がる者なんだね。

 ここら辺は『海蛇の牙』っていう海賊の縄張りだそうだ。


「この街で商売をするなら話を通しておいた方が良いかもね。あちらの裏通りの大きな建物が本拠地ですよ」


 え?待って?

 早速敵本拠地ゲットした?

 いやまあゆーてアルスフィアットまで来てる犯罪組織がその海蛇の牙かどうかはわかんないけど、可能性はものすごく高いよね?

 ヤンスさんと目を合わせ、一つ頷くとひとまずこの街での拠点を確保する事にした。


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― 新着の感想 ―
半ば公認の海賊。 昔の英国や日本ですか。 コレ、なおのこと、実行犯の組織の上の方に黒幕が居そうな……。
やだなぁ、反社組織が大手を振ってる街って 日本でいうならヤクザの組が顔役を務めている街って事でしょ 暴力が日常的な世界だから仕方ないのかもしれないけれど キリト達にとっては受け入れがたい街よね
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