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『潰れかけの辺境港を任された元港湾責任者、検疫と荷役を立て直したら世界一の交易都市になった』  作者: あちゅ和尚


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第18話 人夫が六人足りない

「今日は六人足りない」


 朝、中央岸壁へ出るなりロイに言われた。


 荷役用の待機場所には十二人しかいない。


 普段なら、この規模の商船が来る日は十八人前後を揃える。


「病気ですか?」


「違う。町の北にある穀物倉へ行った」


「六人まとめて?」


「ああ。五日間、荷の積み替えをやるらしい」


 ロイは怒ってはいなかった。


 ただ、今日は困る。それだけの顔だ。


「日当が高いんですか?」


「少しな。それより五日続けて仕事があるのが大きい」


 理由は分かる。


 港の人夫は船が来れば働ける。


 来なければ、その日は稼げない。


 最近は入港船も増えたが、まだ毎日必ず仕事があるわけではない。


 一方、穀物倉なら五日間は確実に賃金が出る。


「誰に雇われたんです?」


「北側の穀物商。別に悪い奴じゃねえぞ」


「そこは疑ってません」


「人夫を取られたから怒鳴り込むのかと思った」


「条件のいい仕事へ行くのは普通でしょう」


 人夫は港の持ち物ではない。


 困るのは、今日こちらにも仕事があることだった。


 沖を見る。


 《白鈴号》という中型商船が、案内船に従って港へ入ってくる。


 事前連絡は昨日届いていた。


 降ろすのは鉄材三十二束、羊毛布四十八束、乾燥豆二十袋。積み込むのは麦四十袋。


「十二人で回せますか」


「回す」


 ロイは即答した。


「ただ、いつもの速さは無理だ。鉄に六人取られる」


「最初に船長へ伝えましょう」


「その方がいい」


 白鈴号が着岸した。


 船長は五十歳前後の男で、名をヘニングという。


「今日は人夫が少ないので、通常より時間が掛かる可能性があります」


「どれくらい?」


「今の時点では断言できません。ただ、夕刻前までには終えるつもりです」


 ヘニングは潮の具合を見た。


「出港には間に合う?」


「今の見込みなら」


「分かった。それなら始めてくれ」


 余計な交渉はなかった。


 ロイが十二人を分ける。


 鉄材に六人。


 羊毛布に四人。


 荷車と倉庫側に二人。


 乾燥豆は、羊毛布が減ってから人を回す。


「鉄から行くぞ!」


 船側の吊り上げに合わせ、人夫が岸壁で受ける。


 重い。


 一束ごとに荷車へ載せる。


 岸壁へ溜めない。


 最初の十束は問題なく流れた。


 十一束目。


 受け側にいた若い人夫が一歩早く前へ出た。


「止めろ!」


 ロイの声で動きが止まる。


 吊られた鉄材がまだ揺れている。


「そこへ入るな。綱が振れたら足を潰す」


「すみません」


「次は俺の横につけ。位置を見ろ」


 ロイ自身が受け側へ入る。


 鉄材が下りる。


 受ける。


 荷車へ移す。


 流れが戻った。


 人数が六人減っただけではない。


 抜けた六人のうち四人は、重い荷を扱う時にロイがよく使っていた経験者だ。


 単純に頭数を十八へ戻せば同じになるわけではない。


 そこが一番厄介だった。


 昼前。


 鉄材三十二束を降ろし終えた頃には、羊毛布側にも遅れが出ていた。


 ロイが人を組み替える。


 鉄を終えたうち二人を倉庫側へ、二人を羊毛布へ。


 残る二人は少し休ませる。


「休憩を入れるぞ」


 ニールが作業表を見て尋ねた。


「まだ遅れてますよね」


「だから入れる」


 ロイが答える。


「このまま昼を抜いたら、午後はもっと落ちる」


 六人ずつ交代で休ませる。


 白鈴号の船員も同じように水を取っていた。


 ヘニングも急かさない。


 それでいい。


 速さを守るために、人を潰していたら意味がない。


 昼を少し過ぎた頃、一人の男が港へ顔を出した。


 ロイが先に気づく。


「マルク。何しに来た」


 三十代半ばほど。


 穀物倉へ行った六人の一人らしい。


「明後日の仕事を聞きに来た」


「穀物倉は?」


「今日は昼で終わった。明日は朝からある」


 マルクがこちらを見た。


「代官様。港を辞めたつもりはありません」


「そうでしょうね」


 彼は少しだけ表情を緩めた。


「もう声は掛からないかと思ってました」


「五日続けて仕事があるなら、そちらへ行くのは普通です」


「港は、船が来なかったら一日空くこともあるんで」


 マルクは続ける。


「ここ最近は前より稼げてます。でも朝来てみるまで仕事があるか分からない日も多い。女房と子供がいるんで、五日確実に払うと言われたら、そっちへ行きます」


「日当より、仕事が続く方が大きい?」


「高い方がありがたいです。でも、それだけじゃないです」


 ロイが腕を組む。


「港が同じ日当で五日保証したら残るか?」


「残ります。でも毎回そんな真似できないでしょう」


「できねえな」


 そこは俺も同じ意見だった。


 仕事があるかどうかに関係なく、十八人全員へ毎日賃金を払えば、港の収支が先に崩れる。


「明後日は船あるのか?」


 マルクが聞く。


 ユリウスが持っていた事前連絡を確認する。


「今のところ一隻です。午後到着予定」


「午後?」


「はい」


「なら午前は穀物倉へ行って、昼に戻れるな」


 ロイと俺が同時にマルクを見る。


「今まで、そういう働き方はしてなかったんですか?」


「船がいつ来るか分からなかったからです。朝から港へ来て、結局仕事なしってこともあった」


 事前連絡を使い始めた目的は、倉庫と荷車、人夫の準備だった。


 ただ、人夫側には「いつ働けばいいか」を十分伝えていなかった。


「ユリウスさん。到着予定は、どの程度まで分かります?」


「三日前に知らせる商人もいます。前日の連絡も増えました。ただし、連絡なしの船もまだあります」


「ロイ。荷の種類と量が分かれば、前日に必要人数を出せますか」


「だいたいなら」


「例えば?」


「軽い荷中心なら十人でも回せる。鉄材や木材が多ければ十四、十五は欲しい。経験者も多めにいる」


「なら、それを前日の夕方に人夫へ伝える」


 マルクが頷いた。


「明日は午後から十二人、みたいに?」


「そうです」


「それなら午前に別の仕事を入れられる」


 ロイも考え込む。


「毎日十八人集める必要はねえな」


「そうですね」


「ただ、重い荷の日は芯になる連中を先に押さえたい」


「何人くらい?」


「六人から八人。荷による」


 重い荷を扱える者。


 新人の位置を見られる者。


 綱、荷車、吊り荷の動きを分かっている者。


 今日抜けた四人のような人間だ。


「常雇いにはしない?」


 マルクが聞く。


「そこまでの仕事量はまだない」


 ロイが答える。


「船がある日に先に声を掛ける。来られねえ日は早めに言ってもらう。それで足りる」


「賃金は今まで通り?」


「重い荷の手当は別だが、基本はな」


 マルクは少し考えた。


「それなら助かります。予定が分かるだけでも違う」


 午後。


 白鈴号の荷役は、普段より一刻ほど遅れた。


 それでも夕刻前には羊毛布、乾燥豆の荷降ろしを終え、麦四十袋の積み込みまで完了した。


 ヘニング船長が岸へ下りる。


「朝に聞いていたよりは遅れたな」


「申し訳ありません」


「いや、最初から人が少ないと言われてた。潮には間に合う」


 船長はロイたちを見る。


「途中で無理に急がせなかったのも良かった」


 ロイが肩をすくめた。


「今日だけ早く出して、明日の人夫が動けなくなったら意味がねえ」


「その通りだ」


 白鈴号は夕刻前に離岸した。


 作業が終わったあと、ロイがいつもの人夫たちへ声を掛けた。


「明日から、夕方に分かってる仕事だけ伝える」


 岸壁の端に十数人が集まる。


 会議というほど大げさなものではない。


「船名、だいたいの到着時刻、荷の種類、必要人数。分かる範囲だ。風で遅れることもあるし、来ないこともある」


 一人の人夫が尋ねる。


「港から来てくれって言われたのに、船が来なかった時は?」


 そこは港側の話になる。


「こちらから事前に人数を指定して呼んだ場合は、一定の待機手当を出します」


 何人かが顔を見合わせた。


「自分から港へ来て、船がなかった場合とは分けます。港側が予定を空けてもらった時だけです」


「毎回出せるのか?」


「船が遅れるたびに一日分を払う、という話ではありません」


 ユリウスが補足する。


「どれくらい待機手当が発生するかは、実際に何度か運用して確認します」


 ここで期間を決め打ちする必要はない。


 まず使ってみて、負担が大きければ変える。


「穀物倉へ行ってもいいんだな」


 別の人夫が聞いた。


「もちろんです」


「午後から港と言われて、午前は別の荷運びでも?」


「間に合うなら問題ありません」


 ロイが付け加える。


「ただし、来ると返事したなら時間には来い。無理になったら早めに知らせろ」


「そこは分かった」


 話はそれで終わった。


 人夫を囲い込むための契約を作ったわけではない。


 港側が、分かっている予定を前もって伝える。


 必要な時だけ、必要な人数へ声を掛ける。


 人夫側は、それ以外の時間を別の仕事へ使える。


 翌日。


 朝の港務所へ行く前に中央岸壁へ寄ると、ロイが人夫の名簿を持っていた。


 昨夜、分かっていた情報だけを伝えてある。


 午後到着予定。


 羊毛布と鉄製品。


 必要十二人。


 経験者は六人ほど欲しい。


「何人返事が?」


「八人」


「残り四人?」


「朝のうちに当たる」


 名簿の横に丸が付いている。


 来られる者。


 別の仕事へ行く者。


 まだ未定の者。


 それだけだ。


 新しい板も、新しい役所仕事も増えていない。


「午前だけ市場へ行ってくる」


 一人がロイへ言う。


「昼前には戻れるか」


「戻れる」


「ならいい」


 別の男も声を掛ける。


「船大工のところで木材運びがある。終わったら来る」


「鉄を触れる人間が足りなけりゃ先に呼ぶぞ」


「その時はそっちを優先する」


 それぞれが自分の予定を決めていく。


 昼前には、穀物倉へ行っていたマルクも戻ってきた。


 六人全員ではない。


 三人だけだ。


 残る三人は、五日続く穀物仕事を選んだ。


 それも構わない。


「十二人揃った」


 ロイが名簿を閉じる。


「今日の荷なら足ります?」


「ああ。昨日より経験者もいる」


 港口の向こうに帆が見えた。


 予定より少し早い。


 人夫たちはすでに水を飲み、荷車の位置を確認している。


 マルクが手袋を締め直した。


「やっぱり港の荷役の方が身体は動くな」


 ロイが笑う。


「だからって、五日の仕事を蹴れとは言わん」


「そこは助かる」


「午後から来ると決めた日は、ちゃんと来い」


「分かってる」


 二人はそれ以上続けなかった。


 案内船に続き、商船が港口を抜けてくる。


 中央岸壁にいるのは十二人。


 港が一日を丸ごと買った人間ではない。


 それでも、船が着く時刻には必要な人数が揃っていた。




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YouTubeショート動画作ってみました。

https://youtube.com/shorts/NfxVc2WP21A?si=JkQKDpWxxDQhRXiJ

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