二人きりの夜
今日は俺の両親が急に仕事の出張が入ったらしく、2人ともいない。日曜日の夜には帰ってくるのだが、なんと、丸2日もいないのだ。金曜の夜からいないとなると、2日も二人きりの夜を過ごすのはどうかと思う。俺も信用されたものだ。
「留守は頼んだぞ」
「すぐ帰ってくるからいってきます」
両親を見送った。2人とも仕事でいつも忙しいし、放任主義だから、仕方ないよな。俺が、両親に何か言ったとしたら、カレンを変な目で見ているみたいで……それも言いづらかった。急に出張なんてうちではよくあることだ。
急なことなので、カレンはこのことを知らない。ぎりぎりまで知らせないでおこうと思う。あいつのことだ。変なことを考えるとこっちが大変だ。考える時間を与えない。これは作戦だ。俺は友達の家にでも避難するべきなのか? 絶対何も起こさないことに自信はあるが……。
夕食の前にカレンは先に風呂に入ったようだ。髪がまだ半渇きで、カレンの毛先はいつもよりもカールしていた。少し大人びて見えるような気がする。
「お風呂あがったけど、先生も入ったら?」
「今、夕飯作ってるからあとでな」
「あれ、今日はおばさんいないの?」
「二人とも今日は仕事で遅くなから、外で食べてくるらしい」
「そっかー」
風呂上がりの美少女の髪の毛はまだ濡れている。濡れ髪美人とはこのことをいうのだろうか、なんて考えてしまった。ダメだ、俺は最近おかしい。この娘によって、ペースが崩されているように思う。
「髪、乾かさないと風邪ひくぞ」
「ふぁーい」
なんとも気の抜けた返事だ。
「先生、料理上手だね。今度私も作ってあげるよ」
俺の手料理は結構自信作だ。二人きりの夕食。今日は鶏のから揚げとなめこのみそ汁、そして炊き込みご飯だ。千切りキャベツにトマトを添える。我ながら見た目もおいしそうな出来だな。唐揚げのカリカリ感もいい感じだ。
彼女は風呂上がりなので、Tシャツ一枚に短パンという軽装だ。もっと俺という存在を意識してちゃんとした格好すればいいのに。俺は、意識されていないのか? かわいくみられたいと思える対象でもないのだろうか? そんなことをうだうだ考えながら、いつもみたいに皿を洗っていると、カレンが皿拭きを手伝いながら話しかけてきた。
「おじさんもおばさんも、遅くない?」
「きっと忙しいんだよ。待っている必要ないから。早く自分の部屋で勉強でもしてろ」
「あれ、おばさんからLINEだ。――私もお父さんも出張で2日間帰れないけど留守をよろしくね」
「2人とも出張で帰ってこないの? 2日間も2人っきり?」
カレンは少し驚いて、普段から大きい瞳をさらに丸く大きく見開いていた。
しかも今日は金曜日。土曜日は休みだから――日曜までずっと二人きりだ。年頃の娘を俺の元に置いておいてあいつの親も俺の親も放任な親たちだ。全く無責任にもほどがある。
そして、夕食を食べ、俺は風呂に入る。そのあとが正直怖いような、俺の理性が試されるというか……。2人きりという男にとって最高にうれしいけれど……。なんともおいしいごちそうが目の前にあるが、食べられない状態。
俺は教師でありカレンの担任だ。仕事をクビになるのは困る。しかも相手は17歳だ。俺はまだ犯罪者になりたくはない。そうだ、早く眠ってしまおう。俺は風呂から上がり、邪念を払った。そう、イチ保護者として、あいつを保護している立場ということを俺は肝に銘じた。
俺は髪を乾かさないまま、ダッシュで部屋の中に入る。そしてカギをかけて準備OK。少しほっとしていた。
――振り向くとカレンが部屋にいるではないか!!
「なんで、ここにいる?」
俺は超絶、驚いた。こんなに積極的に男の部屋に入ってくる女子がいていいのか? 俺は健康な男だ。そこのところわかっているのか?
「先生、語り合わない? せっかくだし」
「語り合うことなどない!!」
強く俺は拒んだ。俺の深層にある道徳的な観念がそうさせたのだろう。
「早く、自分の部屋に帰れ」
「別に話すだけなんだからいいでしょ。ケチー」
「二人きりで、誤解されたらまずいだろ」
「誰も見てないし、誤解されることもなにもないよ」
「だいたい、Tシャツ1枚に短パンなんて格好で、23歳の男の部屋に入るなんてどうかしているぞ、野咲」
一応、野咲という名字で呼んでみた。基本学校では名字呼びだ。家でも下の名前で呼んだことはない。心の中ではカレン呼びだったけれど……。
「先生のこと信用しているから。男だなんて意識してないし」
「そりゃ、そうだな。うん、当然だ」
その言葉は妙に説得力があって……。俺は野咲カレンを意識しすぎていたことに、恥ずかしくなった。
俺もTシャツと短パンでラフな格好だった。カレンのTシャツからはブラジャーが透けて見える。見ているわけではなく、見えただけだと心の中で弁解する。長めのTシャツ1枚から長い素足が伸びていた。短パンは短すぎてTシャツに隠れているようだ。
俺は、美少女とベッドの上でどうでもいい話をしていた。なんだか気が合う。一緒にいて波長が合うのだ。人間対人間の付き合いはとても面白い。異性だと意識するからダメなのだと思う。たわいもない、どうでもいい時間を過ごした。人生の中でも、こういったたわいのない時間が一番楽しい時間なのかもしれない。
カレンは美人だが、天然なところがあったり意外と抜けている。抜け目があったほうが人間味を感じる。完壁ではないほうが親近感が持てると思った。俺は、自分の過去の話を彼女に話した。本当は隠しておくつもりだった、少しグレてヤンチャをしていた時の話も素直に話した。自分を知ってほしかったのかもしれない。
同じ年の美人だったら、きっと気後れして話せなかったと思う。恋愛の経験値が俺は同世代に比べたら、かなり低い。しかし年下とならば、経験の少ない俺でも話ができる。話が弾んだ。どれくらい語り合っただろうか。カレンはこうみえても色々悩みもあったり、17歳の女子らしい一面があることがよくわかった。
なんだか眠いな。修学旅行の夜みたいだ。話疲れた俺は、ふと横を見る。俺のベッドの上でカレンが眠ってしまった。かなり無防備だ。俺を信用しすぎだっつーの。そんな警戒心のないカレンをみつめた。やっぱり閉じた瞳のまつげも長くて、人形のようだ。そっと髪の毛を撫でる。髪質がサラサラしていて、グッとくる。
俺のこと、本当に信用してるんだな。子供のような寝顔の彼女に布団をかけようとしたとき、カレンのTシャツがめくれた。白い素肌の引き締まったおなかが見えた。
俺は冗談で眠る彼女の上で、騎乗位みたいな床ドンを再びした。床ではなくベッドだが。何かするつもりはないが、この態勢を見たら犯罪者扱い必至だ。
彼女の髪の毛からシャンプーの香りがした。いい匂いだ。顔を近づけると甘い香りがする。はじめて感じる甘い香りに誘われて、俺は更に近づいておでこにキスをした。彼女は、それには気づかず眠っていた。
俺は少々我慢できなくなり、唇にキスをした。今カレンが起きたらどうしようか? バカみたいにドキドキしていた。彼女が起きてしまって、目の前に床ドン体制の俺がいたら、さすがに訴えられるかもしれない。この子が好きだと思った。本当はダメな気持ちだということはわかっている。でも、食べ物でも何でも好きとか嫌いって自発的に思うものだよな。誰かに言われたからとか、義務で好きだと思うわけではない。
でも、この気持ちは絶対秘密だ。この思いは隠し通す。俺は我に返り、隣で密着しながら横になった。こんなに近くに美少女がいるなんて――夢なのかもしれない。
俺は美少女の横で眠った。何も感じなかったかって? そんなことはない。俺も男としては高揚するものもあったが、グッとこらえた。
それ以上にペットみたいな彼女と一緒に眠ることに快感を覚えていた。いつのまにか眠りに落ちた夜だった。