第二話:事象名『なろう現象』の進化
私は、その新事象――『なろう現象』という名の、未知の動態に完全に虜となった。
宇宙コード『E-009』の転生劇を皮切りに、私はマルチバースの至る所で同様の因果律のバグを観測し始めた。最初のうち、それらは驚くほど似通った軌跡を辿っていた。
トラックによる超光速転送、初期スキルの付与、そしてコミュニティからの追放を経ての無双。
だが、いくつかの宇宙をザッピングするように観測していくうちに、私はある不可思議な法則性に気がついた。 彼らは、同じ道を二度は通らない。
正確に言えば、発生源は同じであるにもかかわらず、ある一定の臨界点を越えた瞬間、まるで「過去に観測されたなろう現象を回避するかののように、システムそのものが新たな視点、新たな角度、新たな能力を選択し、未知の方向へと自己変異を起こし始めたのである。
例えば、宇宙コード『D-102』の海洋惑星。ここでは、すでに多数観測された「剣と魔法による無双」のルートが完全に閉ざされていた。
その現象は最弱の「発光バクテリア」への転送。そこから「有機スープの化学合成」というニッチな局所バグを駆使し、上位捕食者を支配するという、驚くべき変則ルートだった。
また別の、全生命がサイボーグ化した機械惑星『C-808』では、最新AIの聖女たちが、廃棄された初期型OSである主人公の「バグ行動」に異常な確率で惹きつけられるという、歪な重力場ハーレムが形成されていた。
私の演算ユニットは、導き出された数式を「エラー」と判定せざるを得なかった。
事象そのものが――「飽き」を拒絶している。
そして、さらに戦慄すべき真実に気がついた。
私だ。私が観測すること自体が、なろう現象の形を変えていたのだ。
量子力学における観測者が対象の状態を確定させ、変化させてしまうように、高次元の私が「次の因果」に期待を抱き、観測機器に視線を注ぐという行為そのものが、下の次元の因果律に強力な指向性を与えていた。
私の「もっと新しい現象を」という無意識の欲求が、下の宇宙へプレッシャーとして伝播し、より倒錯した局所的嗜好フェティシズムへの変異を強制していたのだ。
このマルチバースという巨大な宇宙は、簡易的な現象にあまりにも早く順応してしまう。一度観測した現象の「ざまぁ」では、もはや十分な熱を消費できない。
だからこそ、なろう現象は私の観測に応え、より宇宙の熱を多量に消費するべく進化していた。
普通の無双では、もう冷えかけた宇宙脳細胞を震わせることはできない。
システムはより奇抜な「新なろう現象」を開拓し、因果律の導火線に火をつけ、世界の残された貴重な熱量を一気に消費させていく。
それは、宇宙が自らの寿命を熱として支払う、最期の自傷行為に他ならなかった。




