間話 ●視点 オーランド【初雪の日】
キリトが帰ってきたのはもう間も無く雪が降るだろうという様な日の事だった。
こちらの世界に来て、親の様に、祖母の様に接してくれていた迷い人のマチルダの見舞いに向かったが、看護の甲斐なく亡くなってしまったらしい。
ヤンスから送られてくる手紙には必死で看病をし、魔法を使い続けたキリトの様子が詳細に書かれていた。
亡くなった後に遺言に従い孤児の扱いや問題の解決に奔走していたそうだが、その辺が一区切りつくと、悲しみに囚われてしまったらしい。
葬儀と後処理が終わり、討伐依頼の話もある程度まとまった頃、ぼんやりと座り込んで声もなく涙を流す事が増えたキリトに帝都に戻る様勧め、後処理を任せてきたそうだ。
ヤンスの言葉通り、アルスフィアットから帰ってきたキリトは時折ぼんやりとする姿がよく見られた。
以前にもそういった事がなかったとは言わない。
ただ、以前はその時間を楽しんでいるのがわかったのだが、今はただ辛そうで見ていられない。
でも本人はその自覚が無いらしく、しばらくすると再起動してあれこれと奔走している。
テレーゼやヴィムに仕事を紹介したり、石鹸を作ったりしていた。
そして、初雪が降った日、唐突にでこれーしょんケーキを作り始めた。
大きな四角いスポンジケーキを焼いて丸い型を使っていくつも抜いていく。
出来上がったのは二口で食べてしまえそうな小さなサイズの丸いケーキ。
しかしそれはかなり手が込んでいた。
ブランデーシロップが染み込んだしっとりとしたスポンジ、小さく薄く切られたフルーツ、ほんの少しだけ酒の混ぜ込まれた生クリーム、白く大きな皿にスポンジやフルーツの違うケーキが三つ載っている。
そのケーキを取り囲む様にフルーツソースが弧を描く。
クリームとフルーツ、ソースに飾り立てられたその姿は食べ物とは思えぬ程に美しかった。
「できたか?!早く食べよう!」
「これは俺たちの分じゃ無いんだよ」
調理場の入り口から声をかければ少し困った様な顔をする。
違うのだ、とにっこり笑うキリトは、笑っているはずなのに何故か泣いている様に見えた。
調理場の勝手口から外に出るキリトを不思議に思い、少し時間を置いてから続いて外に出る。
ひゅう、と身を切る様な風が吹き、身体が震えた。
積もるほどでは無いが、ちらちらと小さな粉雪が舞っている。
「雪の精霊さん、雪の精霊さん、いらっしゃったら現れてくれませんか?」
その小さな声に視線を向ければ、東屋に一人腰掛けたキリトがケーキを載せた皿を掲げて宙を見ていた。
その思い詰めた様な姿に思わず扉の中に戻り、身を隠す。
薄く開けた扉の隙間からキリトを見やれば、皿をテーブルに下ろしたらしい。
そしてキリトの顔の前あたりに、ふわっと光る玉としか表現しようのない、おそらく雪の精霊らしきものが浮いていた。
「これがお話ししていたデコレーションケーキです。ケーキを食べてる間だけお話を聞いてくれませんか?」
結構距離があって、キリトの声も小さいはずなのに何故かよく聞こえる。
オレの耳にはキリトの声だけしか聞こえないが、何かと会話している様で、独り言にしては不自然な間がある。
ふわりふわりと光の玉が揺れ動く。
「マチルダさんが、亡くなってから……自分の感情が不安定になってしまって……」
どうやら自分の感情をコントロール出来ず周りに心配を掛けているのが辛いらしい。
ぽつりぽつりと泣き言を零すキリトに胸が締め付けられる。
心配し過ぎていたのだろうか?
その程度の愚痴さえ零せないくらいオレたちは信用がないのか?
「え?いえいえ、皆が頼りないなんてことは全然無いですよ?」
自己嫌悪に苛まれるオレに、慌てたキリトの声が届いた。
「皆良くしてくれています。心配してくれていることもわかってます。……ただ、もう、これ以上心配掛けたくなくて……」
そう言って項垂れるキリトの目の前でケーキが急にその体積を減らした。
ケーキが端からもろもろと減っていく。
それはちょっとした恐怖でもあった。
ぞくりとした身体を温めるように両腕を擦りながらキリトに視線を向けると、ポカンとしてその様子を見ている。
「……ぷっ」
そうして唐突に吹き出したかと思えばあはははは、と笑い出した。
久しぶりに見たキリトの笑顔だった。
何故かそのことに安堵を感じた。
これでキリトは大丈夫、何故かそう思ったのだった。
その後、氷雪蘭の芽を取り出して見せ、何やら話始めると、植木鉢をキラキラとした光が包む。
それをニコニコと見ながら楽しそうに会話らしきやりとりをしている。
先程までははっきりと聞こえていた声が全く聞こえない。
もしかしたら雪の精霊の悪戯かもしれないな、と思いながら扉を閉める。
それにしても傍目には光に向かって話しかける可哀想な人にしか見えなかった。
やっぱり霧斗は規格外だわー……。
あ、あのケーキまだあるよな?
後で出してもらおう。
いつも俺不運を読んでくださりありがとうございます。
年末年始に投稿しようと思っていたこちらの話ですが、本編が追いついていない事に投稿直前まで気付かず危うく前後投稿するところでした。
気付いて良かったです。
その後データが消えたりコレジャナイに襲われたりしましたが無事投稿できました。
そろそろ間話のネタ切れで、何をどう書こうかと必死で絞り出しています。
こんな話見たい、とかあればここの感想に書いていただけると全部は対応出来ませんが、参考にさせていただきたいです(他力本願)




