不器用男子と鈍感女子
リクトとりかは駅に向かって、歩いて帰っていた。
「おまえに告ったの誰だ?」
「同じクラスの委員長の山田くん」
「あのガリベンタイプの眼鏡男子か」
「委員長同士、お似合いかもな」
「そうだよね。やっぱりOKしようかな」
「マジかよ」
「マジだよ」
「……山田と付き合うなら、俺のほうがよくないか?」
「何? その俺のほうがいい男だっていう自慢」
「あなたがモテるのはわかっているけど……別に私たちの間に恋とか愛なんてないでしょ」
「ないのか?」
「全然ないよ」
「……そうだよな」
少し、リクトは黙ってしまった。いつも女子上げトークが得意なリクト。りかに対してはデレたトークはできないのだ。唯一の弱点なのかもしれない。
かわいいね、とか美人だね、とか……りかにだけは言ったことがない。だからりかは嫌われていると思っているだろう。小さいときは、いじめていたこともあったしな。そうしているうちに駅について、電車に乗って二人は並んで座った。
「山田と付き合ったら今までみたいに並んで歩いたりは無理だよな」
「別に、リクトは男としてカウントしてないから大丈夫」
「山田が嫌がるんじゃないか?」
「大丈夫だよ。あんた彼女いるでしょ」
「今は、彼女いない」
「またすぐ別れるんだから。あんたはどう思う? 付き合ったほうがいいと思う?」
「……やめておけ、遊ばれるだけだぞ」
「山田君は良い人よ。リクトとは違うよ」
「男なんてみんな同じだ」
「そうかな?」
「まぁ、おまえに告白する男なんてそうそういないだろうし」
「そうだよね。やっぱり年齢イコール恋人がいない歴脱出のチャンスよね」
りかは自己肯定感が低いらしい。俺の毒舌意見に納得している。本当は結構かわいいほうだし、人気もあるはずなのだが。
実は俺が、りかに告白しようと思っている人がいたら、諦めるようにあの手この手を使って阻止していたのだが……。委員長は表情が読めないし、打合せには顔出しはできないから不意打ちだった。あいつも絞めておけばよかった……後悔の嵐だ。
「やっぱり付き合ってみる」
え……恐れていた答えを出してきたな。俺は幼馴染のりかをずっと独り占めしたかった。自分は色んな女の子に手を出してきているし、彼女も作っているにも関わらず。
「ダメ」
俺は全力で止めた。
「え……? なんで」
この女は超鈍感だ。一度も俺を男としてみたことがない。自分が結構かわいいということにすら気づいていない。しかし、この女と付き合うのは束縛がきつそうで嫌だし……。好きだなんて、死んでも言えないくらいだ。
「彼氏作るの禁止」
命令してみる。
「なんであんたが私の恋路を邪魔するの?」
痛いところ突いてくるな、ひょっとして俺の気持ちに気づいているのか? 鈍感でも気づくよな……?
「おまえをだな、独り占めできないのは、俺が嫌だ」
絶対気づいたよな、今ので。遠回しに言ってみよう。
「ちょっと私のことペットだと勘違いしていない?」
マジで言っているのか? 恋とか愛とか何も感じていないのか? 本当に俺のこと1ミリも異性として意識していないのか? ちょっとショックだ。
「俺って恭介に顔似てるよな?」
「言われてみれば――似てるかな?」
初恋の人と似た人が隣にいるんだぞ。むしろおまえから告白しろ。今なら断らないから、安心しろ。
「やっぱり全然似てないよ。恭介さんはもっと大人で優しいし」
それは中身の問題だろ?
「山田君も優しい人だからやっぱりOKするね」
おい、あの元ヤンと優等生のガリベンと全然別キャラじゃないか!! 感覚大丈夫か? そうだ、さりげない優しさであいつの気を引こう。俺の得意とすることではないか?
「荷物重くないか?」
「この小さなバックしかないから、大丈夫」
しまった! 荷物が多いのは俺のほうじゃないか……。仕方がない。顔接近作戦だ。
「何? もしかしてニキビ痛そうだって見てたでしょ?」
いや、りかは何かが違う。よくある胸キュンポイントに反応しない……。りかは手ごわい……。手を握ってみるか? さりげなくりかの手に触れる。俺の得意分野ではないか。
「手あれひどいのよね。家事全般私が担っているから」
そういう意味ではない……。
電車が揺れる瞬間に肩に手をまわそう。よし、今だ。りかが見上げた。よし、俺のこと意識したよな? 絶対したよな?
「今日のリクト変だよ。たしかに肩は凝っているけど」
こいつは、俺に対して胸キュンしてないし、ときめいてもいない……。
「今日、肩もんでやるから、俺の部屋来るか?」
「何それ、珍しいなぁ」
そうやって誘い込み、部屋で俺の得意分野の床ドンをしなければ。
「今日、これから家の用事があって無理だよ」
「じゃあ明日は?」
「明日、山田君と会うからダメ」
なんだよ、もうデートかよ? 今日、ちゃんと想いを伝えないとりかが彼氏作っちまう。想いを伝えてもフラれる可能性が高いかもしれない……。百戦練磨のリクトも、りかの心はつかめそうもなかった。
恥ずかしくて面と向かって好きなんて言えないし。あんなに他の人には好きって言っていたのに……こいつにだけは言えない、ちくしょお……。駅について、電車を降りるとあとは家に帰るだけじゃないか。時間がなさすぎる。
「山田じゃなくて、俺と付き合う気はないか?」
さりげなく言えたぞ。やった。
「ないよ」
なんだよ、そのあっさり却下は。
「本気でもないくせにからかわないでよ」
からかってないんだけど、超本気だったのに……。
「俺、おまえみたいな彼女も面白いかな、とか」
「ちょうど彼女がいないからって、私への同情は結構です」
「同情じゃなくて……本気ですけど」
やばい、心の声がつい出てしまった。
「いつも美人としか付き合わないあなたが、私と付き合うなんて変よ」
「おまえ、結構美人だと思うけど」
本心を言ってしまった、やばいな。でもこれで、りかだって落ちるよな絶対。
「いっつもブスって言ってたじゃない? 信じられない。今まで彼女何人もいたのに、なんで急に?」
「それは女好きが高じた結果……本命は決まっていたというか……」
じっと俺をみつめた答えは――
「やっぱり山田君と付き合う」
なんでそうなる? リクトはがっくり肩を落とした。




