師との出会い
どんな偉大な魔術師にも師匠はいるはず……。というお話です。
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男、アルトは砂漠の中を歩いていた。年の頃は30手前といった感じで、顔はそれなりに整っていた。しかし長い旅で生えた無精ひげが、その表情をやつれさせていた。男は被っていたローブのフードを脱ぎ、金色の髪を軽くなでるように整えた。
(しかし、どうにも騒がしいな)
アルトの周りには、傍から見れば誰もいなかった。否、霊視の能力を持つものであれば、その周囲に揺蕩う精霊の姿を見ることができる。その精霊たちが、妙に騒いでいたのだ。しかもその騒ぎは、ある方向に進めば進むほどひどくなっていった。
元々研究者肌のアルトは好奇心を刺激され、精霊たちの騒ぐ方へと足を進めていった。
◆◆◆
アルトが進んでいった先には、小さなオアシスがあった。美しい水が湧き出ており、水の精霊が気持ちよさそうに揺蕩っていた。そのオアシスに生えた1本のヤシの木の下で、ぼうっとしている少年がいた。年の頃は10歳前後、髪は適当に切られた黒。瞳はよどんだ黒曜石のようだった。こんな場所に少年がただ一人。どこからか逃げ出した奴隷だろうか。普通の人間ならそう考えたかもしれない。
しかしアルトは普通ではなかった。アルトはむしろ、少年の周りに集まっている尋常ではない精霊の数に目を奪われていた。従えられる精霊の数は、そのまま精霊魔術師の強さを表す。少年の侍らせている精霊の数だけを見れば、アルトを含め魔術協会のどんな魔術師よりも上だと確信できた。しかも驚くべきことに、少年に従う精霊の中には、失われたはずの闇の精霊すらいた。その事実にアルトは思わず喉を鳴らしながらも、少年の方に向けて止まっていた足を動かし始めた。
ほどなくして少年はアルトの存在に気付き、緩慢な動作でそちらを見た。アルトが初めて真正面から見た少年の瞳は、悲しいくらいに死んでいた。
「坊主、こんなところでなにしてるんだ」
「……なにも」
少年の返答はまるで、初めて他人と話したかのようにぎこちないものだった。アルトは、伸びた顎の無精ひげを撫でながら、どうしたものかと思案しながら、言葉を紡いでいく。
「まあいい。それよりお前、精霊が見えてるんだろ?」
「……うん」
「じゃあ、精霊魔術、使えるのか?」
「……精霊、魔術?」
「なんだ、精霊魔術を知らないのか? お前の周りにいる精霊に意思と魔力を伝達して、超自然的現象を起こすすべのことだ」
「そんなことが、できるんだ」
アルトは少年と話してみて、ますます面白いと思った。これほどの数の精霊に愛されていながら、精霊魔術を知らない少年。この少年に精霊魔術を教えたらどんな結果になるんだろうか。世界を滅ぼす? 魔術の常識を覆す? それとも……。アルトの好奇心はどんどんと刺激され、半ば興奮しながら少年に告げた。
「もしお前にその気があるなら、俺が精霊魔術を教えてやろうか?」
アルトの言葉を聞いた少年はしばらくぼうっと彼を見上げていたが、だんだんとその目に宿っていった。そしてゆっくりと頷いた。
「よし決まりだ! えっとお前、名前は?」
「……名前?」
そんな言葉は初めて聞いたとばかりの少年の態度にアルトは思わず後頭部を左手で掻く。
「名前がわからないならいいや。とはいえ、ずっとお前と呼ぶのも不便だよな……」
顎に手を当て、両目を閉じて考え込んだアルトは不意に思いついて両目を開く。
「そうだアルファだ! 闇の精霊と契約した原初の魔術師! 闇の精霊を従えているお前にピッタリだろ。名前がないなら、これからはアルファって呼ぶからな!」
「……アルファ」
それは、偉大な魔術師と、その魔術師を導いた伝説の男の運命の出会いだった。
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