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伊谷志君とエミリ

 癒し系キャラの伊谷志くんの実家は病院を経営している。イケメン4のメンバーの中では比較的自己主張が控えめで、穏やかな性格だ。悪目立ちしないタイプなのだ。

 

 彼はいつのまにか、イケ4に入ってしまったのだ。特に入りたいわけではなかった。

断りきれずに入ってしまっただけなのだ。イケ4リーダーの八王子こと王子様キャラは、二面性のある要素を持ち合わせていたし、自己主張が強いので最初は苦手だと思っていた。さわやか系の沢屋くんはどちらかというとさっぱりした体育会系だったので、そんなに合うとも思えなかった。何より女性の好みが全く合わないとしか思えなかった。矢茶くんはヤンチャキャラだ。時々無茶をするので、癒しを好む伊谷志くんには刺激の強い友達という印象だった。

 

 伊谷志くんの日常のほっとする時間。それは図書館で一人で本を読む時間だ。本当はあの先生に弟子入りするより体を鍛えるより、読書が好きだ。普段はただみんなに合わせている、そんな彼の自分らしい時間だ。

 

 元々書店も好きなのだが、座って読めるという点で図書館の静けさはほっとする空間であった。そんな毎日の中で、よくみかける図書館常連の女性がいた。以前、八王子主催の合コンに来ていた一人だった。

 

 カレンの友達のエミリである。彼女はおしゃれだが、物静かな女性で読書家だ。図書室で勉強していることが多く何度か見かけた。しかし、あまりあのとき以来だったので、話しかけるにも迷惑がられないか少々不安で声をかけずにいた。

 

 一応あの時話したし、顔見知りともいえない距離だし……。あちらは覚えているだろうか? 気軽に話しかけられずにいた。

 

 小動物のような精神の伊屋志くんなので、彼の行動は慎重だ。いつも彼女を遠目に見える距離に座る。そして本を読む。こういったことは恋と呼んでもいいのだろうか。そんなことが1か月くらい続いたある日、図書館の入り口で一緒になったのだ。

 

 はじめて僕の存在にエミリさんは気づいて――

 

「あれ、もしかして、イケメン4の……」

「伊谷志です」

「ひさしぶり」

 

 図書館の中で話すのは周囲の迷惑になるので、ロビーのベンチで話そう――そんな雰囲気になった。

 

「今日は勉強しに来たの?」

「うん。伊谷志くんは?」

「僕はこの空間が好きだから、いつも読書をしにきてるんだ」

「イケメン4の人ってもっと派手な遊び方しているんだと思ってた。意外……」

「僕以外は図書館には来ないけど、基本真面目な人たちだよ」

「遊んでいるイメージだったけど……イメージって怖いね」

「エミリさんは童話シリーズが好きなの?」

「え? なんでそれを?」

「僕、毎日図書館に通ってるから、偶然見たんだけど……」

「声かけてくれればよかったのに」

「――僕のことなんて覚えていないと思って声かけづらくて」

「なんか、思っていた人と違うね」

 

 エミリはくすっと笑った。イケメン4なんて、普通の女の子には手の届かない存在だと思っていたからだ。

 

「童話読んでいるなんて、この歳で珍しいからちょっと恥ずかしくて……」

「僕はイケ4にはなんとなく入っただけで……王子たちとはタイプ違うから。実はあの童話のシリーズ、全巻揃えていて好きなんだよね。大人の心にも響くあのストーリーが好きでさ」

 

 地味キャラで素朴な伊谷志君の笑顔に癒されるエミリだった。でも、いつも表情を変えない伊谷志。

「第一印象なんだけれど……伊谷志くんって優しそうなのに表情が読めないの。だからちょっと……心が読めなくて」

「僕は人に心を読まれたくないからね。元々無表情なんだよ。他人に心を開くのが苦手なんだよ」

 そんなことを正面から言われたのは初めてで少し戸惑った。しかし、エミリの言葉は、真実を突いていると感じた。


「私も、そういうところがあるかも。何となく人に合わせていて自己主張しないとか」

 二人は性格も読書家という点も、とても似ていた。気が合うのは自然なことだった。図書館で出会うということは必然だったのかもしれない。

 

「コーヒーでも飲もうか?」

 さりげなくデートに誘う。2人っきりになりもっと彼女を知りたいと思ったからだ。伊谷志はあまり客がいない、レトロな喫茶店に案内した。建物もインテリアも落ち着いた感じのアンティークな作りだった。滅多に高校生も来ないし、人目にもつきにくい。全国チェーン店より少し値段は高めな喫茶店だった。店のつくりも雰囲気もいい。デートにはもってこいだ。

 

 お互いが初めてのデートという状況でコーヒーの味もわからないまま会話をする。目が合うだけで、緊張が高鳴り、目をそらす。そんな状況だった。どれくらい二人で話していたのだろうか? だいぶ陽が落ちて暗くなってきた。

 

「今日は帰ろうか?」

「ありがとう」

「送っていくよ」

「じゃあ、明日も図書館で待ち合わせしよう」

 

 エミリの瞳をじっと見ながら、伊谷志は秘めていた気持ちを告げた。

「僕は図書館で、君をみつけたときから、毎日見ていたんだよ、って別にストーカーじゃないよ。エミリちゃん、はじめて会った時からかわいい子だって思っていたし」

「嘘……? 伊谷志くんモテるよね?」

 少し驚いた表情のエミリが確認する。

「今まで一度も彼女はいないよ」

「私も、一度も付き合ったことないんだ。かっこ悪くて人に言えないけれど……」

 女子高校生にとって、彼氏がいたことがある、というのは一種のブランドなのかもしれない。


 少し距離をあけながら公園を歩く。まだ付き合ってもいないけれど、特別な存在になった。ひとつの出会いが毎日を大きく変えることもある。恋人ではないけれど、恋人みたいな2人。制服デートは甘い香りがする――。

 まだ出会って日は浅いけれど、どんな友達よりも近い距離を感じている2人が薄暗くなった歩道を歩く。少しずつ訪れる、秋の気配を感じながら――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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