表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マルチバースエントロピー 〜宇宙が一つに『なろう』としていた〜  作者: libero protocol


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/3

第一話:事象名『なろう現象』


私は観測者。様々な事象を記述し、分類し、ただ見届けるのが私の存在理由だ。


光すら脱出できないブラックホールの底から、数千億の星々が瞬く銀河の揺籃、あるいは11次元超空間で震える素粒子の超ひもにいたるまで、この多次元宇宙マルチバースに存在するあらゆる物理現象を記録すること。


それが高次元に生きる私の、永遠とも思える退屈を埋めるすべてだった。


しかし最近、私は未知の動態を観測してしまった。 ――まだ、マルチバースの誰も、それを記述していない。


それは、宇宙コード『E-009』と呼ばれる、炭素生命体が住まうごくありふれた三次元宇宙の、そのまた辺境の惑星で起きた。


その星の、どこにでもいる冴えない知的生命体が、鉄の塊トラックに衝突して肉体的に死亡した瞬間だった。


通常であれば、その生命体が保持していた量子情報、すなわち「記憶」や「魂」と呼ばれる微弱な電気信号のデータは、宇宙のエントロピー増大の法則に従って大気中へと霧散し、完全に消失するはずだった。


だが、違った。

局所的な因果律が不自然にねじ曲がり、彼の全情報が消滅することなく、別の並行宇宙(中世暗黒期レベルの文明を持つ惑星)へと超光速で強制転送されたのだ。


異常だったのは、その転送の瞬間、宇宙の基本ルールである物理法則がグニャリと書き換わり、その個体にだけ、周囲の空間からあり得ないほどの高密度エネルギーが収束・付与されたことだ。


【鑑定】【無限魔力】【自動回復】――。


私の『全方位次元収束望遠鏡』は、その個体の周囲に発生した、物理学の定義を根底から無視した局所的なシステムエラーチートスキルを次々と検知し、情報幾何学的な数値ステータスとしてデコードしていく。


それはまるで、宇宙そのものがその生命体を「主役」として特別扱いし、世界という舞台を彼のためだけに都合よく再構成しているかのようだった。


私は、息を呑んでその観測機器を見入った。


彼を無能だと見下し、コミュニティから弾き出した追放した周囲の生命体たちパーティーメンバーが、彼の放ったバグの圧倒的な出力の前に、一瞬で絶望し、ひれ伏していくざまぁ。


その瞬間に弾けた、爆発的な因果のエネルギー。脳細胞が直接、短絡的な快楽を貪るような、あまりにも強烈なカタルシス。


私はその奇妙で、不条理で、底抜けに魅力的な無双劇に、かつてない知的興奮を覚えていた。


私は高次元のエネルギー代謝すら忘れ、観測機器をフリックするように、その世界の「次の因果」を狂ったように貪り始めた。


私は、まだ宇宙の誰も知らないその新事象に、名前をつけた。


――『なろう現象』と。


だが、観測機器に釘付けになっていた私の指先が、ふと止まる。 彼が「また何かやっちゃいました?」と無自覚に物理法則をバグらせ、周囲が熱狂するたびに、私の観測モニタの片隅で、不穏なアラートが静かに点滅していた。


その『なろう現象』が発生している星系の、絶対温度のグラフだ。


おかしい。何かが、指数関数的な速度で消費されている。


主人公が安易な快楽無双を出力するたびに、その領域の宇宙から、熱エネルギーが猛烈な勢いで「掠奪」されていた。


その事象を取り囲む宇宙のネットワーク脳細胞は、信じられないほどのスピードで、静かに、冷え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ