女装男子と女装女子
イケメン4リーダーの八王子瞬こと、王子様はイケメンであり女子人気が高い。モテて当たり前という環境で生きてきた。欲しいものは何でも手に入る。そのような環境だった。
ところが……王子様は恭介先生とタイマンのケンカで負けたときにはじめて人生の敗北を知ったのだ。初失恋も経験した。最初は遊びのつもりだったのだが、徐々にカレンを結構本気で好きになったのだ……。しかし、フラれた。カレンは元ヤンキー教師を選んだ。それ以来、俺はあの先生を崇めるようになった。俺がもっていないものを彼は持っている。ケンカの強さ。男としての強さ。そして……美少女カレンの心も彼は簡単に手に入れている。あの教師は、最強の男だ。
俺はあの人に近づきたくて毎日、筋トレに励み、柔道や空手もはじめた。とにかく強くなりたいのだ。あの先生みたいに……。
ある時、ずっと興味があったことをしてみた。それは女装だ。別に男であることに疑問はないのだが、可愛らしい格好をしてみたい――そんな願望が心の底にあった。しかし、なかなか女装をする機会もないし女性ものの洋服を一人で買うことはためらってしまい実行に移せなかった。
しかし、ようやく昨日購入したのだ。かわいいワンピースとかつらとメイク道具を!! きれいになりたい系男子なのだ。別に女装はその手段というだけで男を捨てるつもりはない。
そうそう知り合いには会わないよな……ちょっとドキドキしながら街を歩く。元がいいからメイクをするとその辺の女子より女の子らしい顔立ちになった。背が高いのでモデルみたいなかわいい女子というポジションを確保した。自分でそう思っているだけだが……実際、知らない男が声をかけてくる。結構俺ってもてるんだな。失いかけていた自信を取り戻しつつあった。
美しさという点。それは、恭介先生にはないけれど、俺が持っている武器だ。強くなりたいという願望ばかりが先行していた。少し焦っていたのかもしれない。俺にだって、いい点はあるんだ。
「よかったら俺とデートしない?」
知らない男が近寄ってきた。
「ちょっと何してるのよ、リクト」
後ろから彼女らしき女が男に対して怒っている。
この男、デート中にナンパか?
「だってこの子、ちょーかわいいじゃん。俺、タイプの子には声かけちゃうんだよね」
「私という彼女がいるでしょ? どーいうことなの?」
「かわいい子がいたら声かけるっていうのが俺の中の常識なんだって」
「私という彼女がいるのにどういうことよ?」
なんだ……このケンカップル、馬鹿丸出しだな……。とりあえず無視して歩くことにした。
「あれ? 八王子でしょ? なに女装してるの?」
――まずいこの女は俺が通い始めた柔道教室の先生の娘で男勝りの、あかりじゃないか。知らないふりをしよう。私は別人デースというような表情をする。誰? あなた? みたいな感じだ。
「あなた誰? 八王子ってだれかしらね?」
女であることを強調する。
「やっぱり、声が八王子じゃん」
なんて敏感な女なのだ。声は変えたはずなのに……。あかりは柔道をやっていて、さばさば体育会系のスポーツウーマンだ。
「やっぱり八王子瞬じゃない! こんな格好して何かのイベント?」
よかった……趣味じゃなくてイベントだと思っているようだ。それにしてもこのショートカット女子、ほんと男みたいな服装だな。俺のほうが、どれだけかわいいか。
「あぁ、ちょっと仮装パーティーがあったんだよね。今終わってさ。よく俺だってわかったな」
「普通に目立ってるし、よく見ると八王子そのままじゃない」
「まさか、あかりさんにこんなところで出会うとは……」
「私は一人映画に行ってきたの」
「女子高生って集団で戯れてるイメージあるけど、おひとり様なんだ?」
「一人のほうが自由でいいよ。普段お父さんの影響で柔道ばっかりだし……17歳なのに、青春らしいものもないけど」
「八王子ってなんで柔道はじめたの?」
そこ、聞くか? 俺は初失恋に初失態したせいで……一言でまとめよう。
「男としての強さが俺には足りないからな」
きまったな。女装している俺がこんなことを言っているのも変な話だが。
――二人で話していると、チャラそうな男が声をかけてきた。
「おねーちゃん、暇? 俺らと遊ばない?」
またまたナンパか……。
「ちょっと今暇じゃないんで」
あかりが答えた。
「男みたいな君には用はないんだけど。そっちの背の高いおねえさんに声かけてるんだけど」
「だいたい、小学生みたいな女子に声かけねーよ。勘違いも甚だしいな」
あかりが怒りをこらえる。この女、ものすごく強い。俺なんかよりずっと強いのだ。こいつら投げ飛ばされるぞ。
「私はお友達とお出かけなので、あなたたちとは無理ですわ」
八王子は、一応断るが、相手はなかなか引き下がらない。ぐいっとナンパ男が俺の手をつかむ。俺は連行されそうになった。こいつら……本当にむかつくな。だいたい俺はお前らみたいな男に全く興味ないし……ぶっ殺すぞ!! サイコパス感が俺を呼び覚ます。
「お”ま”え”ら”ああああああ」俺がつい地声で怒鳴ると――次の瞬間に、あかりがそいつらをぶん投げる。これって一本背負いってやつじゃないか。俺にはまだ習得できていない技を簡単に使うとは……あなどれん。
「逃げよう」
あかりが俺の手を引いて街を走る。さっきの変な男どもからもう絶対にわからない場所まで逃げた。本当に全力で走ったのは久しぶりだ。履きなれないヒールのある靴で走ったので走りにくいうえ、息切れして疲れ果てていると――
「かつら、ずれてる」
あかりに指摘された。あかりは体力があるので元気がまだ余っているようだ。これだから体育会系女子は……。と思いつつかつらを直す。
「結構、八王子はかつらが似合っているね」
「そうか……?」
「私も本当は、かわいい格好に憧れるんだよね」
この女、実はかわいい服に憧れているのか? 意外だな。
「今度、貸してくれない? 洋服とかつら」
「でも、お前は女だから普通に買えばいいだろ」
「お父さんがちゃらちゃらした格好や髪型はだめって言うからさ。こっそりでいいの」
手を合わせてお願いされると断れないじゃないか。柔道教室で顔も合わせるし。
「今度貸してやるよ……」
「うれしい」
小学生みたいなボーイッシュ女子が俺に飛びつく。
――っておい! 抱き着くんじゃない!!
「それなら今から買おうか?」
「でも、家に持ち帰るとお父さんが面倒だから」
「じゃあ、俺が保管担当してやるから」
なぜか意気投合した王子とあかりは一緒に買い物へ――
女なのに女装してみたいあかり、柔道系ボーイッシュ少女。
女装に興味がある美形王子、イケメン4リーダー。
この二人には共通の秘密ができた。父親が厳しくてかわいい格好ができないあかりは女の子らしい格好で街を歩いてみたい。そのため、女性らしい服と靴とかつらを購入して、王子に保管させて、王子のメイク道具を借りる。
女の子だったら、かわいい格好すればいいでしょ? なんで堂々とできないの? そんな疑問があるのだが、どうも頑固で厳格な父親が阻止するらしい。不思議な話だが、家庭の事情……現実は色々とあるのだ。
八王子こと王子は男性なので、女の格好をすることがはずかしい。それだけだ。
しかしながら、きれいになりたい願望が元々ある故こっそり女装していたのだが――。あかりに見つかるとは。あまり個人的な趣味嗜好を知られたくない。それが王子の本心であった。なんとかメンツを保てたのだが……このあと、まさか女子が女装したいと言い出すとは思いもよらない事実だった。
女性同士で歩いているという事実をつくるため、王子は女装して自分も一緒に街を歩きたいという提案をしたのだ。本当は一人で街をあかりが歩くという話でもいいのだが。王子は便乗したのだ。女装の口実だ。何度も仮装イベントがあるわけではないので、また見つかったら弁解ができないだろう。趣味がばれてしまうのは、正直恥ずかしい。女装をしている八王子をぱっと見破る女、あかりの眼をごまかすことはできない。
ばったりあっただけだったのに――人生は何が起こるかわからない。成り行き上――今日はあかりの洋服と靴を選ぶ日となったのだ。イケメンの王子とデートを希望する女子はたくさんいたのだが、王子は今のところ恋愛とは距離をおくため断っている。
あかりとはデートではないが、王子とデートだと勘違いされたら、イケ4ファンがだまっていない。そんな空気があったので、王子が女装をしていることは正解なのだと思う。
約束の日、王子の誰もいない自宅にて――二人で慣れないメイクをする。女装はばっちり完璧だ。だれにでもきっと秘密はあるのだ。知らないだけなのだ。




